直言
Chokugen
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直言 ~
髙橋 和範(たかはしかずのり)
瀬戸内徳洲会病院院長(鹿児島県)
2019年(令和元年)7月15日 月曜日 徳洲新聞 NO.1193
私は福岡県の出身で、地元の福岡大学医学部に進学しました。大学では神経内科を専攻し、福岡の徳洲会グループ外の病院に入職。そこでは神経難病を患っている患者さんを診させていただき、とくにALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さんが多く来られ診療にあたりました。
4月1日付で瀬戸内徳洲会病院に院長として着任しました。当院は鹿児島県の奄美大島の西南端にあり、対岸には加計呂麻(かけろま)徳洲会診療所が立地する加計呂麻島があります。そして、その加計呂麻島のさらに先には請島(うけじま)、与路島(よろじま)という「離島の離島」があり、当院の守備範囲となっています。請島、与路島の患者さんは、船で当院に来られ、診療の前後には商店や役場に行かれたりします。定期船があるのですが、往復で3時間程度かかります。海が荒れれば欠航となりますので、患者さんの生活面も考え、なるべく迅速に診療するように心がけています。
当院では研修医の先生方に、この請島、与路島の研修ツアーを実施しています。遠く離島の離島から来られる患者さんの苦労を体験してもらうのが目的です。研修医の先生方からは請島、与路島に行くと、「こんなきれいな島に住まわれていて、いいですね」という声が聞かれますが、天候によっては1週間も船が行けないところです。患者さんが、いかに大変な思いをされ、当院を受診されているのかを理解していただいています。
島は、うっそうとした南国特有の樹木が密集しており、そのなかを進んで行くと、突然、ぽっかりと視界が開け、そこには数軒の集落があり、住まわれている方々がおられるのです。皆さんご高齢で、90代の患者さんが当院まで来られるのは本当に難儀なことだろうと実感し、私自身、真の訪問診療を経験したと感じました。訪問診療に興味をもたれている方は、ぜひ一緒に行ってみませんか。
徳洲会グループは2カ月に1回、全国の病院幹部が参加する医療経営戦略セミナーを開催していますが、私も先日、初めて出席させていただきました。そこでは全国の徳洲会病院の業績について、さまざまな角度から分析・評価したり、離島・へき地の病院運営などについて話し合われたりしていました。日本一と言われる民間医療グループのスケールの大きさを目の当たりにし、瞠目(どうもく)した次第です。徳洲会グループは“生命だけは平等だ”の理念の下、「いつでも、どこでも、誰でもが最善の医療を受けられる社会」の実現を目指しています。まさに離島・へき地に住まわれている方々も最善の医療を受けられるようにしていくのが、私たちの重要なミッションのひとつであります。
次代を担う若手の先生方は当院のような離島に立地する病院、また、へき地にある病院で研鑽(けんさん)を積むことで、医師として社会人として大きく成長できると思います。じっくりと患者さんを診ることができ、患者さんのご家族や生活環境などバックボーンまでも踏まえた診療は大変貴重な経験です。総合診療の力を付けるには、離島・へき地の病院は、絶好の場所ではないでしょうか。当院は、患者さんを介護されている方が休めるように、患者さんを一時的に受け入れるレスパイト入院にも力を入れています。今後も、この地に根差した医療を提供してまいりますので、徳洲会グループのご支援・ご協力をお願いいたします。
宮沢賢治の『雨ニモマケズ』という詩があります。
「雨にも負けず 風にも負けず 雪にも夏の暑さにも負けぬ 丈夫な体をもち 欲はなく 決して怒らず いつも静かに笑っている 一日に玄米四合と 味噌と少しの野菜を食べ あらゆることを 自分を勘定に入れずに よく見聞きしわかり そして忘れず 野原の松の林の陰の 小さな萱ぶきの小屋にいて 東に病気の子供あれば 行って看病してやり 西に疲れた母あれば 行ってその稲の束を負い 南に死にそうな人あれば 行って怖がらなくてもいいと言い 北に喧嘩や訴訟があれば つまらないから止めろと言い 日照りの時は涙を流し 寒さの夏はおろおろ歩き みんなにでくのぼーと呼ばれ 褒められもせず 苦にもされず そういうものに 私はなりたい」
困っている方を助けたいという気持ちを常にもって、皆で頑張りましょう。