病気の治療
medical treatment
medical treatment
骨髄異形成症候群(MDS;myelodysplastic syndromes、myelodysplasia)とは、骨髄中で異常を生じた幹細胞(異常クローン)が腫瘍性に増殖し、正常造血が抑えられる病気です。これら異常幹細胞から増殖・分化した血球はさまざまな異常形態(異形成)を示し、その多くはアポトーシスに陥り無効造血となります。その結果、汎血球減少状態になると再生不良性貧血との鑑別が必要になります。一方で、末梢血や骨髄に芽球が出現しますが、急性白血病ほど芽球増殖は活発でありません。その病態はある意味で前白血病状態といえます。発症は40歳代から次第に増加し、高齢者に多い疾患で、わが国社会の高齢化に伴い、患者数は増加傾向にあります。
MDSの発症は、放射線やベンゼンといった環境暴露によって引き起こされる可能性があります。その他、二次性MDSが、がん治療、通常は放射線治療とアルキル化剤の組み合わせ(潜伏期5~7年)やDNAトポイソメラーゼ阻害剤との組合わせ(潜伏期2年)治療の合併症として起きることが知られています。MDSの骨髄は異常クローンの増殖により過形成になることが多いですが、一方でアポトーシスが亢進しているので末梢血では血球減少の状態になります。これらのMDS異常クローンにさらに遺伝子異常が付加されるとアポトーシス耐性獲得クローンがつくられ、急性骨髄性白血病の発症につながるとされています。
無症状かあるいは原因不明の慢性貧血でみつかることが多いです。あるいは通常の血液検査で末梢血中に芽球の存在を見いだされ診断につながることがあります。主たる症状は慢性貧血、出血、感染症ですが、これらは再生不良性貧血でもみられるものであり、MDSに特異的な症状ではありません。貧血は大球性から小球性までさまざまです。
予後良好の不応性貧血で生存年数は約5年、予後不良のタイプでは1年程度であるとされています。後者は急性白血病化症例です。MDSのなかで高率に急性骨髄性白血病(AML)へ移行する可能性の高い例は高リスク群に分類されます。MDSからAMLへの進行例の予後は不良です。
MDSはいくつかの病型に分類されますが、2000年に確立された新WHO分類が一般に用いられています。単一血球系統の異形成を伴う不応性血球減少症(RCUD;Refractory cytopenia of unilineage dysplasia、これにはRA、RN、 RTがある)、鉄芽球性不応性貧血(RARS;Refractory Anemia with Ringed Sideroblasts、これにはRARSとRARS-Tがある)、多血球系異形成を伴う不応性血球減少症(RCMD;refractory cytopenia with multi-lineage dysplasia、これにはRCMDとRCMD-RSがある)、芽球増加を伴う不応性貧血-1 (RAEB-I)、芽球増加を伴う不応性貧血-2 (RAEB-II)、分類不能MDS (MDS-U)に分類されます。また、別個に5q-症候群を設けています。末梢血あるいは骨髄中の芽球が19%まではMDSですが、20%になると急性骨髄性白血病(AML)に分類されます。
著明な貧血を呈する例には輸血療法が必要になります。ただし、長期にわたって濃厚赤血球の輸血をすると鉄過剰症(ヘモクロマトーシス)のリスクが高まるので、いかに輸血回数を控えてQOLを保つかが治療上の要点になります。エリスロポエチン(EPO)の投与を行い、有効な例があります。好中球減少例には顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の投与を行いますが、G-CSF投与は芽球の増加を刺激するリスクも高いので、G-CSFと少量のキロサイド(AraC)を併用すると有効な例があります。最近の進歩でDNA構造のepigeneticな変化が解明された結果、MDSではDNAメチル化制御が失われることによって無制御な細胞増速と血球減少症が引き起こされていることが判明し、現在ではアザシチジン(ビダーザ)などのDNAメチル化阻害薬が治療の主役を担うことになっています。MDSのなかでも5q-症候群にはレナリドミド(レブラミド)が特異的に有効であることが示されています。MDSに対して移植適応で造血幹細胞移植を行った例での長期生存率は不応性貧血(RA)では40~60%、RAEBでは20~30%程度であるとされています。
図1 MDSで見られる異常血球像;(A)赤芽球異常、(B)環状鉄芽球、(C)好中球異常、 (D)微小巨核球