2019年(令和元年)7月22日 月曜日 徳洲新聞 NO.1194 一面
札幌東病院
けいれん性発声障害に新治療
徳洲会で初・北海道では3施設のみ
札幌東徳洲会病院は、けいれん性発声障害の新治療であるチタンブリッジを用いた甲状軟骨形成術2型の実施施設に認定された。徳洲会グループで初、北海道では同院に加え北海道大学病院、旭川医科大学病院の3施設のみ。同手術は昨年6月に保険適用され、低侵襲で長期的な発声障害の改善が期待できる。札幌東病院の國部勇・耳鼻咽喉(いんこう)科・頭頸部(とうけいぶ)外科主任部長は「病気で声を失っても、手術で治る可能性があるので諦めないでください」と呼びかける。
低侵襲で長期的な改善が期待
「治療すれば回復する声はたくさんあります」と國部・主任部長
けいれん性発声障害は、声を出そうとすると自分の意思と無関係に声帯が異常な動き方をしてしまう病気。診断が困難なため、耳鼻咽喉科や内科などをいくつも受診し「異常なし」、「精神的なものが原因」と言われるケースが多い。診断がついても、治療できる施設が限られているのが現状だ。
同疾患を疑う症状として、①声が詰まって出にくい感じ、または震える感じがある、②他人が聞いても、ほとんど正常に近いが、本人のみ発声しにくい感覚がある、③耳鼻咽喉科を受診する時に限って声の状態が良くなることがある、④家族と会話する時など、リラックスしている時は楽に声が出ることが多い、⑤話し始めが出にくいことが多い――など。
これまで代表的な治療に声帯筋へのボトックス(ボツリヌス毒素)注射があった。ボトックスには筋肉の収縮を抑制する働きがあるため、けいれんが一時的に改善する。ただし、効果は3カ月程度で切れるため、その都度、外来で注射を受ける必要がある。同治療は昨年5月に保険適用された。
國部・主任部長は「当院でも対応可能ですが、外来で治療できる手軽さはあるものの、3カ月ごとに注射しなくてはいけないので、患者さんは負担に感じることもあると思います。また、ほかの発声障害では有効な音声リハビリテーションも、けいれん性発声障害では効果が低いと言われています」と説明する。
原因不明で診断は困難
同疾患の新しい治療法として、昨年6月にチタンブリッジを用いた甲状軟骨形成術2型が保険適用された。発声時に声帯筋が意図せず過閉鎖する症状に着目し、声門が内転(内側に閉じる)しても声帯が強く閉まらないように、甲状軟骨を縦に切開し、声帯と軟骨の付着部を軟骨ごと外側に広げて固定する治療法で、半永久的な効果が期待できる。
手術で固定に用いるチタンブリッジは、日本で開発された医療機器。患者さんの症状や甲状軟骨を広げる幅に応じ、ブリッジ部や羽部の適切なサイズバリエーションを選択する。手術は局所麻酔で行い、術中に患者さんに発声してもらうことで、最適な声が出せる位置で固定することができる。
同手術の適応は、①日本耳鼻咽喉科学会認定の耳鼻咽喉科専門医により、内転型けいれん性発声障害と診断、②自覚的または他覚的に努力性発声や声の途切れを1年以上有する内転型けいれん性発声障害がある、③音声障害に対する専門的知識を有する耳鼻咽喉科医または言語聴覚士が音声指導・音声訓練を実施したが無効――の3項目をすべて満たすことが必要。
同手術を実施するには、日本喉頭科学会の定める施設基準を満たさなければならない。臨床試験非参加施設の場合、①常勤の日本耳鼻咽喉科学会専門医2人以上で、このうち1人以上は実施医基準(耳鼻咽喉科専門医取得後5年以上の手術経験があるなど)を満たす、②音声障害に対する言語聴覚士による音声指導、音声訓練(連携医療施設も含む)が可能である――をすべて満たすことが必要となる。
札幌東病院は同手術の保険収載時に実施施設として申請し、認定された。全国的に執刀要件を満たす医師がまだ少なく、施設基準も厳しいことから、実施施設は少ない。北海道では同院に加え北海道大学病院、旭川医科大学病院の3施設のみだ。
國部・主任部長は「けいれん性発声障害は原因が不明なため、診断が難しく放置されることもあります。しかし、治療すれば回復できる声はたくさんあります」と指摘。今後は、地域の医療施設や患者さんへの啓発が必要だと強調する。「けいれん性発声障害という病気も、その治療法も、まだ認知度は低いですが、医療講演などを活用して広く知っていただけるよう地道に努力します」と意欲的だ。