徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

病気の治療

medical treatment

小児科の病気:先天性代謝異常症

先天性代謝異常症とは

先天性代謝異常症の“先天性”とは、広い意味では、生まれてくる前にすでに病気の状態が存在していることを示す言葉です。狭い意味では、遺伝子に病気の原因になる変化を持っていること、すなわち遺伝性であることを示します。

“代謝異常症”とは、体の構成成分(糖、たんぱく、脂質など)の新陳代謝やエネルギー産生の代謝が機能しなくなっている病態のことです。

“代謝”とは、例えばブドウ糖などの物質を別の体に有用な物質に変えたり、あるいは変える過程でエネルギーをつくり出したりすることです。物質を変える(代謝する)のは主に“酵素”が担っており、単純に古典的な言葉でいうと、先天代謝異常症とは酵素をつくる遺伝子の異常症ということです。ただし、最近の研究でさらに複雑な代謝の仕組みが明らかになってきており、酵素以外の遺伝子の異常なども知られるようになってきています。わが国でこの分野の病気を専門に研究しているのは「日本先天代謝異常学会」(http://jsimd.net/)です。

先天代謝異常症の分類と原因

先天性代謝異常症は多岐にわたりますので、代謝する物質に対応して、例えば、アミノ酸代謝異常症、アンモニア代謝異常症、糖代謝異常症、有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝異常症、脂質代謝異常症、金属代謝異常症、核酸代謝異常症などと分類されますが、症状の現れる臓器(例えば代謝性神経筋疾患)や細胞内小器官(例えばミトコンドリア病)で分類することもあります。

医学研究の場では、これらの大分類のもとに、障害された酵素名を使った病名、あるいはこれら酵素の設計図である遺伝子名を使った病名が数多く分類されています。しかしながら、古くは遺伝子異常と結びつけた病気の理解が行われていませんでしたし、また、症状や治療と関連した病名のほうがわかりやすく便利であることから、日常診療で使われる病名は、必ずしも遺伝子異常と関連づけられた病名だけではありません。

例えば、尿中にフェニルケトンという物質が増えることから前世紀に命名された“フェニルケトン尿症”という病名が今でも日常診療で使われますが、これは本来“フェニルアラニン水酸化酵素欠損症”あるいは“フェニルアラニン水酸化酵素遺伝子異常症”とされるべきものです。さらに、この病気は血液中にフェニルアラニンが増加することから“高フェニルアラニン血症”という病名も使われます。食事療法などにより血液中のフェニルアラニン濃度を下げることが治療として有効であるため、蓄積するアミノ酸の名前を使った病名のほうが理解しやすく便利であるためです。また、フェニルアラニン水酸化酵素の働きを助ける“補酵素”の異常で類似の症状が出ますので、これも“フェニルケトン尿症”と混同されることがありますが、治療法が異なりますので、複数の遺伝子の異常による“ビオプテリン代謝異常症”という病名が別途使われます。

もう一つ注意すべき点ですが、フェニルアラニン水酸化酵素遺伝子に変化が起こっている場合でも、その遺伝子の変化には軽重があり、重症度に応じて別の病名が付けられています。最も重症の場合を“フェニルケトン尿症”、軽症〜中等症の場合を“高フェニルアラニン血症”、血中フェニルアラニンの増加が軽微で、治療しなくても生涯症状がみられない場合を“無症候性”あるいは“最軽症型”高フェニルアラニン血症と呼ぶことがあります。このような“無症候性”の遺伝子の変化は“バリアントvariant”と称して、病的な変化である“遺伝子変異”と区別します。関係している酵素の変化に基づいた「フェニルアラニン水酸化酵素欠損症」という病名がついたとしても、症状の重症度はさまざまだということに注意する必要があります。

このように先天性代謝異常症の分類は多岐にわたり、数多くの病名が存在しますが、個々の病気の頻度は何万〜何十万人に1人といったように極めて稀であるため、“希少疾患”と通称されます。

先天性代謝異常症の現れ方とその気づき方

代謝は体の中のさまざまな臓器で行われていますので、その異常の現れ方は多様です。学会のHPなどでそれぞれの病気の症状を確認してください。ここでは、先天代謝異常症の症状の現れ方の特徴を説明します。

前述したように、同じ酵素異常(あるいは欠損症)の病名がついていても病気の重さによって症状の現れ方は違ってきます。病気が重症であるほど早く症状が出ます。最も重症なタイプでは生まれてくる前にすでに重篤な症状を持っていることもありますし、また生まれてすぐ(新生児期から)激しい症状を呈することもあります。重症でないタイプでは、症状の現れる時期で重症度を表現します。例えば、新生児型というと非常に重症のタイプであり、乳児型というのはそれよりも軽いが比較的重篤な症状を示すタイプ、成人型というのは比較的軽いタイプといったところです。

重症の先天性代謝異常症の患者さんは治療が困難で短命であることが多い一方、比較的軽症の患者さんでは生まれてすぐには症状がないものの、その後、脳障害を発症するのが特徴で、治療の目標はこの脳障害の防止です。しかし、脳障害が起こってしまってからでは、いくら治療しても回復しないことがほとんどですので、生まれた直後に診断し、早期に治療を開始する必要があります。治療法のある一部の先天性代謝異常症を早期発見するために、わが国を含め世界の多くの国で“新生児マススクリーニング”(すべての赤ちゃんの検査をする)が行われています。

検査と診断は専門の医療機関で

先天性代謝異常症の診断にはさまざまな特殊検査が必要ですが、そのほとんどは医療保険での実施が認められておらず、大学の研究室や特殊な検査機関で実施されているのが現状です。どの検査がどの施設で実施されているかは、日本先天代謝異常学会のホームページで検索することが可能ですが、通常、一般病院の医師がこのような希少疾患の患者さんの診療をするのは難しいので、先天性代謝異常症を専門にしている大学病院やその他の専門病院を患者さんが受診して検査を受けることになります。

大まかな検査と診断の流れを説明しますと、症状と一般的な臨床検査結果からどの代謝の異常症であるかを推定し、さらにその中のどの病気であるかを絞り込むために血液や尿に含まれる異常な代謝物を網羅的に分析します。特に、尿には病気に関連した代謝物が多く含まれていることが多いので、質量分析計などの特殊な検査機器を使って調べたりします。すでに述べた新生児スクリーニングでは、血液中の代謝物を網羅的に調べます。

このような網羅的検査の結果から、ある特定の病気(異常症)が推定できれば、その異常症に関連した“酵素”の働き(酵素活性)を測定することがあります。酵素に問題があることがわかれば、その酵素の設計図であるところの遺伝子を調べることになります。これらは血液を採って調べます。

効果のある治療法は“食事療法”

先天性代謝異常症は遺伝子に問題があり、その遺伝子の問題を根本的に治すことは大変難しいのですが、最近の医学研究の進歩により、万能とはいえないまでも有意義で効果のある治療法が多く開発されてきています。

また、新生児期からの早期治療により発病を抑えることができる異常症もあり、その病気をみつけるための新生児マススクリーニングが実施されたり、計画されたりしています。

根本治療ではないが効果がある治療法の代表は“食事療法”です。病気のため代謝することが難しい物質を食べないようにするという原理です。すでに挙げたフェニルケトン尿症(高フェニルアラニン血症)では、フェニルアラニン(アミノ酸)が含まれるタンパク質の摂取を少なくすると、体の中のフェニルアラニン濃度が健常者での濃度に近くなり、病気の症状がみられなくなります。

食事療法以外には、酵素の働きを助ける薬や酵素を増やす薬を服用したり、酵素を注射したりする治療法があります。病気が特定の臓器(組織)で生じている場合などには、肝臓や骨髄などの臓器提供を受けて移植治療が行われることもあります。最近は、遺伝子やそれを改変する物質を使った治療も試みられています。

このような治療は、一度行えば根本的に病気が治るということではありませんので、ずっと継続する必要があります。というのも、最近正確に診断されるようになってきた稀な病気である先天性代謝異常症では、どのような症状がどのように出てきてどのような経過をたどるのかについては、実は最近わかり始めたばかりですし、上記の治療も最近始められたものがほとんどで、その効果についても十分確かめられているというわけではありません。ですので、先天性代謝異常症の診断と治療を専門にしている医療機関でずっと定期的に診察や検査を受け、治療がうまくいっているか確認することが大切です。

個別の先天性代謝異常症の治療法の詳細は、日本先天代謝異常学会のホームページで確かめることができます。

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