徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP 45th

病気の治療

medical treatment

脳神経外科の病気:神経膠腫

脳腫瘍項目

脳腫瘍は大きくは脳そのもの(脳実質)から発生するものと脳の外側の組織から発生する腫瘍の2つに分けられます。脳実質に発生する腫瘍は神経上皮性腫瘍と呼ばれ、それには神経膠腫と神経細胞性腫瘍があります。2016年にWHO脳腫瘍病理分類が10年ぶりに改訂されました。大きな変化は遺伝子診断が必要になったことですが、これについて詳しく記載すると紙面を埋め尽くすので控えます。ここでは脳腫瘍の一般的なことについて記載します。
筆者の1994年〜2008年までの執刀例を示します。

まず脳腫瘍で最も多い神経膠腫について述べます。

原発脳腫瘍の約25%を占める神経膠腫

神経膠腫(グリオーマ)の発生は、10万人に20名前後の発生といわれています。脳腫瘍のなかで頻度が高いのは髄膜種と神経膠腫で、ともに原発脳腫瘍の25%前後です。グリオーマは2016年のWHOの定義では、びまん性グリオーマdiffuse gliomaをグリオーマと呼びことになりました。これには、

  1. びまん性星細胞腫
  2. 退形成性星細胞腫
  3. 膠芽腫
  4. 乏突起膠腫
  5. 退形成性乏突起膠腫

─の5つの腫瘍が含まれます。
このグリオーマの診断には、IDHという遺伝子と、1p/19qという染色体の欠失が不可欠とされました。

悪性度が高い星細胞系腫瘍のGrade IV

星細胞系腫瘍は、神経膠腫を代表する脳腫瘍で脳の構成成分である星細胞アストログリアから発生します。びまん性星細胞腫(Grade II)、退形成性星細胞腫(Grade III)、膠芽腫(Grade IV)の3つに分類でき、そのうちGrade IIIとIVが悪性とされ、Grade IVが最も悪性度が高く、かつ発症頻度が高くなります(脳腫瘍の約10%)。Grade IIとIIIは完治がみられることもありますが、Grade IVでは頻度が少なく、筆者が知るかぎり30年以上の生存が得られている方は3人だけです。

びまん性星細胞腫(Grade II)の発症年齢のピークは30~40歳代、退形成性星細胞腫(Grade III)は50~60歳代、膠芽腫(Grade IV)は60歳代が多いです。びまん性星細胞腫は悪性のものは神経線維に沿って進行して大脳半球のものがクモの糸のように脳橋部に進展して島状に発育する場合があります。もともと浸潤性に脳梁を通じて反対側に進展したり(butterfly pattern)、脳室の壁に沿って浸潤したり(subependymal extension)、脳表を囲む髄液に細胞が散らばる髄腔内播種転移(leptomeningeal carcinomatosis)がみられます。脊髄腔まで播種が及び、脊髄を覆うように、まるで刀(脊髄)のさやのように発育します。極めて稀ですが脳表に接する静脈洞に浸潤して肺に転移巣を形成することがあります。 小児がんにおいては白血病が最も多く、次いで脳腫瘍で固形腫瘍としては最も多くなります。15歳未満の脳腫瘍発生頻度は小児人口10万人に対して毎年3.6人です。小児脳腫瘍では神経膠腫が1/3を占めますが、膠芽腫の頻度は成人に比して少なく(1.5%)、星細胞腫(18.6%)、次いで髄芽腫(12%)、胚細胞性腫瘍(10%)の頻度が高くなっています。

症状は、頭蓋内圧亢進症状(嘔気・嘔吐、頭痛)や麻痺などの局所症状をきたします。てんかん発作での発症が30~50%で、10~30%が経過中に発作を起こすといわれています。
治療では、予防的な抗てんかん薬投与は周術期などの特殊な場合を除いて推奨されていません。腫瘍周囲浮腫の治療としては、鉱質コルチコイド作用の少ないデキサメサゾンやベータメサゾネの投与が推奨されます。

毛様細胞性星細胞腫(Grade I)
びまん性星細胞腫(Grade II)

びまん性星細胞腫には

  1. 原線維性星細胞腫fibrillary astrocytoma
  2. 肥胖細胞性星細胞腫gemistocytic astrocytoma(図3)
  3. 原形質性星細胞腫protoplasmic astrocytoma(図4)

─の3つがあります。

原線維性星細胞腫は主に成人大脳半球白質、小児の脳幹部に好発します。肥胖細胞性星細胞腫は大脳半球のみに発生します。原形質性星細胞腫は大脳半球灰白質に発生します。mutationのある肥胖細胞性星細胞腫は悪性転化しやすいといわれています。

年齢、腫瘍のサイズ、神経脱落症状の有無、手術による摘出度、および組織型が予後因子とされています。一般的には全摘出を試みますが、腫瘍が残存しても無理しないほうがいいと思います。生検でも問題なく、経過でさらに増大するようであれば放射線照射を行います。放射線照射は一般的には効果がないといわれています。摘出度と予後に相関関係がないともいわれています。化学療法は一般的に効果があまり見込めません。ほとんどにIDH変異があるとされていますが、それによって治療法が決められているわけではありません。

退形成性神経膠腫(GradeIII)

退形成性神経膠腫はわが国では膠芽腫に準じた治療が行われています。退形成性乏突起膠細胞ではEORTCとRTOGのランダム化比較試験の長期結果が2012年に報告され、放射線+化学療法(PCV;procabazine+CCNU+vincristine)の有効性が示され、特に染色体1p/19qの共欠失グループで示されました。日本ではCCNUの代わりにACNUが使われますが、PCVより副作用の少ないTMZが用いられることも多いです。

神経膠芽腫(Grade IV)

低悪性度神経膠腫が悪性化したsecondary glioblastomaとそうでないprimary glioblastomaに分けられます。これはIDH1、IDH2の変異の有無とよく相関し、IDH1/2の変異のあるsecondary GBMは、一般的に予後はよいですが膠芽腫では少数です(約10%)。

悪性神経膠腫の予後因子としては年齢、術前の全身状態、手術摘出度、術後の状態(働けるか否か)などが挙げられます。
膠芽腫に対する標準治療は可及的摘出後のTMZ併用拡大局所放射線療法です。可及的摘出後の放射線治療(局所60Gy)を行い、期間中TMZを内服し、照射終了後も内服します。
O6-methylguanine-DNA methyltransferase(MGMT)プロモーター領域メチル化症例でのTMZ併用時の有意な生存期間延長が示されています。TMZは放射線療法併用において放射線単独群に勝る効果を示しました。しかし、MGMTプロモーター領域のメチル化(MGMTの活性低下)のない症例では効果が認められていません。メチル化、すなわちこの遺伝子発現が抑制されている症例の効果がよくなっています。

70歳を超える膠芽腫における標準治療は現時点でも術後放射線療法です。メチル化症例についてはTMZ単独療法でも放射線単独に劣らない治療効果が認められました。2013年より術中局所化学療法剤であるcarmustine waferが悪性神経膠腫に対して使えるようになりました。使用にて全例ではありませんが明らかに腫瘍の縮小が認められることがあります。
VEGFの抗体であるbevacizumabは2つのランダム化比較試験が行われ、ともに全生存期間(OS)の延長はなく、無増悪生存期間(PFS)の延長の評価に関しては相反する結果が出ています。確かに使用にて画像上(MRI)の好結果が認められ、造影剤による効果増強の減少やT2画像での周辺高信号の減少はみられますが、生存期間の延長という観点からは効果が認められていません。

神経膠腫の診断

診断では、以下を使っていろいろなパターンを撮ります。

MRI-T1WI, T2WI, Flair, Gd-enhanced MRI(造影MRI),DSA, MR-spectroscopy (MRS), TL scintigraphy, MR spectroscopy-Cho/NAA比、Cho/Cr比

周辺部が造影剤で強く増強効果を受け、中心部の壊死部は低信号を示します(図7)。

退形成性星細胞腫と同じく浸潤性が強く脳梁を通じて反体側に浸潤・進展し、butterfly patternをとることも多いです(図8)。

原発部から線維の走行にそって離れた部位に孤立巣をつくることも少なくありません(図9)。

場合によっては多中心性の膠芽腫像を呈し、多発転移性脳腫瘍のような画像を示すこともあります(図10)。

髄腔内播種も生じやすく脳室近位に発生した場合はsubependymal extensionや脳室内への進展が生じやすく、髄液の流れに乗った部位に孤立巣を形成します(図11)。

また極めて稀ですが松果体部にも神経膠芽腫が発生します(図12)。

その他にも大脳神経膠腫症gliomatosis cerebriという異常に広範囲に正常細胞の間をぬって浸潤している特殊な病態で、2016年のWHO分類からこの名前はなくなりましたが、びまん性グリオーマの範疇に入り、臨床的には極めて悪性でGrade IVに準じます。腫瘍塊は見られず造影剤で増強効果がなく、T2WIで広範囲の高信号を示すのが特徴ですが、稀に腫瘍塊が認められる場合もあります。化学療法の効果がなく、放射線でかろうじて延命期間が延びる程度で、診断から死亡までの期間が神経膠芽腫と同程度で1年数カ月です。

腫瘍摘出後に放射線・化学療法が一般的な治療

悪性神経膠腫の治療は実質内腫瘍に対する治療が一般的で、それから波及した髄膜癌腫症は経過のなかで晩期に問題になります。したがって早期からその対策治療が必要ですが、現在では決められた治療法はありません。

わが国における一般的な悪性神経膠腫の治療は摘出した後、放射線および化学療法(テモゾロミド:テモダール)を行います。しかし、腫瘍の再発率が高く、再発時には一般的には、再手術、放射線再照射、ベバシズマブ(分子標的薬。血管内皮増殖因子阻害薬)投与などが検討されます。ベバシズマブについては、アストロサイトと呼ばれる細胞からVEGFが分泌され血管がつくられますが、通常の細血管よりも血漿成分が漏れやすくこれが血管性浮腫の原因になります。そこで、VEGFによる血管形成を妨げる分子標的薬のべバシズマブが有効となりますが、実際投与すると画像上、浮腫の軽減や腫瘍の縮小を認める程度で、生存日数には影響しないと報告されています。わが国でのみ初発例での適応がありますが、海外では再発例にのみ適応があるにすぎません。金額も月数十万かかり、負担が大きいのが欠点です。また、副作用に注意が必要です。その他の方法として術中にニトロソウレア系抗がん剤でアルキル化剤であるBCNU(carmustine)の徐放剤であるギリアデル(GLIADEL WAFER)を使用する場合もあります。症例によっては明らかな効果を確認できる場合もあります。

中性子捕獲療法の効果が期待されるとの報告も

腫瘍の摘出に際してはアミノレブリン酸によって腫瘍部の境界が示され、摘出度が高くなるとされていますが、false positive、false negativeが存在します。
ワクチン、リンパ球活性化療法、自己樹状突起細胞などの免疫療法がありますが、効果は集学的なデータはなく、効果は未定です。
中性子捕獲療法Boron Neutron Capture Therapyについては、筆者が25歳の若いときから帝京大学の畠中教授と阪大最上教授の共同研究でマウス脳腫瘍モデルを作成して、関東、近畿の原子炉施設で研究してきましたが、当時はボロンの腫瘍細胞への取り込み率が低く、表在性腫瘍にしか効果が少なかった経験があります。最近は取り込み率が高くなり、効果が期待されるとの報告があります。

電場で腫瘍細胞の増殖を抑えるNovoTTF-100Aシステム

NovoTTF-100Aシステム(Novocure’s OPTUNE)は、新たな神経膠芽腫に対する治療機器としてわが国で2016年12月に初発および再発神経膠芽腫の治療として認可されました。保険収載され、1カ月150万円程度の医療費がかかります。頭皮に電場をつくり出す粘着性シートを貼り付け、腫瘍治療電場(Tumor Treating Fields、TTフィールド)とよばれる電場を発生させ、腫瘍細胞の増殖を抑える治療機器です。
TTFは微弱な中間周波の交流電場であり、広くは電磁波として放射線と同じ枠に分類されるものです。米国のNovocure社は、2013年1月22日、NCCN(NationalComprehensiveCancerNetwork)の中枢神経系癌臨床ガイドラインに、同社 の「NovoTTF」が新たな治療の選択肢として記載されたと発表しました。

放射線壊死は再発との鑑別が困難

放射線壊死は、放射線治療を受けてから数カ月から10年の幅で生じてきます。しかし、腫瘍の再発との鑑別が非常に難しく、確実な鑑別方法はありませんが、メチオニンMet-PETで取り込みが認められると再発と診断できることが多いです。放射線壊死の本体は凝固壊死ですが、それに伴って生じる反応性星細胞reactive astrocyteからの多量のVEGFが血管透過性 vascular permiabilityを更新させ、高度な組織間浮腫が生じます。これが、放射線壊死がもたらす広範浮腫の原因です。以前はステロイドがメインの治療薬でしたが、glioblastomaの治療に使われる血管内皮増殖因子阻害薬ベバシズマブが有効なことがわかってきました。しかし、高額な負担がかかるのが問題です。

初期治療抵抗性あるいは再発悪性神経膠腫に対する治療の試み

悪性神経膠腫で初期の放射線化学療法に効果がなく早期増大傾向を示すものや、再発をきたした例には明らかに効果的な治療法が確立されていません。特に脳への過度な治療は直ちに日常生活度の低下に直結するために、治療法が制限されます。そのようななかでいろいろな治療法を開発してきたのでその一端を提示します。

  1. Etoposide,Cisplatinを用いた超選択的動注療法
    • Nakagawa H., et al. Surg Neurol 41:19-27, 1994
    • 中川秀光他、癌の臨床 39:1715-1720、1993
    • 中川秀光他、脳神経外科 22:35-42、1994

    マイクロカテーテルを腫瘍栄養血管の末梢まで届けて、まずetoposideを投与して脳血液関門を修飾して水溶性抗がん剤が脳内に取り込まれやすいようにしてからCDDPを投与する方法です。両者併用効果も相まって治療法のない再発悪性神経膠腫の治療として、また初発の腫瘍の消失などが得られました。

  2. 腫瘍腔あるいは切除腔へのFdUrdの投与治療
    • Nakagawa H., et al. Jpn J Clin Oncol 31: 251-258, 2001

    腫瘍切除腔に留置したオンマヤ装置を通じて筆者が米国特許を習得したFdUrdの投与で効果が得られたのを報告しています。

  3. rIL2の選択的動注と水溶性制がん剤の併用治療
    • Nakagawa H., et al. 97th AACR, 2006

    ラットのENU誘発脳腫瘍に対して頸動脈からrecombinant IL2を投与することによる抗腫瘍効果を動物用CTを使用して示したもので、この結果をもって倫理委員会の承諾を得て臨床応用したものです。明らかな腫瘍消失効果を認められましたが、現在財政的な問題のために続行を断念しています。

  4. マイクロマルチリーフ療法(定位的放射線療法)
    • Nakagawa H., et al. 96th AACR, 2005; ICACT,2006,Paris; ECCO 15/ESMO 34,2009、Berlin
  5. 酪酸ナトリウム:Sodium Butyrate (NaB)の持続腫瘍腔あるいは髄腔内投与療法
    • Nakagawa H., et al. 97th AACR, 2006

    酪酸ナトリウム(NaB)は自然界に存在する単鎖脂肪酸でin vitroで濃度依存性に殺細胞効果と、またWalker 256細胞やヒトA-172神経膠芽腫細胞での浸潤抑制効果を示しました。また、初代神経培養および星細胞培養にて極めて少ない毒性を示しました。
    正常ラットおよびラット癌性髄膜炎モデルでNaBの持続髄腔内投与で同様の効果を示しました。これらの結果より、NaBの髄腔内あるいは腫瘍腔内の持続投与は悪性神経膠腫ならびにがん制髄膜炎のよい治療法になることが示されました。これらのデータを持って倫理委員会の許諾を得て、再発および初期治療に抵抗性の進行性悪性神経膠腫に対して持続髄腔内療法を施行し、27例に対して画像上78%のresponse rateと明らかな生存期間の延長(PFS, OS)を認めました。現在、この治療は徳洲会倫理委員会に再度提出予定であり、その結果を待って再度治療を遂行予定です。

  6. Y-27632の髄腔内投与による髄腔内播種癌細胞の浸潤抑制—抗がん剤による髄腔内治療との併用効果
    • Nakagawa H., et al. Mo Cancer Res 3:425-33,2005

    Y-27632の投与によるがん細胞浸潤抑制効果に髄腔内投与化学療法を併用することによる効果をみたもので、近い将来、徳洲会倫理院会にその臨床応用を申請する予定です。

現在、5番目の「酪酸ナトリウムの持続腫瘍腔あるいは髄腔内投与療法」が非常に期待できる治療法で、腫瘍の進展抑制効果判定上27名の再発あるいは初期治療に抵抗を示した悪性神経膠腫に対して78%の効果を認め、組織学的にも腫瘍部の退行変性が著明に認められています。改良を進めることによって十分な効果が期待できると考えます。

神経膠肉腫Gliosarcoma

神経膠肉腫は、神経膠芽腫と肉腫が混在した混合腫瘍です。すなわち肉腫のcomponentをもった神経膠芽腫ということになり、極めて稀です。側頭葉に好発し、治療は神経膠芽腫と同様で、腫瘍切除をいかに最大限できるかが予後に影響します。治療の結果は神経膠芽腫よりも劣るとされています。

低悪性度神経膠腫(Grade I, II)

Grade IとIIの星細胞腫、乏突起神経膠腫、乏突起星細胞腫を合わせてlow-grade gliomas(LGG)といわれてきました。最近ではこのような表現は正しくないといわれていますが、今なお使用されているのでこのままLGGと表現します。

LGGにおいては年齢、腫瘍の大きさ、神経学的脱落症状の有無、手術による摘出度、組織型を予後因子とします。

LGGに対する術後放射線療法のPFSは5.3年、放射線待機群では3.4年で術後放射線療法によってPFSが有意に延長しますが、全生存期間(7.4年と7.2年)では差がありません。放射線治療の合併症等の点から照射時期についてはまだ合意がありません。

脳幹神経膠腫は、小児の橋に好発し、1年生存率は50%以下です。分化度の低い退形成性乏突起膠腫でも5年生存率70~80%が期待できます。
びまん性星細胞腫は、手術+放射線療法(局所50~56Gy)が標準治療です。5年生存率は50~70%で、90%は15年以内に腫瘍死します。
上衣腫は小児期に多く、全摘出と放射線療法が原則。化学療法の感受性は低いです。

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