徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

病気の治療

medical treatment

小児科の病気:先天性心疾患

子どもの心臓病

生まれたとき、心臓に何らかの異常のある人はおよそ100人に1人いるといわれています。自然に治ってしまうほど軽い人もいれば、何回か手術をしなければならない人、心臓に負担をかけないよう運動を制限している人、残念ながら完全な治療ができない人など、さまざまな人がいます。

生まれた後に心臓病に罹る人もいます。ずっと薬を飲み続けたり、運動制限で済む軽症の人もいれば、外科手術やペースメーカという心臓の働きを助ける器械を装着する重症の人もいます。心臓移植が唯一の治療という重症の人もいます。

心臓病の人は症状が出なければ普通の人と見た目は変わりません。しかし、症状が出ないよう、運動や日常生活に制限をかけて、自分で病気を調節しながら社会のなかで懸命に生きています。特に、心臓病を持つ子どもは、他の子どもと同じように遊ぶことや登校することができないこともあり、心の痛みを感じながら生活しています。

子どもの心臓病は、大きく分けて3つのタイプがあります。

などです。

子どもの心臓病について、主な病気の種類や治療について説明します。

心臓の構造とはたらき

まずは、正常な心臓の構造と動きを説明します。心臓は4つの部屋からできています。それぞれの部屋の間には、血液が逆流しないようにするための弁があります。全身から返ってくる酸素の少ない赤黒い静脈の血液は、まず右心房に集められ、三尖弁という大きな弁を経て右心室に入ります。右心室は力強く収縮して、血液を肺に送り出します。

肺を通って酸素をたくさん取り入れ、真っ赤になった動脈血は、いったん左心房に集められ、僧帽弁という大きな弁を通過して左心室に入ります。左心室は力強く収縮し、動脈の血液を全身の隅々まで送り出します。全身の筋肉や臓器で酸素を放出して、二酸化炭素を回収した血液は、静脈血となって再び心臓に戻ってきます。

先天性心疾患は100人に1人

先に述べたように、およそ100人に1人は、生まれたときに心臓に何らかの問題を持っています。生まれたときから心臓に異常がある病気を"先天性心疾患"と呼んでいます。

原因は多くの因子が複雑に影響して起こるとされており、特定できないことがほとんどです。遺伝的な要因もありますが、90%以上が種々の環境因子が組み合わされた結果によるといわれています。多くの場合、原因は不明と考えてよいでしょう。

この30年ほど、100人に1人という確率は変化しておらず、生活環境や社会の様相の変化とは関係がなく、生命の誕生過程で起こるわずかな変化が臓器の発育と形成に異常を及ぼすと考えられます。

しかし、この100人に1人という数字は、元気に生まれてきた赤ちゃんの数です。彼らは生きる力があって生まれてきたのです(つまり出生してこられないで亡くなる胎児もいるということです)。

6割を占める心室中隔欠損症

先天性心疾患は大きく分けて、①心臓に穴が開いていて大量の血液が心臓と肺の間を空回りするために心臓や肺に負担のかかる場合(非チアノーゼ性心疾患)と、②酸素の少ない赤黒い静脈の血液が心臓の穴を通して大動脈から全身に流れるために唇や手足が紫色になる場合(チアノーゼ性心疾患)、があります。

非チアノーゼ性心疾患では、赤ちゃんは呼吸が速く苦しそうになり、汗をたくさんかき、ミルクがあまり飲めず、体重が増えない、などの心不全の症状が出てきます。風邪を引くと呼吸状態がさらに悪くなることがあります。

チアノーゼ性心疾患では、体重の増加は比較的よいのですが、泣いたり、息んだり、熱を出したりしたときに全身が紫色になり、危険な状態になることがあります。

先天性心疾患には、何も治療の必要がない軽いもの、自然治癒するものから、すぐに手術が必要なものや難治性の重症なものまで、さまざまな病態があります。

表 先天性心疾患病型別頻度
疾患名 症例数
心室中隔欠損症(VSD) 433 56.0
VSD + 他の左 - 右短絡 31 4.0
肺動脈狭窄症(PS) 74 9.6
心房中隔欠損症 41 5.3
Fallot(ファロー)四徴症 35 4.5
VSD + PS 6 0.8
動脈管開存症 28 3.6
大動脈縮窄・離断 21 2.7
完全大血管転位(転換)症 17 2.2
心内膜床欠損症 14 1.8
両大血管右室起始症 10 1.3
総肺静脈還流異常症 9 1.2
脾形成不全症 7 0.9
右室低形成症候群 6 0.8
単心室症 5 0.6
左室低形成症候群 5 0.6
三尖弁閉鎖、エプシュタイン奇形、総動脈幹残遺、大動脈狭窄、修正大血管転位(転換)、末梢性PS 各3 各0.4
僧帽弁閉鎖不全症 2 0.3
心筋症、三心房心 1 0.1
僧帽弁狭窄・閉鎖不全症 1 0.1
病名不詳 8 1.0
※脾形成不全=無脾症または多脾症、右室低形成症候群=純型肺動脈閉鎖

中澤誠ほか:わが国における新生児心疾患の発症状況
日本小児循環器学会雑誌29:2597、1986年

わが国で最も多くみられるのが心室中隔欠損症です。表は東京女子医大のデータですが、先天性心疾患の約60%を占めています。心室中隔欠損症は心臓の中の左心室と右心室を仕切る壁に穴が開いているもので、小さな穴では5人に1人は自然に塞がります。大きな穴の場合は、血液の逆流を防ぐために手術でこの穴を塞ぎます。

次に多いのが、肺動脈狭窄です(約10%)。肺動脈は心臓と肺をつなぐ血管ですが、そこが狭くなっているため(狭窄)、心臓から肺に血液が流れにくくなっています。軽度の場合は治療の必要がありませんが、狭窄が中~重度の場合には手術やカテーテル治療で狭い弁や血管を拡げます。

3番目に多いのは心房中隔欠損症です(約5%)。心房中隔欠損症は心臓の中の右心房と左心房の間を仕切る壁に穴が開いているものです。自然に塞がらない大きな穴は手術で塞ぎますが、最近はカテーテル経由で塞ぐ治療も保険診療でできるようになりました。ただし、場所によってはカテーテルでは塞げないものもあります。

ファロー四徴症とは、心室中隔欠損症、肺動脈狭窄症、大動脈右方転位、右心室肥大の4つが合併しているチアノーゼが出る疾患です。チアノーゼが出る疾患のうちで最も多い疾患ですが、多くは手術治療が可能です。

このほか、生まれてすぐに閉じるはずの動脈管が開いたままの動脈管開存症や、重症の疾患として、大動脈と肺動脈が逆についている完全大血管転換(転位)症、心室が1つしかない単心室症、左心室等の形成が十分でない左心低形成症候群などがあります。

弁の狭窄や閉鎖不全で起こる弁膜疾患

心臓には血流を調節する弁があります。右心房と右心室の間にある三尖弁、右心室と肺動脈の間にある肺動脈弁、左心房と左心室の間にある僧帽弁、左心室と大動脈の間にある大動脈弁です。

これらの弁がきちんと開かなかったり(狭窄)、きちんと閉じなかったり(閉鎖不全)すると、心臓に負担がかかり、やがて心不全になってしまいます。

生まれつきこの弁に異常がある人がいます。軽症の人は成長するまで、あるいは一生、治療する必要がありません。重症、すなわち動悸や強い心雑音など症状がある人は、弁を手術する必要があります。

日本人に多いのは僧帽弁狭窄・閉鎖不全症です。僧帽弁の形を整える形成手術や、形成できないときは弁を人工弁などに変える置換手術があります。

若いうちは心臓の活動が激しいので、人工弁を入れても早い時期に石灰化したり血栓ができたりします。そうなると再手術が必要になります。心臓手術は再手術ほど危険率が高くなりますので、最初の手術時期はできるだけ時期を遅らせる場合があります。そのために内科的治療や運動制限を行うこともあります。

胎児のうちに発見できる確率は7~9割

最近、先天性心疾患を胎児のうちに超音波検査(エコー)で発見することができるようになりました。早ければ20週(5カ月)ほどで心臓が小さく見えるころから発見されます。多くは、7~8カ月になり、胎児の心臓がある程度成長したところで、その大きさや構造をエコーで診断します。これですべてが発見できるわけではありませんが(70~90%は確認できます)、胎児のうちに心臓の異常を発見できれば、生まれる前から生後の対策を練ることができ、早期に適切な治療ができることから、かなり重症の疾患でも治療・救命できるようになりました。

また、心房中隔欠損症などは、小さいころは症状がなく、成長して心臓が大きくなったり、運動をして心臓の活動量が増えたりしたときに症状が出て、発見される場合もあります。

学童検診で初めて心房中隔欠損症が見つかる人も多く、60~70歳すぎてからようやく症状が出る人や、気づかないまま天寿を全うする人もいます。

診断や病状の把握のために、問診・診察のほか、胸部X線、心電図・心エコー・心臓カテーテル検査・CT検査・MRI検査・血液検査、などが行われます。

子どもの心臓手術

現在、子どもの心臓病手術の危険率はおよそ3~4%といわれています。重症だと約30%、軽ければ1%以下の死亡率です。世界で初めて心臓手術が行われたのが1950年代ですから、まだ50年ほどの歴史しかありません。当初はよい器具も薬もありませんでしたが、ここ25年ほどでよい手術器具や強心薬が開発され、また手術の技術も向上して、飛躍的に成功率が上がりました。特に、単心室、肺動脈弁閉鎖、三尖弁閉鎖、左室低形成など、十分に機能する心室が1つしかない重症の先天性心疾患に対しても「フォンタン型手術」(図)が広く普及して、その救命率が大きく向上しています。

早期に発見することができて、適切な時期に適切な治療を行えば、多くが救命することができます。複雑で重症の心疾患の場合は、段階的な手術が必要で、また100%のQOLを得ることは難しく、手術後も日常生活の制限が必要な場合もあります。

なお、心臓手術は再手術ほど危険率が高くなります。一度メスを入れた場所は癒着が起きて、出血も多く手術が難しくなるからです。ですから、心臓手術を数回行っている人は、心臓移植の適応にならない場合もあります。

今や、単なる救命治療から生涯にわたりQOLが維持できる治療へと、手術の目標がさらに改善されていくことが期待されています。

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