徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

病気の治療

medical treatment

消化器外科の病気:特発性食道破裂

診断の遅れで救命率が大幅に低下

器質的疾患のない正常な食道に、突発的な内圧の上昇によって食道壁全層が破裂・穿孔が生じる病態で、1724年にBoerhaaveにより初めて報告された比較的稀な疾患です。早期診断・早期治療が極めて重要であり、初期診断の遅延によって感染性合併症(膿胸・縦隔膿瘍)により重篤な状態に陥り予後は不良となります。救急外科領域の重要疾患として常に念頭に入れておく必要があります。早期の診断と積極的な手術により救命率は90%を超えるものの、認識の低さによる診断の遅れから治療まで12時間以上要した場合、致死率は50%に上ります。

飲酒後の嘔吐が破裂をひき起こす

誘因の約7割が飲酒後の嘔吐とされ、30~50代の男性に多いです。正常の胃・食道接合部から下部食道に圧力が加わり縦方向に破裂します。好発部位は下部食道左壁とされており、これは下部食道壁の筋層が胃の筋層に比べて薄く、輪状筋の櫛状欠損が時にみられ、神経血管が壁外から進入するため先天的に脆弱な部分が生じているためといわれています。また下部食道左壁のみが心臓・大動脈・椎体といった周囲の支持組織を欠くという解剖的特徴も原因と考えられます。

食道造影検査が有効

初発症状は上腹部、胸部の激痛で呼吸困難、ショック、皮下気腫、チアノーゼなどがみられます(胸痛53%、腹痛51%)。 聴診で聴取される心拍動に一致した捻発性雑音(Hamman's sign)は20%に認めれます。

このような症状から、急性心疾患や上部消化管疾患と誤診されやすく、まずは疑ってかかることが極めて重要です。胸部X線写真やCTでは皮下気腫、縦隔気腫、胸水、気胸などがみられます。食道造影は極めて有効な確定診断方法であり90%に造影剤の漏出が認められます。穿孔部位の位置、大きさ、穿破の方向、胸腔内穿破の有無などが評価可能であり、保存的療法が可能か否か、手術の開胸開腹アプローチ方法など治療方針に関して大きな情報が得られます。

軽症の場合は保存的治療も選択肢

治療法の選択は、破裂部の大きさと診断までの時間に左右されますが、保存的療法、手術療法、内視鏡治療があります。

吐物による縦隔、胸腔の汚染がひどく、内容物は縦隔内を経由して椎体の両側面から流出し壁側胸膜外側の膿瘍となります。そのため、ドレナージ術はCTやエコーを用い、的確な部位を特定して内容物を吸引・排出する必要があります。縦隔内には洗浄が可能なチューブを背側にくるよう固定します。

保存的治療
  • 破裂が縦隔内に限局
  • 内容物が食道内にドレナージされている
  • 症状が軽度
  • 重篤な感染がない
  • 全身状態が極端に悪く手術が不可能な状態
などから選択されることがあります。
食道内、縦隔内、胸腔内ドレナージを行い、抗生剤投与、中心静脈栄養もしくは経管栄養を行います。
外科的治療
破裂部の閉鎖・修復、被覆術による補強、洗浄とドレナージ、栄養管理のための胃瘻腸瘻の造設となります。中部食道穿孔は右開胸、下部食道穿孔には左開胸アプローチが望ましく、経腹的アプローチの方法もあります。損傷部の周囲のデブリードメント、粘膜損傷範囲を上下に十分に確認し、吸収糸で2層縫合を行います。補強として胃底部、大網、横隔膜、胸膜、広背筋弁、菱形筋弁などの種々のパッチがあります。一次閉鎖を行わずチューブ留置による外瘻化を目指す方法もあります。
胸腔内汚染が高度の際には二期的手術を選択し、食道切除および頸部食道瘻、胃瘻造設を行い、全身状態が改善し胸腔内炎症沈静後に再建術を行う方法もあります。
内視鏡的治療
破裂部位のクリッピング、食道ステント留置などの報告があります。

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