消化器外科の病気:肛門周囲膿瘍
肛門周囲腫瘍は、肛門の周囲に膿瘍ができる炎症性疾患です。発熱、腫脹、疼痛、排膿などの症状を伴います。
肛門周囲腫瘍の分類
大きく痔瘻性膿瘍と非痔瘻性膿瘍の2つに分類されます。また腫瘍ができる位置によってさらに細かく分けることができます。
- 痔瘻性膿瘍
- 将来瘻管を形成して痔瘻になるものです。
- 低位筋間膿瘍痔瘻性膿瘍の約70%を占めます。原発口から細菌が侵入して、内外括約筋間の肛門腺に感染し小膿瘍を形成して、炎症が歯状線より下方に下がって波及して皮下外括約筋周囲に膿瘍を形成するようになります。
- 高位筋間膿瘍全膿瘍の10%がこれにあたり、歯状線より上方(深部)に括約筋間を膿瘍が広がっていったものです。
- 坐骨直腸窩膿瘍痔瘻性膿瘍の約20%が該当し、このほとんどが、原発口は肛門後方6°の肛門小窩です。
- 骨盤直腸隙膿瘍肛門挙筋の上部と仙骨と福間宇に囲まれた空隙に膿瘍が進展しているものです。
- 非痔瘻性膿瘍
- 肛門小窩から肛門腺の感染を介さないものをいいます。
- 皮下または粘膜下膿瘍肛門管上皮下または直腸粘膜下に起こる膿瘍。裂肛、内痔核の感染した場合や、血栓、異物などの外傷に起因するものがあります。
- 骨盤直腸隙膿瘍直腸側より直接に直腸粘膜を介して、膿瘍形成が起こります。直腸の腫瘍、憩室、子宮内膜症、異物などです。
- 毛巣瘻肛門後方から尾骨上方の正中殿裂間に排膿瘻管ないし膿瘍形成します。毛深い若年男性に多くみられます。
- 膿皮症殿部~会陰部にかけて、アポクリン腺感染を伴う慢性化膿性皮膚疾患で、アポクリン腺活動期の若い男性に多く、約半数は痔瘻を合併します。
- 痔瘻がん
- 壊疽性筋膜炎糖尿病、ステロイド治療中、免疫不全などの基礎疾患を有する患者さんに、肛門周囲膿瘍が起き嫌気性感染を併発すると、肛門周囲から会陰に組織壊死が拡大、進行して、放置しておくと、septic(敗血症)となり致命的になります。
- 血液疾患の肛門周囲膿瘍
- その他毛嚢炎、化膿性粉瘤、Crohn病に合併する膿瘍などです。
1 |
高位筋間膿瘍 |
5 |
粘膜・皮下膿瘍 |
2 |
低位筋間膿瘍 |
6 |
骨盤直腸隙膿瘍 |
3 |
筋間・坐骨直腸窩膿瘍 |
7 |
坐骨直腸窩膿瘍 |
4 |
粘膜下膿瘍 |
8 |
皮下膿瘍 |
治療は切開排膿が基本
CT、MRIなどで診断したうえで、治療(切開排膿)を行います。切開方法は以下のようなものがあります。
- 粘膜下膿瘍
- 皮下より内括約筋経由で切開もしくは穿刺します。
- 粘膜下膿瘍、低位筋間膿瘍
- 皮膚膿瘍傍流部を切開します。
- 高位筋間膿瘍
- 膿瘍形成が高位にのみ存在することは少なく、皮下深部より筋間内を高位にまで連続的に膿瘍を形成していることの方が多いため、皮膚側より切開を行います。
- 坐骨直腸窩膿瘍
- 膿瘍が両側に半周に及ぶ症例では2~3カ所切開するか、膿瘍腔が大きく深い場合はドレーンの挿入を行います。
- 骨盤直腸窩膿瘍
- 膿瘍部が深いが、多くの症例で肛門挙筋下にも存在するため、肛門挙筋下まで切開し排膿をまず行い、次に肛門挙筋を貫き膿瘍腔にネラトンドレーンを留置、洗浄も行います。