病気の治療
medical treatment
medical treatment
脳卒中(脳に突然に中毒が起こるという語源)の患者数は現在、約150 万人に及び、毎年新たに25 万人以上が発症しているといわれています。脳卒中は、がん、心臓病、肺炎に次いで日本における死因の第4位で、寝たきりになる原因では、最大の3割を占めています。高齢者の増加や、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病の増加により、今後2020 年頃には300万人を超すことが予想されています。
脳卒中は脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の3つが代表的で、そのなかで脳梗塞が75%以上を占め、次いで脳出血が約18%、くも膜下出血約7%となっています。近年は脳梗塞が増えてきており、その他は減少ないし横ばいの状態です。
脳梗塞はその原因から、
と大きく分けられます。その他解離性、妊娠や膠原病合併、もやもや病、覚せい剤などの薬剤や遺伝性のものまでさまざま存在します。また、脳梗塞は他の脳卒中と違って比較的1日のうちのどの時間でも発生し、特に睡眠時、安静時、読書時などのときに発生することが多いと報告されています。
脳の細い血管が詰まって起こる脳梗塞【小梗塞】
直径15mm以下
脳穿通枝レベルでの血管狭窄、閉塞
日本人に最も多いタイプ
主に高血圧
ラクナは「小さなくぼみ」という意味
多発性脳梗塞とよばれるもののほとんどはこのラクナ梗塞の多発であり、多発することで痴呆 (脳血管性パーキンソン症候群)の原因
ラクナ梗塞とアテローム血栓性脳梗塞中間病態直径15mm以上 (Giant lacune)
脳穿通枝動脈起始部への主幹動脈のアテローマプラークの拡大、破綻での血管狭窄、閉塞
主幹動脈に50%以上の血管狭窄なし
しばしば急性期の神経症状が進行
アテローム血栓性脳梗塞に準じた治療
Striatecapsular infarction=large perforator-infarction(Bladin, et al, Neurology,1984)単一穿通枝動脈に起因する脳梗塞(心原性塞栓症、内頚動脈閉塞群、中大脳脳動脈勤近位部異常群、成因不明
脳の太い血管が詰まって起こる脳梗塞【中梗塞】
動脈硬化(アテローム硬化)で狭くなった太い血管に血栓ができ、血管が詰まるタイプ
動脈硬化を発症・進展させる高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙など生活習慣病が主因
多発性脳梗塞とよばれるもののほとんどはこのラクナ梗塞の多発であり、多発することで痴呆 (脳血管性パーキンソン症候群)の原因
脳の太い血管が詰まって起こる脳梗塞【大梗塞】
心臓にできた血栓が血流に乗って脳まで運ばれ、脳の太い血管を詰まらせるもの。原因として最も多いのは、不整脈の1つである心房細動。
奇異性脳塞栓症:静脈系の血栓が右左シャント介して動脈系に流入し、脳塞栓をきたすもの。
卵円孔開存症、心房中隔欠損症、肺動静脈廔
弁膜症を伴わない心房細動(NVAF)
ワルファリンカリウム:PT-INR 2.0-3.0
ただし、70歳以上は低用量1.6-2.6
(出血合併症の予防)
NOAC(プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナ)の役割
の他、近年最も注目され、見逃してはならない病状に一過性脳虚血発作という病気があります。24時間以内に消失する一過性の片麻痺、構音障害、黒内障(視野、視力障害)をきたす疾患です。実質的には脳MRIで検査を行ってみると、ほとんどの患者さんで脳梗塞を呈しています。この状態を見過ごすと高リスクの方は2日以内に8%以上の確率で症状固定の脳梗塞を起こすことが報告されました。
6点以上:2日以内に脳梗塞危険8%
4-5点:2日以内に脳梗塞起こす意見4%
3点以下2日以内に脳梗塞起こす危険1%以下
Lancet.2007;369(9558):283-92
必ず相談・入院、原因検索、病型に応じた治療
病院では早期に脳梗塞の病状診断のうえ、それに応じた抗血小板剤や抗凝固剤などの選択および高血圧、糖尿病、高脂血症、心疾患などの治療ならびにリハビリテーションを開始します。脳梗塞治療の最近のトッピックとしては何と言ってもt-PA(tissure plasminogen activator)という血栓溶解治療薬と血管内による再開通治療です。前者は現在では脳梗塞発症4.5時間以内で、出血傾向などの禁忌事項に相当しなければ治療が可能です。また、後者に関しては、6時間以内のt-PA静注によって改善が得られない場合や重症の脳梗塞に関して期待がもたれ、その機材や方法が日進月歩の状態です。現在の代表的な治療方法はステント型の血栓回収法であるstent retriever(Solitaire, Trevo, Revive)、吸引型血栓回収法であるPenumbra systemです。
発症4.5時間以内:tPA first
無効例に血管内治療
血管内治療:Solitaire, TREVO, Penumbra, MERCI, PTA
発症4.5時間以上:DWI-clinical mismatchがあれば血管内治療
Time is brain
チーム医療
いずれの場合も時間との闘いですから、脳梗塞の症状が出現時ないしはたとえ症状が改善しても1分1秒でも早く病院に来ていただき検査ならびに治療を受ける必要があります。
以下は脳梗塞急性期における治療方法のプロトコールです。さまざまな科学的根拠をもとに迅速に治療を進めています。
脳梗塞のその他の原因について以下まとめています。それぞれの成因に応じた治療が必要と考えられます。
脳出血は、生活習慣や降圧剤などの内科的治療の改善により近年減少していますが、ひとたび出血をすると機能的後遺症や生命の危険性などがあり、忘れてはならない疾患です。
以下、特徴として圧倒的に高血圧性が多いこと、出血部位による特徴的症状があること、若年発症では出血原因について根治術が必要になる点などが挙げられます。
被殻・外包出血(40%) | 視床出血(20%) | 小脳出血(12%) | 橋出血(12%) |
---|---|---|---|
反対側片麻痺 反対側感覚障害 反対側同名半盲 病側共同偏視 意識障害 失語・失行・失認 |
反対側感覚障害 反対側不全片麻痺 垂直方向注視麻痺(Parinoud sign) 下方共同偏視 対光反射消失、微弱 |
激しい頭痛、悪心、嘔吐 起立・歩行不能 病側注視麻痺 縮瞳(対光反射あり) 病側四肢失調 病側顔面神経麻痺 |
急速な意識障害 四肢麻痺(非対称性) 脳神経麻痺 |
近年では高齢者人口の増加に伴い脳葉型の出血が多く、寝たきりや生命予後に大きくかかわっています。また、アルツハイマー型認知症と同一タンパクがかかわっておりその成因、予後の改善は今後に研究に期待されます。
脳動脈瘤破裂など治療可能な原因がある可能性が高い疾患です。以下の特徴的症状で発症し早期の検査、治療が必要になります。
くも膜下腔(くも膜と軟膜の間)の出血
人口10万対20人/年(日本)、国別地域別格差
40歳以降の女性に多い(男女比1:2)
危険因子:家族歴、高血圧、喫煙、過度の飲酒(150g以上/週)、痩せ
動脈瘤の破裂(80%以上)、その他血管解離、脳動静脈奇形など
症状「バットで殴られたような」突然の激しい頭痛、意識障害、嘔吐、血圧上昇、上下肢麻痺など
Grade | 基準徴候 |
---|---|
0 | 未破裂動脈瘤 |
Ⅰ | 無症状、最小限の頭痛および軽度の項部硬直 |
Ⅰa | 急性の髄膜あるいは脳症状を見ないが、固定した神経学的失調があるもの |
Ⅱ | 中等度から重篤な頭痛、項部硬直を見るが、脳神経麻痺以外の神経学的失調は見られない |
Ⅲ | 傾眠状態、錯乱状態、または軽度の巣症状を呈するもの |
Ⅳ | 混迷状態で、中等度から重篤な片麻痺があり、早期除脳硬直および自律神経障害を伴うこともある |
Ⅴ | 深昏睡状態で除脳硬直を示し、瀕死の様相を示すもの |
grade | GCSスコア | 主要な局所神経症状(失語あるいは片麻痺) |
---|---|---|
Ⅰ | 15 | なし |
Ⅱ | 14-13 | なし |
Ⅲ | 14-13 | あり |
Ⅳ | 12-7 | 有無は不問 |
Ⅴ | 6-3 | 有無は不問 |
くも膜下出血の診断は92%以上CTで可能で、出血原因はCTA(造影CTアンギオ)や脳血管撮影を行います。
頭部CT:発症24時間以内診断率92%以上
MRI:gradient echo T2*、FLAIR(亜急性期や慢性期に有効)
動脈瘤診断:脳血管撮影、3D-CTA、MRA
また、動脈瘤には好発部位が存在し、検査で破裂部位が確定したのち治療へと移行します。
くも膜下出血の治療は診断が確定した時点で血圧管理ののち可及的速やかに手術加療となります。現在、開頭脳動脈瘤クリッピング術、脳動脈瘤コイル塞栓術という治療法があり、各施設での対応となっています。
以上、脳卒中の代表的疾患、成因、治療法について記載しました。いずれの疾患もその治療法については日進月歩で変わっています。また、時間を争うことも多く、救急から退院まで一貫した体制や後遺症に関してのリハビリテーション支援など必要になります。