病気の治療
medical treatment
medical treatment
内視鏡は皆さんご存じだと思います。脳神経外科の分野においても、内視鏡が使用されるようになってきました。技術的に難しくなりますが、低侵襲となったり、病変に到達しやすくなったり、対象に近接するため視覚的に判断材料が増えたりと、威力を発揮する場面があります。下垂体腫瘍、脳内出血、水頭症、脳室近傍の腫瘍などがそうです。ここでは代表例をいくつかご紹介します。
下垂体という、頭蓋骨のほぼ中心、眉間の奥7cmくらいに位置する、脳からぶら下がっている小指の先端もないくらいの大きさの器官があります。この場所に腫瘍が発生し、視野やホルモン異常をきたすと手術が必要になってきます。
手術の進入経路は頭側からと鼻側からの2通りあり、ハーディーの手術と呼ばれる、鼻側からの手術が一般的でした。上唇をめくり、上の歯茎を切開し、鼻腔粘膜を剥離して下垂体に到達する手術です。この方法の欠点は、腫下垂体部の上方と側方の視野が得られないことです。そのため、上方・側方は手探りで掻き出す処置をすることになり、視覚的に腫瘍の取り残しが判断できませんでした。
近年、“経鼻内視鏡手術”が行われるようになっています。鼻の孔から最小の粘膜の剥離のみで下垂体に到達し、上方・側方も見えるため、直視して徹底的に腫瘍摘出を行うことができます。また術後の鼻周辺の疼痛・違和感も、剥離する粘膜が減ることで減少しています。
脳内出血は、多くは高血圧が原因で脳の中を走っている血管が破たんし、脳内に出血の塊(血腫)をつくります。血腫が大きくなると、大切な脳幹の圧迫が強まり命にかかわるため、血腫を取り除く必要が出てきます。一般的には、開頭術といって、頭を開けて血腫を摘出、止血する手術を行います。しかし、内視鏡を用いると、頭蓋骨に小さな穴を開け、そこから血腫内に内視鏡を入れて血腫を摘出することで、低侵襲に手術時間も短く終えることができます。
<症例1> <症例2>
透明な筒を血腫に挿入し、寒天状の血腫を吸引していきます。
脳の中には、脳室といって髄液をためる部屋があります。普段は、産生量と吸収される髄液が一定に保たれていますが、髄液の通り道が腫瘍や血腫で狭窄すると脳室に髄液が余分にたまり脳を圧迫しはじめます。こうしたタイプ(閉塞性)の水頭症には、従来の脳室腹腔短絡術といって、脳室からおなかにチューブを植え込む手術をしなくても、内視鏡手術で脳の中のある薄い膜に穴をあけ、髄液の新たな通り道をつくることで治療できます。
青い部分が脳室です。赤矢印の通り道で内視鏡を入れ、右の写真の薄い膜に穴をあけることが治療となります。
脳腫瘍のなかには、開頭術で到達するには非常に大変ですが、脳室の中からは到達しやすい場所があります。脳腫瘍はいきなり全摘出を目指すのではなく、まず生検といって、腫瘍の一部をつまんできて病理診断をつけてから次の手を考えたほうがよい場合もあります。このようなときに、わざわざおおがかりに開頭術で腫瘍の一部つまんでくるより、内視鏡手術で行うほうが、はるかに負担が軽くなります。下の症例は、大掛かりな手術をすることなく、内視鏡にて腫瘍生検を行い、放射線治療で腫瘍を消失することができました。
<症例1> <症例2>
以上、脳神経外科領域における内視鏡手術の代表例をご覧いただきました。低侵襲でよいことづくめであればいいのですが、独特な術野、止血のしづらさなど難しい面もあります。ケースバイケースで、バランスの取れた治療方針を立てることが最も安全確実ですので、主治医とよく話し合って治療法を選んでいただければと思います。