直言
Chokugen
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直言 ~
山本 晃司(やまもとこうじ)
屋久島徳洲会病院院長(鹿児島県)
2019年(平成31年)2月18日 月曜日 徳洲新聞 NO.1172
2019年1月17日、屋久島に火山灰が降りました。病院のある宮之浦地区では、あたり一面灰景色。わが家の猫たちも白猫が灰色になって帰ってきました。90歳になるおばあさんに聞きますと「こんなことは初めてだ」とのことでした。
屋久島の西方12㎞にある口永良部(くちのえらぶ)島が、また爆発したのです。15年5月、爆発的噴火で全島避難となり長期におよぶ避難生活の後、口永良部島民の方々は、なんとか島に戻ることができたのですが、昨年、また火山噴火が活発化。8月から今年1月まで噴火が断続的に続き、現在も噴火警戒レベル3の状態となっています。
さて話は少し変わりますが、日本列島には今から3万9000年前に人類が到達しました。当時は氷河期で海水面は今よりも約100メートルも低く、屋久島も隣の種子島も本土と陸続きでした。種子島には世界最古の落とし穴の跡や日本最古の生活遺跡が見つかっています。
両島の海岸線は氷河期でも照葉樹林が広がっており、当時、最も生活がしやすい環境でした。その旧石器時代の文化は、2万9000年前の姶良(あいら)カルデラの破局噴火で消滅してしまいます。姶良カルデラは鹿児島の錦江(きんこう)湾の北部を占める大きなカルデラで、噴火口の南の縁にあたるのが桜島です。日本列島に人類が到達してから現在に至るまでで最大の噴火と言われています。
そして縄文時代草創期から早期にかけての約1万6000年から8000年前まで、南九州では上野原(うえのはら)遺跡を中心に日本列島に先駆けて豊かな縄文文化が花開きました。ところが、過去1万年間で最も規模の大きい鬼界(きかい)カルデラの破局噴火が7300年前に起こり、南九州の縄文文化は滅びてしまいます。
南九州は火山フロントであり、南海トラフの西側に位置する地震地帯でもあります。さらに台風の通り道でもあり、毎年いくつか台風が直撃します。屋久島に住み始めて21年になりますが、屋久島がすっぽり台風の目に入ったことが2回あります。
このように自然災害がきわめて多い場所に住んでいると、人々は自然に対し謙虚になります。台風が来て飛行機や船が欠航になるのも致し方ありません。1週間、飛行機や船が欠航すると、お店に商品がなくなります。病院でも点滴が残り数本になってしまったことがありました。停電になることもしょっちゅうですが、病院の裏に設置した発電所により、CT(コンピュータ断層撮影装置)検査ができるなど、1カ月以上にわたる発電が可能です。
また、当院には透析施設があるため水の確保も重要です。断水への対応として、井戸を掘ることを検討しましたが、病院の立地が海岸のすぐそばであることから、井戸水に海水が入り込んで塩分濃度が高く、透析の水には使用できないとのこと。かつて断水した際は、町にお願いして給水車で水を分けていただきました。
津波に対しては屋久島のかなりの人々が海岸近くに住んでおり、避難訓練が活発です。病院が建っている場所は海抜20m。町の津波予測では24mの高さまでを想定しており、2階に避難すれば大丈夫ですが、発電所は浸水し、CTやMRI(磁気共鳴画像診断装置)、レントゲン、薬局、検査室などは1階にあり、病院機能は大打撃を受けます。このことに対しては、まだ十分な対応ができていません。
人間は今まで起こらなかった災害に対し、ぼちぼち起こるのではないかと考える一方で、今まで起こらなかったものは、明日も起こらないだろうと相反する考えをもちます。1万年に一度の破局噴火では、そもそも防ぎようがないし、避難の方法もありません。1万年に一度だったら致し方なしで諦める。では1000年に一度では? これもちょっと難しい。ただ、東日本大震災規模の地震や津波は、平安時代の貞観(じょうがん)年間に起こっており、当時の記録があります。そうすると、この辺までは対策が必要では? というのが一般的なコンセンサスだろうと思います。
1万年に一度の災害はやむを得ませんが、1000年に一度の災害までは対策を練っておく。この程度の対策が十分にできていれば、さまざまな災害に対応できると思われます。
皆で頑張りましょう。