病気の治療
medical treatment
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乳幼児ではしばしば好中球減少症を経験します。一般に好中球減少症は末梢血好中球絶対数(ANC)が1,500/µL未満と定義されています。ANCが500/µL未満になると易感染性が問題になり、200/µL未満になると重症で感染症を反復するようになります。乳幼児では重症先天性好中球減少症(Severe Congenital Neutropenia、SCN)と自己免疫性好中球減少症(autoimmune neutropenia, AIN)の鑑別が必要となります。
重症先天性好中球減少症(SCN)は遺伝性疾患であり、特に末梢血好中球数が200/µL未満になることが多く、生後より反復する細菌感染症が臨床的な特徴です。骨髄では前骨髄球、骨髄球の段階での成熟障害があり、桿状核や分葉核好中球が著減する所見がみられます。遺伝子診断で診断が確定します。
一方、自己免疫性好中球減少症(AIN)は末梢血好中球絶対数が200/µL未満になることは少なく、500/µL以下が2~3カ月持続し、臨床的に軽度の易感染性を呈する疾患です。多くは乳児期後半から幼児期に発症します。血清中の抗好中球抗体が陽性であることが診断の手がかりとなります。
一般に、好中球減少症は種々の原因により生じ(図1)、以下のようにまとめられます。
重症先天性好中球減少症(SCN)はELANEあるいはHAX1といった遺伝子変異により生じるが、自己免疫性好中球減少症(AIN)は好中球表面分子に対する自己抗体産生により、好中球の破壊亢進が生じ好中球減少を呈する自己免疫疾患です。成熟好中球が発現している好中球特異抗原に対する抗体がほとんどであることから、骨髄像を調べるとSCNとは異なり桿状核好中球までは存在しますが、分葉核好中球が著減しているという特徴があります。
好中球減少に伴う易感染性を認め、上気道炎や中耳炎などの細菌感染症を反復することがありますが軽症の場合が多いです。
乳幼児期の自己免疫性好中球減少症(AIN)は、ほとんどの症例で抗好中球抗体の自然消失に伴い、好中球減少は軽快し良好な臨床経過をとります。3 歳までに約80%は回復し、5 歳までにほぼ全例で好中球数の増加を認める、とされています。
好中球抗原はHNA-1,HNA-2 など数種類が同定されています。Fcγ receptor IIIb(CD16b)上に存在するHNA-1 系に対する抗体が原因となることが少なくなく、HNA-1a抗体とHNA-1b抗体が検出可能といわれています。骨髄像は重症先天性好中球減少症(SCN)と自己免疫性好中球減少症(AIN)の鑑別に役立ちます。HNA検査も普通の病院では行えないので、検査可能な施設に依頼する必要があります。
乳幼児の好中球減少症のうち、重症先天性好中球減少症(SCN)は造血幹細胞移植の適応になりますが、自己免疫性好中球減少症(AIN)は重症感染症を合併する頻度は低いので、通常は感染症時の適切な抗生剤投与で済みます。また、細菌感染症の予防目的にはST合剤を投与します。万一、重症感染症を生じた場合にはG-CSF投与が併用されます。成人での自己免疫性好中球減少症ではステロイドや免疫抑制剤を要することもありますが、乳幼児のAINでは不要です。