病気の治療
medical treatment
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川崎病は乳幼児に好発する急性熱性疾患であり、全身の中型・小型の筋性動脈での血管炎を主病変とした血管炎症候群です。無治療の場合には約25~30%の割合で冠動脈に拡大性病変(coronary artery lesion, CAL)を合併し、この病変は、血栓形成によって心筋梗塞発症の危険因子となります。このため、適切な急性期治療により強い炎症反応を速やかに終息させ、血管病変の出現を抑制することが重要となります。1967年に川崎富作氏により原著が報告されてから半世紀になろうとしているが、いまだ原因不明です。
川崎病は無治療の場合には3〜4人に1人の割合で冠動脈病変を合併する
1970年以降、ほぼ2年ごとに川崎病全国調査が施行されています。1979年、1982年、1986年に全国的な流行が認められたのち、年間患者数は5,000人前後で推移していましたが、1990年代後半から年々増加傾向にあり、2005年に年間患者数が1万人を突破し、その後も増加の一途をたどっています。
最新の第23回川崎病全国調査では、2014年の患者数は過去最高の1万5,979人を記録しています。また罹患率も、2013年は0~4歳人口10万人あたり302.5人、2014年は308.0人と、毎年史上最高を更新しており、少子化の影響で子どもの数は減少しているにもかかわらず、1990年代からは絶対数としても増加し続けています。そして、これまでの累計患者数は約30万人を超えています。
川崎病は主として乳幼児が罹患する疾患であり、全患者のなかで3歳未満が66.2%、5歳未満が88.2%を占め、罹患率のピークは乳児後半(6~11カ月)です。最新の全国調査によると、約92%の患者さんが急性期治療として免疫グロブリンによる治療を受けています。急性期の心障害は9.3%にみられ、30病日以後にその障害が後遺症として残る率は2.8%となっています。兄弟姉妹が罹患する同胞例の割合は1.5%、両親のいずれかに川崎病の既往がある者が0.89%, 再発例は3.5%です。
川崎病の原因はさまざまな説が論じられていますが、いまだ解明されていません。かつては、何らかの感染症が背景にあるだろうという考え方が一般的でしたが、最近は、カビ、細菌、ウイルス、リケッチアなどの病原微生物の体内への侵入が過剰な免疫反応(自然免疫)の引き金となり、これらのどの原因でも発現するような病態が背景に潜んでいるのではないか、という考え方が主流となってきています。
川崎病急性期の病態は、自然免疫系の過剰な活性化を特徴とし、炎症性サイトカインおよびケモカインの上昇を伴います。そしてこれらの因子が、発熱の誘導、血液中の急性期蛋白産生や好中球増多、血管炎を誘発してくるものと考えられています。
現在、種々の実験動物を用いた基礎的研究をはじめ、川崎病特異的iPS細胞を用いた研究も精力的に行われており、川崎病の発症要因、病態解明、さらには治療反応性・血管後遺症発現機序など、その詳細が徐々に明らかとなろうとしています。
川崎病の診断は、検査所見からみた特異的診断方法はなく、川崎病診断の手引き(厚生労働省川崎病研究班作成改訂5版)に基づいて行われます。
川崎病(MCLS、小児急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群)
川崎病は乳幼児に好発する原因不明の急性熱性疾患で前進の血管炎を特徴とする。
主要症状
指趾の特異的落屑を伴う小児の急性熱性皮膚粘膜淋巴腺症候群 : 自験例50例の臨床的観察
(川崎富作 アレルギー 1967、16,178)
以下に示す6つの主要症状のうち5つ以上の症状を伴うものを川崎病と診断します。
上記6主要症状のうち、4つの症状しか認められなくても、経過中に断層心エコー法もしくは、心血管造影法で、冠状動脈瘤(いわゆる拡大を含む)が確認され、他の疾患が除外されれば川崎病と診断します。
診断の手引きの基準は満たさないものの、他の疾患が否定され川崎病と考えられる「川崎病不全型」も15~20%前後存在します。不全型は決して軽症であるというわけではなく、心合併症も少なくないため、遅れることなく治療を開始することが推奨されています。
上記6主要症状のうち、4つの症状しか認められなくても、経過中に断層心エコー法もしくは、心血管造影法で、冠状動脈瘤(いわゆる拡大を含む)が確認され、他の疾患が除外されれば川崎病と診断します。
免疫グロブリン超大量(IVIG)単回投与は, 現時点で最も信頼できる抗炎症療法であり、約80%の症例で解熱が得られます。一方、10~20%の割合でIVIG不応例が存在します。このIVIG不応例では、IVIG反応例と比べて、約7倍もの高率で冠動脈障害を合併します。
2006年に開発されたIVIG不応例予測スコアを用いて、重症川崎病患者の治療層別化を目的とした無作為化比較試験が行われ、2012年にIVIG + ステロイド初期併用投与群が IVIG単独投与群に比較して冠動脈障害合併頻度を有意に減少させることが相次いで報告されました。
2012年に新たなガイドラインが報告されました。その概要は以下の通りです。
川崎病における予後規定因子は冠状動脈の拡張や冠動脈瘤です。現在まで、予後に関しては以下のように考えられています。
最近、成人例を対象とした血管内視鏡、血管内エコー、血管機能検査、血管エコーなどの検討によって、川崎病血管炎が動脈硬化の危険因子となる可能性が示されています。
また、成人例で冠動脈瘤や狭窄性病変と直接関係しない冠動脈イベント(急性心筋梗塞、急性冠症候群)の発症がみられることが、日本川崎病学会の全国調査や日本循環器学会との共同研究で明らかにされてきています。川崎病が報告してからいまだ50年しか経過していませんので、さらに長期の検討が必要であると考えられています。
特に、冠動脈後遺症を残した既往者はもちろん、急性期にIVIG治療を受けず、心エコー検査もされていない成人既往者での長期予後に関しては留意が必要であるとの意見も指摘されてきています。そのような背景から、遠隔期での予後や管理に対してはさらに継続的な検討の必要性が指摘されています。