徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP 45th

病気の治療

medical treatment

脳神経外科の病気:脳腫瘍に対するトモセラピーを用いた高精度放射線治療

強度変調放射線治療で複雑な腫瘍の治療可能に

最近の放射線治療技術の進歩は著しく、患者さんの生命予後のみならず、質的予後の改善をももたらしています。 2008年春の診療報酬改定で、強度変調放射線治療(intensity modulated radiotherapy)が保険適用となりました。これにより脳腫瘍のみならず、がん治療に占める放射線治療の重要性がますます認識されるようになりました。

一般に高精度放射線治療とは、定位放射線照射、強度変調放射線治療(IMRT)など、コンピュータ制御下に病巣部を狙い撃ちする治療法を指します。
定位放射線照射は、ガンマナイフの導入により開始され、数多くのすぐれた治療成績が報告されています。AVMを始め、脳腫瘍としては転移性脳腫瘍ばかりでなく、聴神経腫瘍、髄膜腫、下垂体腫瘍など良性脳腫瘍をも対象としています。ガンマナイフでは、病巣が大きくなると、不整形のターゲットに対しては、複数のisocenter(アイソセンター:腫瘍の照射の中心点)を使うことになり、照射野のoverlapのため標的内部の線量は不均一になる欠点があります。また、標的周囲の正常組織に高線量が照射される危険性も高く、正常細胞と腫瘍細胞が混在する悪性神経膠腫では適さないと考えられています。これに対して、最近のリニアックによる定位放射線照射ではマイクロマルチリーフコリメータ(mMLC)を用いることにより、リーフというビームの絞りを腫瘍の形に合わせることで、不整形のビームを照射することが可能となり、1つのアイソセンターでも均一な線量分布を得ることができるようになっています。

一方、強度変調放射線治療IMRTは、ビーム内の強度を変化させることにより、より複雑な不整形腫瘍にも治療が可能となり、周囲正常組織への線量を確実に抑えることができる画期的な放射線治療技術です。ビーム強度の変化はmMLCを用いて行い、その変化をコンピュータで制御することで最適な照射野を形成しています (図2) 。IMRTは正常組織への線量低下に優れていますが、治療計画ならびに検証作業(治療精度の確認)の煩雑さと治療時間の長さ等の問題があります。

筆者の病院(野崎徳洲会病院)では、原発性脳腫瘍の術後補助療法および転移性脳腫瘍の治療として、トモセラピーを用いた放射線治療を行なっています。トモセラピー(TomoTherapy)とは、ヘリカル回転式のIMRT専用装置です(図1)。小型の直線加速器が搭載され、患者さんの周りを回転し、ベッドがスライドしながらヘリカルCTの原理で位置照合と治療を行います。治療計画・位置決め・検証・照射の各プロセスを一つに統合した新しい放射線治療システムです1),2)。2005年8月に本邦へ導入(帯広市の北斗病院)され、現在は全国22病院で稼働しています。

治療適応としては、頭頚部がん、前立線がんへの応用が早期より行われていましたが、当院では、悪性脳腫瘍(悪性神経膠腫や悪性リンパ腫)に対してよい適応と考え使用しています。また、ガンマナイフと同様、転移性脳腫瘍、成人良性脳腫瘍(聴神経腫瘍・髄膜腫・下垂体腺腫)など、定位脳照射の適応となる頭蓋内病変に対しても用いていいます。

放射線治療の実績─脳腫瘍は全体の2割

当院では2011年10月よりトモセラピーが稼働し、2016年末までに総数753例の患者さんが治療を受けました。2015年までの632例のまとめでは、その対象は、脳腫瘍の他、頭頚部がん、前立腺がん、大腸がん、乳がん、肺がん、骨転移など多伎に及んでいます (図3)。

上記期間における脳腫瘍に対する放射線治療の総数は130例であり、全治療数の約20%に上ります。その内訳は、神経膠腫と転移性脳腫瘍で約75%と大半を占めています。次いで、悪性リンパ腫や髄膜腫も各10%程度加療されています。症例数は少ないが、胚細胞腫瘍germinoma(3例)、脊索腫、聴神経腫瘍、頭蓋咽頭腫(各々1例)も含まれていいます(図4)。

当院における疾患ごとの治療例

それではトモセラピーを使った治療例をみていきます。

神経膠腫

55例(41.6%)に対して治療が行われました。その内訳は図5のとおりです。WHO Grade1〜2グリオーマ(diffuse astrocytoma、oligodenndroglioma、optic glioma)が11例(20%)、anaplastic astrocytoma(Grade3)が20例(36.4%)、glioblastoma22例(40%)、ependymoma(Grade2~3)が2例(3.6%)でした。
当院では、WHO Grade≧3のadovanced gliomaの症例に対しては、造影される腫瘍部分(PTV1)に72Gy(2.4Gy/回)、周囲のT2高信号領域(PTV2)に60Gy(2.0Gy/回)、そのmargin+20mm領域(PTV3)に48Gy(1.6Gy/回)の照射を30回/6週かけてSIB-IMRT法にて施行しています。その間は原則TMZ(75mg/㎡)を用いた化学療法を併用しています。図6に著効例を示します。WHO Grade2のdiffuse gliomaに対しては、基本50Gy/25回の照射を行なっていますが、病理的にあるいは画像上、Grade3の要素が疑われるときは60Gy/30回の照射を行う場合もあります。

転移性脳腫瘍

43例(32.8%)の転移性脳腫瘍に対して治療を行いました。組織型としては、肺がん、乳がん、大腸がんで約80%を占めています(図7)。当院では、トモセラピーの特徴を生かした定位放射線治療を施行しています。全脳照射については局所再発や頭蓋内新規病変の出現を予防するとの観点より、30-40Gy/10-20回の照射を行なっています。また、トモセラピーでは、全脳照射に加えて、腫瘍部分に同時ブーストを行うことが容易にでき、全脳40Gy/20回+残存腫瘍50Gy/20回(腫瘍部分にブースト10Gy)などの照射を行っています。大部分の症例において腫瘍の増殖制御は良好です(図8)。

悪性リンパ腫

13例の悪性リンパ腫の患者さんに対して放射線治療が施行されました。いずれも初期治療として放射線治療を選択された方です。トモセラピーによるIMRTによる治療では、GTV(MRIまたはCT上造影を受ける部分)で、CTVとしてMRI T2延長部分(浮腫)とします。PTVを、PTV1;CTV+3㎝、PTV2;whole brain+3㎜としています。線量はD95としてPTV1に対して40Gy/20fr、PTV2に対して30Gy/20fr/4Wとしています。悪性リンパ腫は治療中に著明な縮小を認める場合があり、途中で評価して照射野を狭い範囲に絞る場合もあります。こうした放射線治療のみで、ほぼ全例にPR以上の治療効果が認められました(図9)。悪性リンパ腫は病理診断確定後急速に増大する例が多く、早急な治療開始が必要です。最近は放射線による晩期障害も考慮し、標準治療とされる、メトトレキセートの大量療法を3〜5コースを先行して行い、その後に放射線治療(全脳照射30〜45Gy)を行う方針としています。

髄膜腫

12例の髄膜腫症例に対して放射線治療が施行されました。そのうち5例は病理的に異型〜退形成性髄膜腫と診断された症例です。残りは、海綿静脈洞部、小脳橋角部、大孔部など、手術治療に勝ると考えられた症例です。前者に対しては、60Gy/30fr、後者に対しては50〜60Gy/25〜30frでの照射が行われました。治療効果については現在フォロー中ですが、異型髄膜腫において有効例もみられています。

germinoma

3例のgerminomaの患者さんに対して放射線治療を施行しました。両側基底核、視床が各1例、松果体部germinomaの再発で髄腔内転移をきたしたもの1例です。前2者においては、全脳室にて1.8Gy/dayで27Gy照射後に松果体部に18Gyの照射を行い、合計45Gy/25frとしました。後者は再発であり、すでに化学療法CAREx3回、ICE療法x4回施行されており、また全脳室に対してIMRTが24Gy/12fr施行されていました。この例に対しては髄腔内播種床に2Gy/fr、全脊髄1.5Gy/fr、全脳1.5Gy/frで計21Gy/14frとしました。

その他の腫瘍

頭蓋咽頭腫、下垂体腺腫、聴神経鞘腫、脊索腫、血管周皮腫がおのおの1例含まれていました。下垂体腺腫は海綿静脈洞内への浸潤部分に対して54Gy/27fr照射しました。血管周皮腫については、過去数回の手術歴のある患者さんが再発を繰り返していましたが、60Gy/30frの照射後、腫瘍の再増大はみられず良好な腫瘍制御ができています。

脳腫瘍の放射線治療は劇的に変貌

高精度放射線治療の登場により脳腫瘍の放射線治療は大きな変貌を遂げました。以下、代表的な脳腫瘍について強度変調放射線治療(IMRT)の果たす役割について考察します。

悪性神経膠腫

強い浸潤性格を有する悪性神経膠腫は定位放射線照射の適応にはなりません。日本放射線腫瘍学会の放射線治療計画ガイドライン2008では、照射野として腫瘍と周囲脳浮腫に2㎝のマージンを加えることで浸潤腫瘍に対応するよう勧められています7)。 通常の放射線治療では照射野として必要な範囲以上の正常組織に高線量の照射が加わることとなり、これを避けるためにIMRTが用いられています。IMRTは照射野内に意図的に線量勾配をつくることが可能です。このような照射方法は標的体積内同時ブースト(SIB;simultaneous integrated boost))法とよばれています。通常30分割を用いていますが、腫瘍塊の部分は1回2.5Gy、腫瘍の周辺部分までは2Gy、腫瘍から3-4cmマージンの部分までは1.7〜1.8Gyとし、それぞれに対して計51〜75Gy程度の照射を行うことで腫瘍部分の線量を高めています。有用性の判断には至っていませんが、悪性神経膠腫では1回線量を上げることで治療効果が上がる可能性が指摘されており、期待される放射線治療と思われます。

転移性脳腫瘍

転移性脳腫瘍の多くは辺縁明瞭で周囲組織への浸潤傾向が少なく、比較的小さい時期に発見されることも多いため、定位放射線照射のよい適応となっています。全脳照射は、頭蓋内の新規病変の出現と病巣辺縁よりの再発対策として併用されてきましたが、Flickingerらは全脳照射により局所制御率は向上するものの、生存期間の延長はもたらさないとしています。Sneedらは、定位放射線治療後に新規病変が出現した際に、全脳照射を追加することを提唱しています。

また、転移性脳腫瘍は、分割照射により照射線量が増大できることや、病巣が大きい場合、リスク臓器に近接している症例、標的臓器が著しい不整形の場合などはSRTの良い適応になると考えられています。また、最近は診断や治療法の進歩により、数年以上の長期生存例が増加しており、緩和的放射線治療の必要性が増しています。今後は高い線量による、より効果的なRadical Palliationの必要性が増し、局所制御率の向上にSRTが寄与する可能性が考えられています。

悪性リンパ腫、germinoma胚腫

いずれも、化学療法と放射線治療をうまく組み合わせて治療することが重要です。悪性リンパ腫は放射線感受性が高い腫瘍であり、初期治療としての放射線治療の奏功率は60%と有効です。しかし、放射線単独治療でのMSTは10〜18カ月程度とされ、さらに照射野内にしばしば再発を生じることから、多くの場合、放射線単独の治療では困難です。また、高齢者に多いことから、再発以外にも遅発性神経毒性、白質脳症の発生率が高まり進行性認知症の合併によってQOLが著しく低下することが問題となっています。

こうした点よりわが国における中枢性悪性リンパ腫の標準治療はメトトレキセートの大量療法を3〜5コースを先行して行い、その後に放射線治療(全脳照射30〜45Gy)を行うものとされています。メソトレキセートを先行させるのは、白質脳症は化学療法と放射線治療の組み合わせによって起こると考えられており、先行する化学療法を強化することで放射線治療を最小限にとどめ、脳障害を少なくするためです。
germinomaは脳にできる胚細胞性腫瘍の70%を占め、化学療法(ICE化学療法など)により必ず小さくなりますので、それから放射線治療を行います。浸潤性腫瘍なので、ガンマナイフなどの定位放射線治療で治療すると放射線がかかっていない場所から高率に再発するため、原則全部の脳室をカバーできるような全脳室照射WVI(whole ventricle irradiation)を行います。標準線量は24Gy/12fr〜25.2Gy/14frとされています。

成人良性脳腫瘍(聴神経腫瘍・髄膜腫・下垂体腺腫)

これらの良性脳腫瘍にも高精度放射線治療の適応があるとされ、特に3㎝以下の聴神経腫瘍の場合には放射線治療が第一選択ともいわれています。最近は、SRTを用いて、大きい腫瘍やリスク臓器に近接する症例にも治療適応が拡げられています。しかしながら、SRTにおける至適な分割回数と線量に関するデータはほとんどなく、長期成績のデータが存在する1回線量2Gyを用いた多分割によるSRTを行っているのが現状です。

脳放射線壊死は避けて通れない課題

IMRTや定位放射線治療などの高線量放射線治療により、悪性腫瘍の生命予後は確実に改善していますが、高線量放射線治療の宿命として脳放射線壊死は避けて通れない大きな問題となっています。最近は、抗VEGF抗体であるベバシズマブ(アバスチン)が放射線壊死に有効であることが明らかにされ10)、PETなどの検査により放射線壊死が疑われた症例で使用されるようになり、当院でも著効例を経験しています。(図11)

一方、トモセラピーを用いたIMRTによって、新しい脳への照射法が開発されてきている。海馬への線量を落とした全脳照射(海馬回避全脳照射HS-PCI;Hippocampus sparing PCI:)11)や、神経幹細胞を温存するためのIMRT/定位照射などです。全脳照射後に高い頻度でみられる認知症は大きな課題でしたが、海馬や神経幹細胞領域への線量を軽減することにより、安全に全脳照射が施行できるようになる可能性があります。

参考文献
1) Mackie TR, et al: Tomotherapy: a new concept for the derlivery of dynamic conformal radiotherapy. Med. Phys., 20: 1709-1719,1993
2) 芝本雄太、小田京太、杉江愛生、三村三喜男:ハイテク放射線治療装置トモセラピーの概要と最新動向。現代医学54:461-466,2007
3) 芝本雄太:脳腫瘍に対する新しい高精度放射線治療 Neuro-Oncology 20(1),2010
4) 幡野和男、成田雄一郎、秋山芳久ほか:IMRTの臨床応用 現況と展望。日本放射線技術学会雑誌 57(5):516-522,2001
5) 池田 潤:脳腫瘍治療における高精度放射線治療の役割 脳神経外科速報19(1):52-59,2009
6) Nakamatsu K,Suzuki M, Nishimura Y,et al:Treatment outcomes and dose-volume histogram analysis of simuitaneous integrated boostmethod for malignat gliomas using intensity-modulated radiotherapy. Int J Clin Oncol 13:48-53,2008
7) 日本放射線科専門医会・医会:放射線治療計画ガイドライン2008。メディカル教育出版社、埼玉、2008
8) 青山 英史:転移性脳腫瘍に対する放射線治療の役割 脳外誌16(11):828-832,2007
9) 宮武 伸一:悪性脳腫瘍に対する最新放射線治療とその成績 -放射線治療における外科治療の役割- 脳外誌19(12):899-906,2010
10) Glantz J, Kumar AJ, Conrad CA et al:Effect of bevacizumab on radiation necrosis of the brain. Int J Radiat Oncol Biol Phys 67:323-326,2007
11) Tomas K:Why and how to spare the hippocampus during brain radiotherapy:the developing role of hippocampal avoidance in cranial radiotherapy Radiation Oncology 9:139,2014
 

PAGE TOP

PAGE TOP