病気の治療
medical treatment
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てんかんとは慢性の疾患で、大脳の神経細胞が過剰興奮するため、発作が2回以上反復性に起こるものです。突然発症の意識障害、運動・感覚異常が生じ、明らかなけいれんがあればてんかんの可能性が高いといえます。大脳の神経細胞は規則正しく協調された電気信号にて活動しています。しかし、激しい電気的な乱れ・過剰興奮が生じるとてんかんを発症します。
症状としては、ひきつけ、けいれん、ぼーっとする、ピクつき、意識を失ったまま動き回る(自動症)、視覚障害、感覚障害、腹部違和感、精神症状などさまざまであり、大脳の神経細胞のどの範囲に過剰興奮が起きているかによって多彩な症状が現れます。
十分な病歴と発作の現場を目撃することがてんかんの診断に最も有効です(Evidence レベルII;以下EvidenceレベルをEと表記)。てんかんと診断するためには少なくとも2回以上の発作を要します(GradeB)。しかし、初回発作で全般強直性発作であると確診された患者さんの既往歴にミオクロニー発作、欠神発作、単純/複雑部分発作がある場合、1回の発作でもてんかんと診断できます(E-Ⅲ)。
問診内容は以下のような内容です。
てんかん発作型の分類には、国際抗てんかん連盟 ILAEの分類が用いられます。患者さんへの対応、検査、抗てんかん薬の選択、外科的治療の選択にこの分類は不可欠となります。
突然発症の意識消失でER受診される患者さんは、神経調節性失神/心因性非てんかん発作が40%と多く、てんかんは29%、心原性失神が7%とされています。失神の特徴は、発作後に意識変化、疲労、倦怠感を伴いません。
熱性けいれん、良性乳児けいれん、軽症胃腸炎関連けいれん、心因性発作の一部、急性代謝障害、持続したチアノーゼ性憤怒けいれん
憤怒けいれん、神経調節性失神、心因性発作の一部、急性代謝障害の一部、熱性けいれんの一部
睡眠時ミオクローヌス、心因性発作の一部
夜驚症/夢遊病、心因性発作
病歴・症候・発症年齢・脳波により鑑別される場合が多いです。しかし、熱性けいれん、良性乳児けいれん後期、急性代謝障害の一部では脳波にててんかん発作波を示す場合があるので注意が必要です。
診断のための検査は以下のとおりです。
睡眠賦活脳波はてんかん放電の出現頻度をあげると同時に、正常脳波を静めることで放電を読影しやすくします。
CT、MRI
特に終夜脳波検査による発作型より前頭葉てんかん、側頭葉てんかんなどの発作型が確定することが重要です。
光刺激によって発作が出る光感受性てんかんの診断には、脳波検査の光刺激で光突発反応Photoparoxysmal response; PPRの出現が診断に必須です。脳波でPPRがある場合、光感受性てんかんPhotosensitive epilepsy;PSEとなります。偶然、脳波検査を受けるまで光感受性体質に気づかない潜在的な光感受性者もいます。光感受性てんかんの頻度は5~24歳、4,000人に1人ほどの割合です。遺伝的要素が高く、けいれんを伴う強直間代発作。
短時間の衝撃様筋収縮が突然起き、時に全般化します。意識消失はありません。特発性全般てんかんの5~10%を占めます。小児期から若年期に発症し、その他、以下のような特徴があります。
原則として、孤発発作(初回発作)では抗てんかん薬を用いず、2回目の発作から抗てんかん薬治療をはじめます。しかし、神経学的異常、脳波異常、てんかん家族歴ある場合は、治療開始を考慮します。高齢者65歳以上での治療開始は、初回発作後の再発率が高くなります(66~90%)。初回発作の5年以内の発作出現率は約35%、2回目の発作後の1年以内の再発率は73%です。治療開始までの発作回数が21回以上と20回以下では、以下のとおり治療開始後の発作抑制率に有意差があります。
21回以上では、37%が再発。
20回以下では、29%が再発。
そのため、2回目以降の発作からなるべく早く薬物療法を導入すべきです。
後発医薬品への切り替えについては、発作抑制できている場合、切り替えは推奨されません。先発・後発の治療的同等性を検証した質の高いエビデンスがないからです。切り替えに際し、発作の悪化、副作用の出現も報告されています。
バルプロ酸に次いで
※カルバマゼピン、ガバペンチンでミオクロニー発作、欠神発作は増悪するため、特発性全般てんかんには使用しません。ベンゾジアゼピン系薬物やLennox-Gastaut Syndromeで強直発作を増悪させます。どの抗てんかん薬にもみられますが、バルプロ酸は催奇形性、新生児IQ障害がE-1で挙げられています。
進行性ミオクローヌスてんかん症候群 Progressive Myoclonus Epilepsy;PME(Unverricht-Lundborg病)ではPhenytoinにて発作抑制はされますが、生命予後が悪化するという大規模研究があり(E-2)、小脳失調が顕著に悪化します。
2~5年後の発作消失後に抗てんかん薬の減量を考慮します。ただし、若年ミオクロニーてんかんでは再発率が高いです。
抗てんかん薬は、抗不安作用、躁状態抑制効果を持つGABA作動性薬剤と、抗抑うつ作用、不安誘発作用のあるグルタミン酸系抑制薬剤に大別できます。
バルビタール酸、ベンゾジアゼピン系、バルプロ酸、ガバペンチン、トピラマート
ラモトリギン、レベチラセタム
ゾニサミドには両効果がある
バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギン
※エトスクシミド、ゾニサミド、プリミドン、高用量フェニトイン、トピラマートは急性精神症状を惹起することがあります。ベンゾジアゼピン系抗てんかん薬は、離脱時に急性精神症状を起こすことがあります。抗てんかん薬によるものとしては、フェノバルビタールによるうつ状態、精神機能低下や、エトスクシミド、カルバマゼピン、クロナゼパム、ゾニサミド、バルプロ酸によるうつ状態、クロバザムによる軽躁状態になることがあり、注意が必要です。
抗てんかん薬は、抗不安作用、躁状態抑制効果を持つGABA作動性薬剤と、抗抑うつ作用、不安誘発作用のあるグルタミン酸系抑制薬剤に大別できます。
バルプロ酸、フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、ベンゾジアゼピン系
ガバペンチン、レベチラセタム
トピラマート、ラモトリギン
バルプロ酸、カルバマゼピン
フェニトイン、カルバマゼピン
フェノバルビタール、ゾニサミド、カルバマゼピン
バルプロ酸
低アルブミン血症者でのフェニトイン作用は上昇します。
①カルバマゼピン ②ラモトリギン ③レベチラセタム ④ガバペンチン
①レベチラセタム ②ラモトリギン ③ガバペンチン
①ラモトリギン ②バルプロ酸 ③レベチラセタム ④トピラマート
てんかん閾値を下げる薬物としては、以下のものが挙げられます。
難治性てんかんの定義は、適切な抗てんかん薬を2~3種類以上の併用かつ十分量で、2年以上治療しても、発作が1年以上抑制されず、日常生活に支障をきたす状態をいいます。
社会的難治性てんかんの定義は「適切な薬物治療によっても2年以上の発作抑制が得られない場合」です。通常の薬物療法での抗てんかん薬の抑制率は、1番目の抗てんかん薬で47%、2番目で13%、3番目もしくは2剤以上の併用では4%のみです。したがって、2種類以上の薬物療法で発作抑制が認められない場合は難治性です。外科的治療の適応基準は、薬物療法下で平均月1回以上発作があり、日常生活に支障をきたしている場合です。道路交通法では発作が2年間抑制されなければ免許がとれません。また、年に2回以上の複雑部分発作があれば精神障碍者保健福祉手帳の2級が該当します。
成人てんかんでは、海馬硬化を伴う側頭葉てんかんが最も難治です(薬物治療にて1年以上発作が抑制されたものは11%)が、選択的海馬扁桃体摘出術、側頭葉海馬扁桃体切除術などによる手術成績は治癒率85%と良好な治療成績となっています。
画像検査上では脳血管障害、脳形成異常、腫瘍、海馬硬化、脳炎・脳症後、全身性疾患を調べます。歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症Dentatorubral-pallidoluysian atrophy;DRPLAによる症候性全般てんかん、Lennox-Gastaut syndromeなどの小児期発症で成人までに抑制できなかったてんかんは、難治性になりやすくなります。
適切な抗てんかん薬を2~3種類を十分な血中濃度で2年以上治療しても発作が1年以上抑制されないてんかんに対しては、外科的治療を考慮します。
国際抗てんかん連盟ILAEの脳外科委員会は、小児では発達の遅れが生じるため、罹患2年以内の手術を考慮する。てんかん発作消失や、それに伴うQOL改善以外にも、小児では、精神運動発達が改善されることが知られています。また、知的障害や精神的障害の存在は外科適応の除外基準にはなりません。発作回数が少なくても、脳内病変を伴う症候性てんかん、転倒などの外傷のおそれのあるてんかん、仕事など社会生活上不利が起こるてんかんも手術を考慮します。ただし、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症DRPLAなどの遺伝子異常による症候性てんかん、進行性疾患による症候性てんかんは手術対象となりません。
海馬硬化(hippocampal sclerosis; HS)を有するMTLE-HSは、最もよい外科治療の適応であり、有意な発作消失が見込まれます。破滅型てんかんCatastrophic epilepsyのなかには片側半球の広範な病変による部分てんかんがありますが、乳幼児期に発症して、薬剤抵抗性で精神運動発作の停滞や退行が惹起されることから、早期の外科治療が推奨されています。
頭蓋内脳波記録は侵襲的検査ですが、新皮質てんかんにおいててんかん原性領域を決定するのに有用です。内側側頭葉てんかんでは、MRIでの海馬硬化所見と発作時脳波所見が矛盾しなければ、頭蓋内脳波記録を省略することができます。
硬膜下電極を用いた脳波記録は頭皮脳波に比べて10倍の空間分解能を有します。永久的合併症は1.5%であり、脳内出血、感染によるものです。
内側側頭葉てんかんの外科的治療(58%)は内科的治療(8%)より優位に優れています(GradeA)。
新皮質てんかんの外科的治療成績は、側頭葉切除66%、後頭葉・頭頂葉切除46%、前頭葉切除27%、軟膜化皮質多切術は16%。また、脳梁離断術は35%です。術後発作転帰評価にはEngel分類が用いられます。
優位半球の場合、側頭葉先端より最大4.5㎝、非優位半球の場合最大6㎝まで切除可能
側脳室内部の観察海馬が側脳室下角の床を形成し、扁桃体は海馬と向かい合うように側脳室下角上壁の一部を形成していることがわかる。
鉤回の吸引除去後脳室側とより後大脳動脈、前脈絡叢動脈および動眼神経が鉤回を包んでいる軟膜を通して観察される。
海馬頭の切離海馬頭の腹側を切断していくと前脈絡叢動脈の脳室内への入口部であるinferior chroroidal pointまで海馬頭を切断できる。
海馬傍回腹側の剥離海馬傍回腹側の軟膜を丁寧に剥離して海馬傍回を軟膜下にできるだけ外側まで剥離しておく。
海馬体背側の切断側副隆起と海馬体との間の無名溝で海馬体背側を切断する。
海馬の摘出 / 摘出した海馬・海馬傍回
海馬摘出後の脳表明らかな前頭葉(*)および側頭葉(*)外側皮質の損傷を認めない。
全般性てんかん 著効率約40~60%
左右の半球を脳梁にて離断することにより、両皮質のてんかん発作へ全般化するのを防ぐ。急性期離断症候群を防ぐため、脳梁離断術は2期的手術となることが多く、前方2/3脳梁離断術、1カ月ほどあけて後方1/3脳梁離断術を施行する場合が多い。
脳梁上での術野の拡大
透明中隔板
脳梁膨大部離断
脳梁膨大部離断されていることを確認
①Lateral approach (Trans-ventricular hemispherotomy) と、②Vertical approachがある。
Lateral approachは内包繊維の切断、側頭葉内側構造物の切除、脳梁離断、前頭葉水平繊維の切断の4つの共通手技からなる。①側頭葉内側構造物の除去、②内包繊維の切断、③前頭葉水平繊維の切断、④経脳室的脳梁離断、⑤残存下降繊維の離断
てんかん外科におけるてんかん認定施設のみ可能の唯一の手術である。