病気の治療
medical treatment
medical treatment
播種性血管内凝固症候群(DIC)は感染症や悪性腫瘍など種々の基礎疾患の存在下に全身性かつ持続性の著しい凝固活性化が生じ、全身の主として細小血管内に微小血栓が多発する病態です。微小血栓多発の結果として、しばしば血小板や凝固因子といった止血因子が低下するため、消費性凝固障害(consumption coagulopathy)と称されます。この消費性凝固障害とその後の線溶活性化があいまって出血症状を呈します。さらに微小血栓が多発することで微小循環障害となり各種臓器不全を招きます。出血症状と臓器症状がDICの二大症状となります。
DICの基礎疾患として敗血症、急性白血病、固形がんが三大疾患とされています。他にも、外傷、熱傷、劇症肝炎、急性膵炎、あるいは産科合併症などが原因となることがあります。DICの発症機序には組織因子(TF; Tissue factor)の外因系凝固経路への関与が大きく、敗血症では単球や血管内皮からのTF産生やトロンボモジュリン産生低下により、急性白血病や固形がんでは腫瘍細胞が産生するTFが外因系凝固経路を活性化するため、と考えられています。
DICの診断は、基礎疾患があり、血小板減少、FDP上昇(D-dimer上昇を伴う)、フィブリノゲン低下、PT時間の延長、出血・臓器症状のあること、の条件を満たすものとされています。
出血症状としては紫斑、鼻出血、口腔内出血、血尿などです。さらに重篤な脳出血、肺出血、ショックになるような吐血・下血などを呈してくると致命症になるリスクが高いので要注意です。臓器症状を呈すると容易に多臓器不全(multiple organ failure:MOF)の病態となります。
DICの病態ではまず過凝固状態にありますが、その後の線溶の状態から線溶抑制型、線溶亢進型などに分類されます(図1)。線溶亢進型ではD-dimerは高値になり、PAI活性は低値で、出血症状が著明な状態になります。
DICの検査は以下のとおりです。
治療では、誘因となる基礎疾患の治療、ヘパリンの使用による血液凝固阻止、新鮮血・血小板の輸血、フィブリノゲンの静注などを行います。最近は遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤(リコモジュリン)も抗凝固活性を発揮するDIC治療薬として利用できます。
一般に生理的に存在するトロンボモジュリンの凝固阻止作用には2ステップあります。まず、トロンボモジュリンはトロンビンを捕捉することで、抗凝固活性を発揮します。トロンボモジュリンに捕捉されたトロンビンは、向凝固活性(フィブリノゲンをフィブリンに転換する作用や血小板活性化作用などの)を失います。さらに、このトロンビン-トロンボモジュリン複合体はプロテインC(Protein C:PC)を活性化します。活性型プロテインC(Activated protein C:APC)は活性型第V因子(Va)や活性型第VIII因子(VIIIa)を不活化し凝固を抑えます。その遺伝子組換え薬であるリコモジュリンには究極の血栓症ともいえるDICの治療薬としての期待が集まっています。
DICにおける凝固・線溶系マーカー | ||||
---|---|---|---|---|
マーカー | TAT | PIC | Total PAI-1 | FDP (D-dimer) |
線溶抑制型 | 上昇 > 微増 | 著増 | 軽度上昇 | |
線溶亢進型 | 上昇 < 著増 | 微増 | 上昇 | |
意味 | 著しい凝固の活性化状態 | 線溶活性化の反映、生体の防御反応 | 線溶阻止因子、線溶に強い抑制をかける | 血栓の分解産物。血栓が溶解しないと上昇しない |
基準値 | <3ng/mL | <0.8μg/mL、 | <50ng/mL | *<4μg/mL **<1.0μg/mL |