2018年(平成30年)8月6日 月曜日 徳洲新聞 NO.1145 四面
老健コスモスと老健静岡徳洲苑
認知症への対応に注力
認知症カフェや新たなケア手法
高齢化の進展により認知症が増加するなか、認知症の方や家族を地域で支える取り組みや、介護施設の入所者さんが自分らしく、生き生きと過ごすことができるよう新たなケア手法の導入が徐々に進んでいる。介護老人保健施設(老健)コスモス(北海道)による「認知症カフェ」の様子や、老健静岡徳洲苑の「ダイバージョナルセラピー(DT)」、「ミッケルアート」といった新たなケア手法を紹介する。
老健コスモスの認知症カフェではスタッフが手伝いながら独楽や竹とんぼを製作
認知症カフェは認知症の方と家族、地域住民、医療・介護専門職などが集い、お茶を飲み気軽に相談したり、認知症予防・進行防止を企図した講話やレクリエーションを行ったりする場をいう。
2018~25年度を対象期間とする認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)で国が重視しており、全市町村での開設を目標に掲げている。
コスモスは「ほほえみカフェ」の愛称で15年12月に第1回を開催。コスモスは計100床で、うち40床は認知症棟。16年度3回、17年度4回、今年度は7月末までに2回と合計10回のカフェを開いてきた。17年度は認知症の方や家族、コスモス利用者など計78人が参加。
参加費は飲み物代として1人1回100円。認知症予防体操を行ったり、小物入れ、カレンダー、しおりなど雑貨づくりを行ったりと、毎回、趣向を凝らしたイベントを実施し、介護や認知症などの相談に応じている。
左から、老健コスモスの田中施設長、西村・支援相談員、船木雅実事務長、西崎・総看護師長
西村隆宏・支援相談員(社会福祉士)は「当施設のある厚別区は札幌市内で2番目に高齢化率が高い地区です。介護や認知症のことで困っている方の掘り起こしや、交流の機会を提供するため、認知症カフェを始めました」と話す。
これまでの相談内容は「家族が認知症であることを認めず、どうしたらよいかわからず困っている」、「認知症予防のために何をしたらよいのか」、「介護施設の利用料金が高くて悩んでいる」など。
取材の日は第10回開催日で19人が参加。指先の運動と、赤色で書かれた「あお」や青色で書かれた「みどり」などの文字を、読み方ではなく色で答えるという頭を使うゲームを実施。工藤大暉・介護福祉士と中嶋公樹・介護副主任(介護福祉士)が順に手本を示し取り組んだ。この後、折り紙で独楽(こま)を、ストローと牛乳パックで竹とんぼを製作、実際に回したり飛ばしたりして楽しんだ。
田中俊誠施設長は「五感で刺激を受けることにより認知症予防につながります」と話す。
この日は介護保険の利用方法に関する相談があり、西村・支援相談員が対応した。西崎百合子・総看護師長は「福祉の基本は困っている方を助けること。相談され頼りにされる施設を目指したい」と抱負を語っている。
表情が豊かになり発語増
老健静岡徳洲苑では自然と身体が反応するオクタバンドを実施
「いち、にぃ、さん、しぃ……」
黄緑、青、ピンクのカラフルな伸縮性のある布の端を握り、高齢者の方々が声を合わせて数える。中央には上下する大きな風船。これはタイミングを合わせて布を上下左右に動かし、風船を布の上でバウンドさせ、床に落ちないようにするオクタバンドと呼ばれるアクティビティ(活動)だ。
ここは静岡徳洲苑の3階食堂。取材で訪れた7月11日の昼過ぎ、入所者さんがオクタバンドを行っていた。同苑は2階が一般棟(60床)、3階が認知症棟(40床)。どの入所者さんも積極的に腕を動かし、25回、30回と記録を伸ばしていた。
児玉悟・介護副主任(介護福祉士)は「ふだんあまり表情のない方も、表情が豊かになったり、発語が増えたりと効果が見られます」と話す。
同苑は2014年にDTを導入。DTは個人の楽しみやライフスタイルに焦点を当てた個別ケアの手法で、オクタバンドはDTの一環で行うアクティビティのひとつ。
滝井芳美・総看護師長は「当苑は開設以来、介護やリハビリ、生活支援などさまざまな場面で個別性を重視してきました。当苑の方針と合致したためDTを導入、各個人の興味・関心を引き出し、各入所者さんにとって思い出深いことを日々の生活に取り入れています」。
たとえば、生け花の師範の免許をもっていた入所者さんの事例では、エントランスに飾るフラワーアレンジメントを行ってもらい、写真を撮影して作品集(アルバム)をつくったところ、BPSD(認知症の周辺症状)の軽減に加え、要介護度が4から2に大きく改善。
懐かしい昭和の風景が興味を引くミッケルアート(老健静岡徳洲苑)
さらにミッケルアートを3年前に導入。これは昭和の懐かしい日常風景の絵画を用い、何が描かれているかなどを当てるクイズや、絵に関連する思い出を話し合う回想療法の一種。
2階食堂の机を囲み、成岡千裕・介護副主任(介護福祉士)が朝市の光景の絵画を用いて実践。配られた絵を真剣に見つめる入所者さんの姿が印象的で、あちらこちらから答えが返ってきた。
「具体的な場面設定があり思い出を引き出しやすく、回想療法を効果的に行えます。若い職員がコミュニケーションの取り方を学べるため、今年から新人教育に利用しています」と成岡・介護副主任。寺坂英明事務長は「今後も地域から必要とされる施設を目指したい」と意気込みを見せている。