徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

病気の治療

medical treatment

血液造血器の病気:再生不良性貧血(AA)と発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)

白血球、赤血球、血小板すべて減少

再生不良性貧血(AA)は骨髄中の造血幹細胞に異常が生じ、血液中の白血球、赤血球、血小板のすべてが減少する疾患で、汎血球減少症を呈します。骨髄を調べると骨髄組織は多くの場合、脂肪に置き換わっており、造血能に乏しくなっています。一方、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は補体による血管内溶血を主徴とする後天性造血幹細胞疾患です。PNHはしばしばAAに合併して発症し(AA-PNH症候群)、AA症例の40-50%でPNHクローンが陽性になるとされています。PNHのクローンサイズが赤血球で3-5%以上、顆粒球で23%以上のサイズになるとAA症状に加えてPNH溶血症状が現れるようになります。それ以下のクローンサイズは微少クローンと称され、微少PNHクローン陽性のAA症例はそうでないAA症例より免疫抑制療法に反応しやすいという報告が多いです。

AAの原因は特発性が9割

再生不良性貧血(AA)の原因は特発性(自己免疫的機序による造血幹細胞の傷害)が90%以上と最も多く、残りは薬剤・薬物、放射線などによる二次性の原因によるものと考えられています。稀なものとしてファンコニ貧血など先天性AAもあります。一方、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の原因は、PIGA遺伝子に生じた後天的変異のため異常な造血幹細胞がクローン性に拡大し、その結果として細胞膜上のGPI(glycosyl phosphatidylinositol)アンカータンパクを欠損したPNH血球(赤血球、白血球、血小板など)が生じるが、なかでもPNH赤血球が補体の攻撃を受けて血管内溶血を起こすことが、PNHの一番の問題になります。

血栓症や出血傾向などPNHの症状はさまざま

再生不良性貧血の症状は貧血、出血、好中球減少のための感染による発熱などが主たるものです。出血は大きな問題で、皮膚の点状出血・紫斑や鼻出血、歯肉出血などですが、血小板減少が<10,000/µLになると眼底・脳出血、血尿、下血などのリスクが高まります。一方、PNHの症状は多彩で、感染に伴う反復する溶血発作による貧血、ヘモグロビン尿、深部静脈血栓症などの血栓症、出血傾向、嚥下障害、男性機能不全、原因不明の腹痛など、PNH特有の症状を呈します。AAに併発したPNHではAAによる造血不全症状とPNH症状が重複して出ます。

AAの慢性経過ではPNHの合併に留意

AAも免疫抑制療法に反応しない例では急速に予後不良な経過をとる例がありますが、反応例では慢性経過となります。そのようなAAの症例で徐々に高間接ビリルビン血症やハブトグロビン低下、血清LDHの上昇をみる例ではPNHを疑いPNHクローンの検査が必要になります。PNHは極めて緩徐に進行し、溶血発作を反復し、溶血による貧血持続を呈します。出血と感染が主な死因となりますが、これらの症状はAAのそれと重複するためPNHの合併が見落とされやすいので注意が必要です。静脈血栓症は欧米に比しわが国では頻度が低いとされています。

AAとPNHの検査と診断

AAとPNHを診断するための検査は以下のとおりです。

末梢血検査
AAは好中球の絶対数、網状赤血球数、血小板数により重症度を分けます(最重症、重症、中等症、軽症)。特に好中球200/µL未満、網赤血球20,000/µL未満、血小板数20,000/µL未満を示す最重症例は問題になります。PNHの溶血所見としては、直接クームス試験が陰性、血清LDH値上昇、網赤血球増加、間接ビリルビン値上昇、血清ハプトブロビン値低下が診断の手がかりになります。PNHの診断は従来Ham(酸性化血清溶血)試験陽性または砂糖水試験陽性が行われていましたが、最近ではFlowcytometryにより、GPIアンカータンパクの欠損血球(PNHタイプ赤血球・顆粒球)を検出し、クローンサイズを定量します(図1)。
骨髄検査
AAの診断には骨髄検査所見が必須です。骨髄異形成症候群(MDS)との鑑別を要します。

免疫抑制療法で造血機能を改善

AAの治療法としては、まず免疫抑制療法(抗胸腺細胞グロブリン=ATG/ALG、シクロスポリン)が試みられます。これはAAの発症に関与している造血幹細胞傷害性リンパ球の働きを抑えて造血を回復させる治療法です。タンパク同化ステロイド療法が有効な例もあります。保険適応外ですが、トロンボポエチン受容体作動薬であるレボレード内服薬やロミプレート皮下注薬の効果を示す報告もあります。不応例で若年者では造血幹細胞移植が行われます。

一方、PNHには血管内溶血、骨髄不全および血栓症に対する対症療法が主体となります。現在、PNHに最も有効とされるのは、補体第5成分に対する抗体薬(エクリズマブ)です。溶血に対する劇的な抑制効果が示されています。血栓症の予防と治療にはヘパリンやワーファリン製剤による抗血栓療法を行います。

図1 FlowcytometryによるPNHクローンサイズの定量(A)微少クローンを有するAA例、(B)PNHを発症したAA例

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