2020年(令和2年)6月22日 月曜日 徳洲新聞 NO.1241 一・二面
がん細胞を放射線ビームで狙い撃ち
南部病院 サイバーナイフ導入
徳洲会グループ初・沖縄県でも初めて
南部徳洲会病院(沖縄県)は最新の定位放射線治療装置「サイバーナイフM6」を導入、6月12日に転移性脳腫瘍の患者さんに対し1例目の治療を実施した。同機はロボットアームを利用し、数㎜〜5㎝ほどの小さな標的を極細の放射線ビームで狙い撃ちすることが可能。同院は高精度放射線治療装置「トモセラピー」の治療件数も順調に伸ばしており、両装置を駆使し、地域のがん治療向上に貢献していく。サイバーナイフの導入は徳洲会グループ初、沖縄県でも初めて。
短期間・集中治療に威力
サイバーナイフの最大の特徴は、多方向からビームを照射できるロボットアーム。アーム先端に取り付けた放射線治療装置が、患者さんの体のまわりを自由自在に動き、腫瘍の形状に合わせて集中的に放射線を照射する。正常組織へのダメージを最小限に抑え高い線量で治療できるため、リンパ節転移のない初期の前立腺がんであれば、これまで1カ月半かかっていた治療も、わずか1週間で完治を目指すことができる。
さらに、病変部近傍に挿入した金属マーカーや呼吸状態を監視するシステムにより、体内の腫瘍の動きを追尾できるのも大きな特徴。天井に設置した装置で、X線や赤外線を用いて体内の腫瘍の動きを捕捉できるため、患者さんは息を止めずに楽な状態で治療を受けることが可能だ。
南部病院ではすでにトモセラピーが稼働中だが、治療の目的は明確に違う。トモセラピーは乳がん術後や進行がんで予防領域の照射が必要な場合に、より広い範囲に正確な照射が可能。一方、サイバーナイフは放射線を細いビームとして照射するため、5㎝以下の小さな腫瘍に対し短期間で集中して治療できる。
眞鍋医長(前列左から3人目)と橋本医長(その右)、看護師、診療放射線技師、メディカルクラークなどが一丸となり対応
眞鍋良彦・放射線治療科医長は「トモセラピーは治療が2カ月近くかかるため断念する方もいました。しかし、離島や遠方から来られる患者さんでも、1週間で治療が終われば負担は軽くなります。これからは、トモセラピーとサイバーナイフを使い分け、患者さんにとって最適な治療を目指します」とアピールする。
同院では初期の前立腺がん以外にも、がんの脳や骨への転移を対象にサイバーナイフで治療を行う。4月からピンポイント照射の保険適用拡大があり、がんの背骨への転移も保険適用となった。橋本成司・放射線治療科医長は「転移がんによるつらい症状の緩和照射や、脊髄(せきずい)圧迫症に対する緊急照射の重要性を周知するため、県内医療機関で出張講演会を行い、紹介患者さんも増えてきました。保険適用は多くのがん患者さんにとって朗報です」と期待を寄せる。
転移性脳腫瘍など頭蓋内の病変でもサイバーナイフのメリットは大きい。頭蓋骨に直接ネジどめして頭部を固定する必要がないことから痛みがなく、患者さんの負担を大幅に軽減できる。
青空の下で寝転んでいるように感じる治療室環境
天井にスカイパネルを設置するなどリラックスできる治療室
治療室や拡張した待合室の内装は、橋本医長が中心となって仕上げた。「患者さんがリラックスして、少しでも明るい気持ちで治療を受けられる空間を目指しました。とくに治療室の天井に設置したスカイパネルは、超高精細な印刷と錯覚を利用した特殊な製品です。治療中は、風で雲が流れる沖縄の青空の下に寝転んでいるように感じると思います」(橋本医長)
こうした心遣いもサイバーナイフだからこそだ。同装置の治療は仰向けで30分程度かかるため、患者さんにリラックスしてもらうことも大切。一方、トモセラピーの治療では、治療期間が長くなることもあるため、通勤前にも受けられるよう朝7時から治療を開始するなど配慮を講じている。
また、同科では広報活動に注力。新型コロナウイルス禍のため、院内への周知にはeラーニングを導入、地域の医療機関にはサイバーナイフの説明動画をUSBメモリーで送るなどし、紹介患者さんの増加を目指す。
眞鍋医長は「コロナ禍の影響で治療を待機していた患者さんも、徐々に治療を再開し始めました。当科は独自のマニュアルを作成して感染対策を徹底しています。今後、治療期間の短いサイバーナイフは、感染対策で通院回数を減らしたい患者さんにとっても有用だと思います」と説く。