徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

病気の治療

medical treatment

血液造血器の病気:中枢性尿崩症

内分泌科と血液内科にまたがる疾患

中枢性尿崩症は抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone=ADH、バソプレシン=arginine vasopressin=AVP)が欠乏するため、非常に薄い尿が過度につくられる結果、多飲多尿を主訴とする内分泌疾患です。一見、血液疾患とは無関係に思われますが、実際には両者はかなり密接な関係のあることを理解しておく必要があります。中枢性尿崩症は種々の血液疾患と関連して発症します。中枢性尿崩症は内分泌科でケアされ、血液疾患は血液内科でケアされているため、両科間での連携が必要なケースが少なくありません。

視床下部や下垂体部の異常が原因

尿崩症には腎性尿崩症と中枢性尿崩症がありますが、中枢性尿崩症は体内の水分量の調節にかかわる抗利尿ホルモンの産生量が減少することで生じます。抗利尿ホルモンは視床下部でつくられるホルモンで、下垂体後葉に貯蔵され、血液中に放出されます。このプロセスに関与する視床下部や下垂体部(HPR;hypothalamic pituitary region)に異常があると中枢性尿崩症の原因となります。それら疾患には、視床下部や下垂体部(HPR)に発生する胚芽腫、ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)やその類縁の組織球症であるErdheim-Chester 病(ECD)、サルコイドーシスや結核のほか、HPRの手術による損傷、頭蓋底の骨折など脳の外傷、動脈瘤や脳血管の閉塞、脳炎や髄膜炎などがあります。内分泌科ではリンパ球性下垂体炎(Lymphocytic hypophysitis)と診断されるケースもあります。

その他、血液疾患としてHPRに白血病細胞が浸潤することにより中枢性尿崩症を発症する疾患として、急性骨髄性白血病(AML)、骨髄異形成症候群(MDS)、慢性骨髄単球性白血病(CMMOL)、若年性骨髄単球性白血病(JMML)、急性リンパ性白血病(ALL)などが報告されています。

症状はのどの渇き、多飲、多尿

中枢性尿崩症の症状はのどの渇きと多飲、多尿です。白血病をはじめ血液疾患では原病の発熱、貧血、肝脾腫など、LCHやECDでは皮疹、骨病変、後腹膜や血管周囲の繊維化など中枢神経以外の部位に多彩な症状が表に出るので、これらの多様な症状に紛れて尿崩症の症状を見落とさないようにすることが肝要です。

早期治療で発症予防も可能

中枢性尿崩症とLCHの関連だけからみてみても、中枢性尿崩症を発症後、数年してからLCHを発症することもあり、LCH発症と同時、あるいはLCH発症後、数年後に中枢性尿崩症が出ることがあります。リンパ球性下垂体炎(Lymphocytic hypophysitis)と推定診断され、数年の経過を見ているうちに最終的にLCHと診断された例もあります。通常、確立した中枢性尿崩症は不可逆性で治癒しないとされますが、発症初期で部分尿崩症状態の時期にうまく原疾患を治療すれば尿崩症の発症を止めることも可能です。

尿量や電解質濃度などを検査

尿崩症の鑑別には中枢性か、腎性か、あるいはSIADHとの鑑別も含まれます。診断に最良の方法は水制限試験であり、約12時間にわたって定期的に尿の量や血液中の電解質濃度、体重を測定します。血清中バゾプレッシン(arginine vasopressin =AVP、antidiuretic hormone= ADH)濃度を測定し低値を確認します。脳MRI検査によるHPRの精査は必須です。T1強調画像で下垂体後葉のhot signal(抗利尿ホルモンの貯留像)が消失することが診断確定になります(図1)。

LCHなど腫瘤形成する疾患ではGd造影により下垂体茎から視床下部にかけて造影腫瘤陰影を認めます(図2)。また、LCHやECDではHPR病変は生検できなくても末梢臓器の生検による病理診断で疾患を確定できます。血液疾患の関与も血液像と骨髄像で診断できます。胚芽腫の診断には血清と脳脊髄液のhCG-beta測定が有用です。サルコイドーシスでは眼のブドウ膜炎、両側肺門リンパ節腫大、血中ACEやリゾチーム高値などが診断の参考になります。HPRに病変があるがどうしても原因疾患の確定に至らない場合、HPRの生検による病理診断が必要になることがあります。

原疾患の治療が優先

治療では原因となる疾患が優先されます。尿崩症早期なら原疾患の治療で治癒することもあります。MDSによる尿崩症が骨髄移植により改善したとする報告もあります。いったん確立した尿崩症にはデスモプレシン(DDAVP)を鼻腔スプレーあるいは点鼻で1日数回投与します。ミニリンメルトOD錠(1回投与量;60-120µg)という内服薬も利用できます。

図1 MRIのT1強調画像(TR=400)で見られる下垂体(矢印)後葉のhigh signalの消失は中枢性尿崩症を意味する。

図2 LCH4症例 (A-D)で見られるHPRへの浸潤影(Gd造影で下垂体茎から視床下部にかけてhigh signalがみられる。いずれの症例も中枢神経尿崩症を発症している)

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