徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

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Tokushukai medical group newspaper digest

2019年(令和元年)7月15日 月曜日 徳洲新聞 NO.1193 一面

本態性振戦へ低侵襲治療
MRgFUS保険診療を開始
湘南藤沢病院

湘南藤沢徳洲会病院(神奈川県)で臨床研究終了後に自由診療として実施していた薬剤抵抗性の本態性振戦に対するMRガイド下集束超音波治療(MRgFUS)が6月、保険収載された。これはMRI(磁気共鳴画像診断)で標的部位の位置と温度をリアルタイムにモニタリングしながら、約900本の超音波を一点に集中、標的部位を熱凝固する治療。同院は7月5日、同疾患の患者さんに対しMRgFUSの保険診療1例目を実施した。

早期の社会復帰も可能に

「一人ひとりの患者さんに丁寧に対応していきたい」と亀井総長(左から2人目) 「一人ひとりの患者さんに丁寧に対応していきたい」と亀井総長(左から2人目)

本態性振戦は身体の一部が自分の意思とは無関係に震える病気。コップが持てない、文字が書けないなど生活に支障を来し、QOL(生活の質)が著しく低下する。薬物療法が基本だが、治療効果を得られないことも多く、そうした難治例に対し外科手術が行われることがある。しかし、頭蓋骨に小さい孔を開けること(穿頭(せんとう))や電極を脳に穿刺(せんし)・留置することが必要で、心理的な抵抗感や手術に関連する合併症などの問題があった。

一方、MRgFUSは超音波で標的部位を熱凝固するため、外科的侵襲がほとんどないのがメリット。治療効果や有害事象を治療中に確認しながら進めるため、治療の確実性・安全性が高く、早期の社会復帰も可能になるなど患者さんが受ける恩恵は大きい。

同治療は約900本の超音波を標的部位に集束、標的部位が54度以上になることを目標に、照射エネルギーを徐々に増やしていく。直径約数㎜ときわめて微小な凝固巣をつくることから精度の高い操作が求められるが、MRIで標的部位の位置と温度をリアルタイムにモニタリングできるため、それが可能になる。

ただし、すべての患者さんが対象になるわけではない。事前検査でSDR(頭蓋骨密度比)が低いと、超音波が通過しにくく、温度が上がりきらないことがある。この場合、何回も超音波を照射しなければならず、患者さんへの負担が増大。予期した治療効果が得られないこともある。

世界初の症例治療も実施

本態性振戦1例目の治療の様子。図形や数字を書いて震えの状態を確認 本態性振戦1例目の治療の様子。図形や数字を書いて震えの状態を確認

湘南藤沢病院は2016年11月にMRgFUS装置を導入し、将来的な保険適用を視野に入れ臨床研究をスタート。治療では同院の伊藤恒・神経内科部長が全体の指揮を執り、湘南鎌倉総合病院(神奈川県)の山本一徹・脳神経外科医長が機器の操作を担当する。

17年3月14日、1例目として本態性振戦の患者さんを治療。続いて、同年4月25日に振戦優位型のパーキンソン病、同年8月29日にジスキネジア(不随意運動の一種)をともなうパーキンソン病の1例目をそれぞれ実施。ジスキネジアをともなうパーキンソン病のみ現在も被験者を募集中だ。

また、同院ではMRgFUSを用いた世界初の症例も2例実施している。同年9月26日に心臓ペースメーカーを埋め込んでいるパーキンソン病患者さん、18年10月16日にHolmes振戦(脳幹の障害後に起こる振戦)の患者さんに対し、それぞれ院内倫理委員会(IRB)の承認を得て治療を実施した。

伊藤部長は「ペースメーカーを埋め込んでいる患者さんの治療では、湘南藤沢病院の田中慎司・循環器内科部長と中部徳洲会病院(沖縄県)の轟純平・循環器内科医長と連携することにより、安全に治療を行うことができました。これらの経験はMRgFUSの対象となる患者さんの幅が広がる可能性を示しています」と診療科を越えた連携の重要性、そこから生まれた同治療の可能性を語る。

湘南藤沢病院では薬剤抵抗性の本態性振戦のみ臨床研究終了後、自由診療で対応していたが、今年6月に本態性振戦に対するMRgFUSが保険収載。7月5日に保険診療として初の治療を実施、右上肢振戦が完全に消失し、有害事象も認めなかった。亀井徹正総長は「経験を重ね、自信をもってMRgFUS治療を提供できるようになりました。これまでは脳外科的手術に抵抗があり、我慢していた患者さんが多くいますので、一人ひとりの患者さんに丁寧に対応していきたい」と展望する。

治療のアピールも積極的だ。昨年10月には院内講堂で地域の医療機関に向け同治療に関する勉強会を開催。また、伊藤部長、山本医長、湘南藤沢病院の福武滋・神経内科医師、堀越一孝・理学療法士(PT)は日本神経学会、日本神経治療学会、国際パーキンソン病・運動障害疾患学会(MDS)、アジア・オセアニア神経学会議(AOCN)、ヨーロッパ集束超音波シンポジウム(EUFUS)など、さまざまな学会で演題を発表した。

日本神経治療学会のオフィシャルジャーナルである『神経治療学』に伊藤部長が本態性振戦の長期成績を、堀越PTが同治療後に生じた一過性の歩行障害の評価を、それぞれ報告。また、伊藤部長はMDSのオフィシャルジャーナルである『Moveme nt Disorders Clinical Practice』に心臓ペースメーカーを埋め込んでいる患者さんに対する同治療の世界初の経験を、山本医長は『Movement Disorders』にSDRが低い症例に対する同治療のポイントを、それぞれ英文で報告した。

伊藤部長と山本医長は他の専門家と共同で、『Journal of Neuro logy and Neuroscience』にSDRが低い症例に対するアレンドロネート(骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の治療薬のひとつ)の有効性を英文で報告。SDRが低い患者さんに対する希望の光であるとして、17年のEUFUSで優秀演題賞に選ばれた。

このような学会活動・論文発表の積み重ねにより、海外の医療機関との連携も進んでいる。来年の日本神経超音波学会で特別講演を依頼されている伊藤部長は「治療経験数を誇るのではなく、目の前の症例を丁寧に治療し、そこから得られたデータを正確に発信することこそが、より有効かつ安全な治療を患者さんに提供し、国内外から信頼をいただくことにつながります」と話している。

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