直言
Chokugen
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直言 ~
赤崎 満(あかさきみつる)
南部徳洲会病院院長(沖縄県)
2020年(令和2年)6月22日 月曜日 徳洲新聞 NO.1241
ロボットアームの複数の関節が回転し、アーム先端の加速器が患者さんの頭の周囲を滑らかに動き、多方向から患部へ照射――。これは2020年6月12日、南部徳洲会病院で始動した高性能放射線治療装置サイバーナイフM6の様子です。
当初、6月17日に前立腺がんの治療を1例目に予定していましたが、けいれんを発症した転移性脳腫瘍の患者さんへの治療を急遽(きゅうきょ)行いました。治療は30分で静かに終了、患者さんの表情は終始穏やかでした。コンピューター制御下で緻密に計算された機能美あふれるロボットの動きは、もはやSFの世界。新しい時代の到来を感じました。
当院は12年2月に放射線治療装置トモセラピーを導入し、今年で9年目。治療件数は17年からの3年間を見ても、339件、358件、477件と毎年増加しています。当院2台目の放射線治療装置がサイバーナイフM6です。全国で18台目、徳洲会グループ内でも沖縄県内でも初の導入となります。
サイバーナイフの利点は、つねに腫瘍を追尾すると同時に、ピンポイント照射性能を生かして1回の線量を上げ、トータルの治療回数を減らせること。前立腺がんであればトモセラピーで1カ月半かかる治療が、わずか1週間で完遂できます。骨転移は1~3回の照射です。これはとくに離島など遠方から来られる患者さんにも朗報です。
当院の放射線治療の特徴は根治照射6割、緩和照射4割と、全国的に見ても緩和照射の割合が高いことです。19年の治療件数477件のうち、前立腺がんの根治照射146件(30・6%)が最も多く、骨転移に対する緩和照射127件(26・6%)が続きます。がんにともなう痛みなどのつらい症状への治療には、素早い対応が欠かせません。放射線治療チームと泌尿器科や緩和ケア科、また20年3月に開設した疼痛(とうつう)治療外来など他科・多職種間の良好な連携があり、患者さんを円滑に受け入れる体制が整っています。
サイバーナイフの保険適用は当初、頭部の治療に限られていましたが、08年から体幹部の治療、今年4月からは脊椎(せきつい)転移に対する治療が認められました。
当院の放射線治療科のスタッフは、緊急照射や緩和照射について各医療機関を積極的に回って出張講演会を行い、また一般の方々への周知のため医療講演も頻回に行っています。コロナ禍が始まってからはサイバーナイフの説明動画を各医療機関に送付し、院内では職員向けにeラーニングを行っています。提供できる治療の選択肢が増えたことを伝えることで、がん患者さんへの貢献につながります。
当院は18年8月に看護師の特定行為研修を行う「指定研修機関」となりました。同年10月に1期目の研修を開始し、当院看護師5人が「呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連」および「ろう孔管理関連」の研修を修了しました。19年10月の2期目には、沖永良部徳洲会病院や石垣島徳洲会病院、また当院が連携している近隣のクリニックの看護師も受け入れ、「在宅・慢性期領域パッケージ」で14人、「動脈血液ガス分析関連」で5人が研修を受けています。
現在、実際に研修修了者が「気管カニューレ交換」、「胃ろう交換」、「膀胱(ぼうこう)ろう交換」を行っています。医師は負担軽減、患者さんとご家族は処置を待つ時間の短縮と、どちらからも大変喜ばれています。医師の「働き方改革」の一翼を担う制度でもありますが、看護師は新たな知識と技術を取得し、自分で評価・処置が行えるので、モチベーションの向上にもつながっています。なによりも人材を育てていこうとする看護部の情熱と努力によって支えられています。
わが国では新型コロナウイルス感染症がいったん終息に向かっているように見えますが、経済は大きな打撃を受け、皆、苦しんでいます。給料が減り、職を失う人も増えるなど、社会が激しく動揺するなかで、多くの人々が不安や焦燥感、憤りを感じていると思います。生活苦に追い詰められている患者さんやご家族がいることを忘れずに、また感染の第一波の時に医療従事者を守ろうと、多くの方々から頂いた感謝の気持ちを忘れずに、一人ひとりの患者さんに今一度、襟を正して真摯(しんし)に向き合うことが大切だと思います。
皆で頑張りましょう。