2019年(令和元年)10月7日 月曜日 徳洲新聞 NO.1205 四面
ルポ――札幌ひがし訪看ST
自宅での療養をサポート
患者さん「訪問看護の日は楽しみ」
徳洲会グループは在宅サービスの充実を図るため、昨年10月以降、訪問看護ステーション(訪看ST)の新規開設に積極的に取り組んでいる。在宅療養に必要なサービス提供の一端を担い、通院困難な患者さんに対応するとともに、退院後も住み慣れた自宅で療養生活を送りたいという患者さんの希望に応えていくためだ。今年6月に開設した札幌ひがし徳洲会訪問看護ステーションの訪問看護に同行した際の様子を中心に紹介する。
入院中から相談に乗り在宅へ
札幌ひがし訪看STのスタッフ。右から増田所長、山田圭恵看護師、中村和歌子看護師、中川健二・理学療法士
団塊の世代が75歳以上になる2025年をめどに、国は要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を目指している。
徳洲会グループは救急・急性期医療や回復期、慢性期医療に加え、在宅医療も展開し、退院後の患者さんをサポートしてきた。さらに在宅サービスの強化を図るため、地域包括ケアシステムの一翼を担う訪看STの開設を急ピッチで推進、昨年10月以降、今年7月までに16施設を新たに開設。
これによりグループ全体では計53施設(定期巡回・随時対応型訪問介護看護を含む)に増加した。
今回取材で訪れた札幌ひがし徳洲会訪看STの開設は今年6月1日。それまで札幌東徳洲会病院が長年にわたり取り組んできた「みなし指定」の訪問看護事業を移管する形で発足した。同院内に事業所を構える。管理者の増田陽介所長(診療看護師)によると、登録患者さんは35人前後で、月間約130件の訪問看護を実施。札幌市北区と東区が主な訪問エリアだ。「慢性心不全で在宅酸素療養を行う患者さんや医療処置のある患者さんの入浴介助、高齢独居の方で、ご自分では内服管理が難しい方、終末期のがん患者さん、糖尿病をもつ患者さんへのケアなど幅広く対応しています」と増田所長はアピール。
臨地実習で同行した看護学生(左)が血圧を測定
ある日の午前、増田所長の訪問看護に同行させてもらった。この日は地域の看護学校から臨地実習に来ている学生も同行。車で移動中、増田所長はハンドルを操りながら、訪問看護の心構えを看護学生に熱心に伝えた。
たとえば「私たちはプロなので、一定レベルの手技ができるのは当然のこと。そのうえで、プラスアルファで何ができるかを考えてほしい」、「患者さんの状態をしっかりと観察し、手技中でも患者さんの言葉に耳を傾けたり、どのように感じているかをつねに把握したりすることを、おろそかにしないことが大切」、「清拭(せいしき)(全身の清潔を保つために身体を拭く)では患者さんの羞恥心に配慮することが重要です」など真剣に語りかけた。学生は何度もうなずきながら、助言を心にとめている様子だった。
このほか車中では、訪問先の60代女性患者さんの情報を共有し、この日のケアの内容などを確認。十数分、車を走らせると患者さん宅に到着した。「おはようございます。体調はいかがですか。今日は学生さんが一緒に来ています。まず血圧を測らせてくださいね」
増田所長が患者さんに優しく話しかけ、この日は同行した看護学生が挨拶の後、血圧や体温、SpO2(動脈血酸素飽和度)を測定した。
患者さんは虚血性腸炎により、消化管に穿孔(せんこう)を来し、回腸ストーマ(人工肛門)を造設。その後、ストーマ脱の状態となり自己管理が難しくなったことから、約2年半前に訪問看護の利用を開始。これまで、ストーマ脱に対する外科手術を施行したものの、訪問看護を週2回利用する生活が続いている。
患者さんから日頃の様子を聞き出す増田所長(右)
訪問時には患者さんの全身状態の確認に加え、ストーマ装具の交換や、皮膚トラブルがあれば、その処置などを実施する。増田所長が装具交換などを行い、看護学生が見学。また、神経因性膀胱(ぼうこう)で排尿に難渋することがあるため、自己導尿カテーテルの指導も行った。
患者さんは「私の場合はストーマの装具交換がある日だけ、看護師さんが来る前に入浴できます。ストーマの周囲は密閉されて痛がゆくなるので、お風呂に入れる訪問看護の日は毎回とても楽しみです」と笑みを浮かべた。
ひととおりの処置を終えたところで、学生が患者さんに困っていることなどを質問。患者さんは「出かける前に気になるし、導尿カテーテルもなかなか慣れなくて大変なんです」と排尿にともなう苦労を打ち明けていた。
増田所長は「日頃の訪問看護を通じ、患者さんに体調変化があれば状態が悪くなる前に病院への受診につなげ、再びスムーズに在宅に移行できるようにしていきたいと考えています。そのためにも入院中から患者さんの相談に乗り、退院後の在宅生活を見据えた最適な指導ができるよう取り組んでいきたい」と抱負を語っていた。