2019年(平成31年)4月15日 月曜日 徳洲新聞 NO.1180 四面
読み解く・読み得
“紙上医療講演”23
機能温存目指す舌がん治療
今回は「舌がん」がテーマです。最近、著名なタレントが闘病中であると公表したことで話題になりました。症状が口内炎と類似していることが多いため見すごされやすいですが、放置するとリンパ節や他の臓器に転移してしまい治療が難しくなります。舌は食事や発話に欠かせない重要な器官で、他の疾患と同様に早期発見・早期治療がポイントです。徳洲会グループ歯科口腔(こうくう)外科部会の部会長を務める東京西徳洲会病院の佐野次夫・副院長兼歯科口腔外科部長が解説します。
佐野次夫・東京西徳洲会病院副院長兼歯科口腔外科部長
舌がんは口腔がんのなかでも最も罹患(りかん)率の高い腫瘍です。口腔がんは全がん種の数%ほどを占める希少がんに分類されていますが、最近は増加傾向。全国がん登録の2016年速報データによると、上皮内がんを除く全部位のがん患者さんを合わせた罹患総数は99万5132人で、このうち舌がんを含む口腔・咽頭(いんとう)がんは2万1601人というのが現状です。
舌がんを発症しやすいのは、舌全体を前方、中央、後方と3分割した場合、中央部分の両側縁部(両脇)です。60~70%程度は、この部位に発症していると考えてよいでしょう。発症初期には、がん細胞の組織型によって、口内炎のように凹んだ潰瘍ができたり、またはカリフラワー状に隆起したしこりができたりします。潰瘍ができる前者のケースでは口内炎のように痛みがありますが、後者の隆起した病変では痛みがないこともあります。ただし、進行して病変が深部に浸潤してくると痛みをともなってきます。

舌の側縁部に生じた潰瘍状の舌がん(写真上)と、カリフラワー状に隆起した舌がん(下)
舌がんの一番のリスク因子は喫煙と多量の飲酒です。とくに喫煙は、他の部位のがんと比べても影響が大きく、舌がん発症のリスクは非喫煙者の7~8倍にも上るというデータも発表されています。また、舌中央の両脇付近に、欠けてとがった歯や歯並びが悪くて内側に傾いた歯などが当たることによる慢性刺激が誘因になることもあります。
初期は口内炎との鑑別がつきにくい場合もありますが、単なる口内炎であれば2週間もすれば自然に治癒します。2週間以上続く口内炎の場合には舌がんを含めた腫瘍性疾患の疑いがありますので、口腔外科専門医のいる医療機関を受診することをお勧めします。
舌には、話をしたり、食べ物を噛(か)んで飲み込んだりする重要な構音・嚥下(えんげ)機能があります。手術により切除した舌の一部を、前腕や大腿(だいたい)などの皮弁を用いた即時再建手術がありますが、切除した範囲が舌の半分以上を占めるような場合には、その後、リハビリテーションを行ったとしても、構音障害や嚥下障害などが残り機能回復には限界があります。そのため治療では機能的・形態的温存を目指すことが必要となります。
重要なのは、可能な限り手術で切除する範囲を小さくすることです。化学療法と放射線療法(とくにIMRTなど強度変調放射線)を組み合わせた化学放射線療法を術前に行い、病変を縮小させたうえで、できる限り機能障害をなくして切除することが術後の生命予後に影響します。
このように集学的治療を行い、切除範囲を小さくすることができれば、再建手術が不要になる場合もあります。頚部(けいぶ)リンパ節などへの転移が認められる場合も、手術、化学療法、放射線療法をエビデンス(科学的根拠)に基づき、的確に組み合わせて治療を行うことが肝要です。治療が必要な患者さんは、集学的治療による切除範囲の縮小と機能的・形態的温存に積極的に取り組んでいる医療機関を選択することが重要となります。