病気の治療
medical treatment
medical treatment
乳幼児の出血性疾患で血小板数が正常、プロトロンビン時間(PT)正常、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)延長を認めるときは血友病が疑われます。
血友病は先天性遺伝性あるいは後天性の血液凝固異常症です。出血症状を主徴としています。凝固第VIII因子の欠損あるいは活性低下によるのは血友病A、第IX因子の欠損あるいは活性低下によるのは血友病Bに分けられます。一般的に乳幼児にみられるものは先天性遺伝性血友病です。稀に、遺伝性でなく先天性の孤発例があります。また、遺伝形式からして男児に多いが、女児にみられるのは稀です。後天性血友病は成人や高齢者に多いですが、小児にみられることもあり、種々の機序で第VIII因子、第IX因子に対するインヒビターが産生されるため第VIII因子、第IX因子活性低下が生じることによります。
血友病は、血液凝固因子のうち第VIII因子、第IX因子の欠損ないし活性低下によるものです。先天性遺伝性血友病は伴性劣勢遺伝し、メンデルの法則に従った遺伝の仕方をします。血友病の父親(XY)と、正常な母親(XX)との間の男児は父親の血友病X染色体を受け継がないので正常(XY)、女児は保因者(XX)となります。女性の血友病患者が生まれるのは、父親が血友病 (XY)で、母親が保因者(XX)である場合、1/4の確率で女児に保因者でなく血友病(XX)が発症する可能性があります。
先天性遺伝性血友病は幼児期までに大部分が発症します。重症・中等症では出血は深部出血が中心で、特に関節内や筋肉内で出血が起こりやすく、進行すると関節変形や関節拘縮をきたします。稀に頭蓋内出血を起こす場合があり注意が必要です。軽症の場合は非血友病の人と変わらず無症状で経過し、抜歯などにより初めて診断されることもあります。後天性血友病では出血様式が異なります。
先天性遺伝性血友病では低下した凝固因子活性は補充によってしか改善が図れないので、慢性的な経過をとらざるを得ません。重症度により出血の頻度や回数は異なりますが、凝固因子である第VIII因子製剤や第IX因子製剤を補充することにより、急性出血を止血し(出血時補充療法)、また、繰り返し出血することによる後遺症を予防するため、前もって出血しないように予防的に凝固因子を補充する(定期補充療法)ことによりQOLの改善が図られます。これらの補充療法中に凝固因子投与に起因した抗体(インヒビター)が生まれ、治療が困難になることがあります。一方、後天性血友病は凝固因子の補充とは無関係にインヒビター産生が生じるもので、インヒビターを根絶すれば数カ月で疾患は治癒します。
先天性遺伝性でも後天性でも血友病では血小板の数や機能は正常なので、出血時間は正常です。第VIII、IX因子ともに内因系凝固因子なので、プロトロンビン時間(PT)正常、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)延長から疑われます。第VIII、第XI因子活性を測定し、血友病A、Bいずれでも一般的に因子活性率が1%未満を重症、1〜5%を中等症、5%以上を軽症と呼んでいます。重症例と中等症の診断は容易ですが、軽症の診断は難しくなります。乳幼児では特に第IX因子活性の正常値が一般小児のそれよりも生理的に低値なので(表1)、誤って軽症血友病Bと診断しないよう注意が必要です。遺伝子検査では、同じ家系内の患者さんの遺伝子異常がわかっている場合、女性の保因/非保因をDNA検査により正確に調べらます。
欠損している血液凝固因子の補充療法により、健常者とほぼ同じ生活が可能となります。補充は第VIII あるいは第IX活性が20%以上になる程度を目標に行います。治療中の問題点の一つは、血液凝固因子に対する抗体(インヒビター)の発生です。これは後天性血友病とは別に、先天性血友病で血液凝固因子投与に関連してインヒビターが生じる現象です。血友病患者では免疫が構築される胎児期に第VIIIあるいは第IX凝固因子を欠損しているため、免疫寛容が起こっていません。このため、治療で投与した凝固因子にインヒビターができやすくなるためと考えられています。インヒビター量が非常に少ない場合は出血コントロールに第VIII因子や第IX因子の補充がまだ有効ですが、インヒビター量が多くなると遺伝子組換え活性型第VII因子製剤(ノボセブン)などの投与が必要になります。
表1 新生児の第IX因子活性は低い
(出典;Geigy Scientific Tables, Vol 3, p231, CIBA-GEIGY, 1984)
Assay | Unit* | Number of pairs | Mothers | Newborn | ||
---|---|---|---|---|---|---|
Mean | s | Mean | s | |||
Fibrinogen: | ||||||
Coagulation method | g/L | 50 | 4.00 | 1.08 | 1.44 | 0.35 |
Heat denaturation | g/L | 15 | 3.77 | 0.61 | 2.95 | 0.67 |
FactorⅡ | % | 50 | 80 | 14 | 26 | 7 |
FactorⅤ | % | 50 | 59 | 46 | 48 | 32 |
FactorⅦ | % | 50 | 211 | 58 | 41 | 11 |
FactorⅧ | % | 50 | 170 | 71 | 53 | 31 |
FactorⅨ | % | 50 | 94 | 33 | 14 | 14 |
FactorⅩ | % | 50 | 195 | 90 | 36 | 28 |
FactorⅫ | % | 50 | 143 | 38 | 43 | 14 |
FactorXⅢ | % | 50 | 67 | 25 | 86 | 31 |
Plasminnogen: | ||||||
Caseinolytic method | % | 50 | 117 | 23 | 30 | 11 |
AntithrombinⅢ | ||||||
Activity | % | 34 | 86.6 | 21.76 | 60.5 | 13.56 |
Immunological assay | % | 34 | 125.5 | 26.99 | 87.2 | 18.9 |
*Percent data refer to pooled plasma of a great number of normal adults. |