病気の治療
medical treatment
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成人T細胞性白血病(ATL)は、ヒトT細胞白血病ウイルスⅠ型(HTLV-Ⅰ)の感染により生じる血液がんです。HTLV-1感染には性行為によるもの、輸血によるもの、母子間で母乳を介するものがあります。問題は感染してから血液がん症状(白血病やリンパ腫)が出るまでに数十年を要することで、ATLの発症は40歳以上で60~70歳代になります。HTLV-1感染疾患はヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染疾患と同様、強い免疫不全を呈する疾患です。ATL発症者の治療の問題とは別に日常診療ではHTLV-1キャリア(感染しているが未発症)を見逃さないことが重要になります。何らかの免疫不全状態が疑われた場合、HIVの検査とHTLV-1の検査は不可欠です。
HIVではウイルスはCD4陽性Tリンパ球やマクロファージなどに感染し、これらの細胞の中でウイルスが増殖して自らの感染細胞を破壊・著減させ、免疫不全が生じます。一方、ATLではHTLV-1ウイルスは逆転写後、CD4 陽性Tリンパ球の遺伝子DNA に組み込まれプロウイルスとなり、感染細胞を増殖・がん化させます。HTLV-1感染(ATL)細胞は他のリンパ系細胞を傷害し、細胞性免疫不全を招きます。
ATLの症状は病型により異なり、急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型に区別されます。急性型としてATLを発症すると発熱、全身倦怠感、リンパ節腫大、皮疹、肝脾腫の他、Flower cell と呼ばれる細胞など核異型を呈する異常リンパ球(図1)の増多を主体とした白血球増多、高LDH 血症、高カルシウム血症など検査値異常を示し、日和見感染症などが高率に出現します。HTLV-1感染ではキャリアや慢性型、くすぶり型の状態でも細胞性免疫低下に伴う日和見感染症として真菌感染症(カンジダ、アスペルギルスなど)、汎発性帯状疱疹、サイトメガロウイルス感染症(眼内炎、胃炎)、ニューモシスチス肺炎、糞線虫症などの症状を呈することがあります。その他、HTLV-1関連脊髄症(HAM/TSP)といわれる病態があります。
HTLV-1感染(ATL)細胞が増殖するのは主にリンパ節内と考えられており、進行するとリンパ節で増殖したATL細胞が血液中に流出し、特徴的なATL細胞が末梢血でみられるようになります。ATL発症までの経過は長いが、いったん、急性型やリンパ腫型として発症すると急激な経過をとります。
キャリアを含めいずれの病型でも、診断は抗HTLV-1抗体(PA 法あるいはELISA 法やWestern blot 法のいずれかで)が陽性であることが診断には必要です。ATLを疑えば、白血球増加 (末梢血スメアでFlower cellを確認)、高カルシウム血症、血清LDH上昇、血清可溶性インターロイキン2受容体上昇、などの有無をチェックします。
キャリアや、くすぶり型、予後不良因子(LDH、BUN、アルブミン値の異常)のない慢性型では急性型になるまで化学療法をせずに経過をみて、その間、免疫不全による各種日和見感染症に対処します。一方、予後不良因子のある慢性型および急性型、リンパ腫型では化学療法(LSG15レジメンなど)が必要になります。若年者(69歳以下)では同種幹細胞移植も試みられます。最近ではATL細胞の表面に存在する受容体であるCCR4を標的とした治療薬モガムリズマブ(ポテリジオ)が利用できるのに加え、通常、多発性骨髄腫の治療薬であるレナリドマイド(レブラミド)もATLの治療に有効であることが証明されています。
図1 HTLV-1感染症例で見られるリンパ球の核異型。2症例(症例A, B)のATLから。