2019年(平成31年)2月18日 月曜日 徳洲新聞 NO.1172 一面
湘南鎌倉病院
ER訪問診療スタート
創部フォローなど軽症対象
湘南鎌倉総合病院(神奈川県)は“ER急性期訪問医療サービス(ER訪問)”を開始した。これは、同院ER(救急外来)を受診した患者さんのうち、短期的な医療を必要とするものの、入院の必要はなく、かつ通院困難な患者さんの自宅を訪問して診療を行うサービス。創部のフォローや軽症感染症など従来は救急総合診療科を予約通院していたケースが対象となる。救急・急性期医療を中心に地域医療を担う同院の新たな取り組みがまたひとつスタートした。
2年目の初期研修医が担当
丁寧な手つきで額の傷から抜糸
「痛みはありませんか」――。
湘南鎌倉病院の小山瑛司・初期研修医(2年次)と田口梓・初期研修医(同)は100歳になる女性患者さんに優しく話しかけ、額にできた傷の具合を確かめていた。ここは神奈川県藤沢市内にある患者さんの自宅。患者さんは、この1週間前に介護施設で車いすから転倒し、額を打って裂傷を負った。施設の車で来院、同院ERを受診して2針縫う処置を行い、自宅療養を続けていた。
この日は抜糸を行う予定で、ふたりは訪問。創部の評価や抜糸の可否の判断は同院救急総合診療科の上級医と相談しながら行うこととなっている。すでに役割分担は決まっていたようで、小山・初期研修医が患者さんの血圧を測っている合間にも、田口・初期研修医は医療器具などが入った訪問診療用のバッグから、手際よく必要な器具を取り出した。
小山・初期研修医は「傷を見せてもらっていいですか」と話しかけてから、傷を覆っていたガーゼをはがすなど、患者さんとコミュニケーションを取りながら診療を進めた。「押して痛いところはありますか」との問いかけに、患者さんは少し痛むと返事。タイミングを見計らって田口・初期研修医がスマートフォンを操作し、小山・初期研修医に手渡した。
「“あったらいいな”を形にし、社会の役に立ちたい」と山上センター長
「創部の確認をしていただきたくてビデオ通話をしています。いま創部を映します」。ビデオ通話の相手は、同院救急総合診療科の関根一朗医師。関根医師が電話の向こうから「小山先生の評価はどうですか」と尋ねると、「傷自体はかなり生着してきたため、抜糸可能と考えます」と応答。
さらに、感染兆候の有無を聞かれると「感染兆候は認められません。少し疼痛(とうつう)を訴えていますが、感染ではなく打撲によるものと思います」と続けた。関根医師との相談の結果、抜糸の実施を決定。「少し痛いかもしれませんが、いまから糸を取りますね」と気遣いながら丁寧に処置を行った。
田口・初期研修医は最後に、患者さんと家族に「抜糸後は、ふだんどおりに洗ったりシャンプーしたりできます。傷のあたりに、まだ血腫といって皮膚の色が変わった部分がありますが、自然に吸収され治っていきます」と、わかりやすく説明。患者さんの家族は「病院に連れていくには介護タクシーを頼まなければならないので、自宅まで来てくれる訪問診療には、とても助かっています」と話していた。
上級医に確認し質担保
ER訪問した小山・初期研修医(右)と田口・初期研修医
同院がER訪問を開始したのは2018年11月。発案した同院の山上浩・救命救急センター長は「ERを受診した患者さんの傷病は、慢性期ではなく急性期であるため、診療所の先生へのバトンタッチが難しいケースがあります。さらに患者さんが高齢で独居や老々介護の場合、通院困難なケースが多いのが実状です。一方で、軽傷であれば次回診察・処置は必ずしも病院で行う必要はありません。そこで、ERを受診した通院困難な患者さんを対象とした訪問診療サービスを始めることにしました」と経緯を話す。
ER訪問の対象は「同院ERを受診」、「原則65歳以上で通院困難(まひ症状のある患者さんなどは65歳未満でも可)」、「1~2週間で治療が完結できる見込みがある」、「介護老人保健施設に入所していない」、「他医療機関の訪問診療を受けていない」、「対象エリア(鎌倉市全域、一部地区除く藤沢市、横浜市栄区)に在住」のすべての条件に合致する患者さん。
傷病は、ERを受診した時点で治療経過の見とおしがつきやすく、処置も訪問先で完結できる症例が対象となる。冒頭のルポのような高齢患者さんの軽症外傷などが中心となる見込みで、これまでに転倒による頭部挫創や割れたガラスによる腕の裂傷などの症例もER訪問を行ってきた。
訪問は、経験を積んできた2年目の初期研修医が務める。初期研修医は2年間の研修期間中、総合的な診療能力を身に付けるため、数人単位で各診療科をローテーションしており、2年目に1カ月間、訪問科の配属となる期間がある。その1カ月間にER訪問を担当する。訪問先での診療は、必ず電話やビデオ通話で上級医に確認・相談しながら行うようにし、安全と質を担保している。
「高齢の患者さんにとって通院は大きな負担がともないます。今後、通院困難な患者さんが増えていくなかで、“あったらいいな”というものを形にし、医療機関として、さらに社会の役に立っていきたい」と山上センター長は力を込める。