2018年(平成30年)7月9日 月曜日 徳洲新聞 NO.1141 一面
徳洲会
透析患者さんに新たな治療の道
修復腎移植「先進医療」への適用が正式承認
厚生労働省は7月5日、第66回先進医療会議を開き、東京西徳洲会病院が申請した修復腎移植術について、先進医療に条件付きで適用することを正式に承認した。2011年に初めて申請してから7年越しの承認。先進医療に適用されたことで、患者さんは保険診療と保険外診療を併用し治療を受けることができる。現在、国内では約32万人の腎臓病患者さんが透析治療を受けており、うち約1万2000人が腎移植を希望しているが、腎移植待機期間は平均15年と長く、その間、多くの透析患者さんが亡くなっている。同移植術への先進医療適用により、新たに治療の選択肢が増えることは、透析患者さんにとって朗報と言える。
実施医療機関の広がりを期待
修復腎移植術とはドナー(臓器提供者)の腎臓に発生した小径(直径7㎝以下)がんを切除した後、同腎臓を修復、レシピエント(臓器移植者)に移植する治療技術(図参照)。同移植術が先進医療に適用されたことで、患者さんは保険診療(診察料、検査料、投薬料、入院料など)と保険外診療(先進医療技術部分)を併用し、治療(混合診療)を受けることができる。なお、日本では原則、混合診療は認められていない。
【臨床研究の沿革】
第35回徳洲会グループ共同倫理委員会は2009年、修復腎移植の第三者間の臨床研究を審議し、条件付きで承認。米国のClinicalTriaIs.gov(国立国会図書館内)、日本の大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)、日本医師会の治験促進センターに登録後、レシピエント登録を開始し、現在までに118人が登録。
09年12月に1例目(第三者間)、10年3月に2例目(親族間)、4月に3例目(第三者間)、4例目(第三者間)を実施。この間、5月に2例目が死亡する有害事象が発生し、6月に臨床研究を一時中断、原因追究と厚労省への報告などを行い、7月に再開。同月に5例目(第三者間)、8月に6例目(第三者間)を実施。
10年の第50回同委員会で、第三者間について5例目までの実施状況を報告、さらに5例を追加、承認を得た。
11年1月に7例目(第三者間)、8例目(第三者間)、6月に9例目(第三者間)、9月に10例目(第三者間)、12年2月に11例目(第三者間として10例目)を実施。
その後、第70回同委員会で、第三者間について10例目までの実施状況を報告し、さらに10例追加、承認を得た。8月に12例目(親族間)、13例目(第三者間)、13年3月に14例目(第三者間として12例目)を実施。
同年の第85回同委員会で、第三者間移植に関する実施期間の延長を承認(16年まで)。14年の第104回同委員会で、親族間移植に関する実施期間の延長を承認(同)。15年3月に15例目(親族間として3例目)、7月に16例目(親族間として4例目)を実施。12月に17例目(第三者間として13例目)を実施。
16年の第24回共同倫理委員会迅速審査で、親族間移植に関する実施期間の延長を承認(19年5月まで)。17年3月に18例目(親族間として5例目)を実施。
同移植術は、これまで臨床研究としての実施しか認められていなかったが、先進医療への適用により、実施医療機関が広がる可能性があり、将来的に保険診療に適用される道も開かれた。
5日の先進医療会議では同移植術について①倫理的に問題などはない、②すでに保険導入されている医療技術と比較し、やや効率的、③将来的に保険収載を行うことが妥当――と先進技術としての適格性を評価。なお、保険導入などの評価に際しては、しっかりしたキャンサーボード(多職種が集まり、がんの治療方針を協議する検討会)を構成することで、手術適応を順守し、医療の透明性を確保することが必須とした。
総評としては、移植のためにドナーに過大な侵襲を与えたり、がんの根治性を損なったりしないよう、細心の配慮が必要。また、レシピエントの選定についても客観性と公平性を担保する必要がある。このため適応決定や実施にあたっては、高度な技術と専門知識をもったメンバーで構成する修復腎移植検討委員会による慎重な検討が必須であり、ドナーの適格性判断のみならず、レシピエントの選定にも関係学会が推薦する外部委員が参加すべき――とし、条件付き適と総合判定した。
すでに徳洲会グループは、ドナーからの腎摘出の妥当性を審議するため、関係学会から推薦を受けた外部委員2人を含む検討委員会を組織しているが、今回の指摘を受け、レシピエントの選定についても、早急に同様の検討体制を整える方針だ。厚労省は8月以降、同移植術の実施体制などを確認したうえで、先進医療として告示する。
一般社団法人徳洲会の安富祖久明・副理事長は「修復腎移植術が先進医療に適用され、治療の選択肢が増えたことは、患者さんにとって大きなメリットです。患者さんのために実施医療機関が広がることも切に望んでいます。また、今回の先進医療適用にあたって、ご協力いただいた移植関連学会など関係各位に深く感謝しております。今後ともご支援のほど、よろしくお願いいたします」とコメントしている。
徳洲会は09年12月から修復腎移植術を臨床研究として実施、これまで第三者間の移植を13例、親族間を含めると18例の移植を行い、おおむね良好な成績を収めている。親族間では17年3月15日に5例目を実施、目標例数を達成し、臨床研究への症例登録を終了。
患者さん「早く腎移植を受けたい」
修復腎移植術を審議する先進医療会議
東京西病院で透析治療を受けている50歳代の男性患者さんは「週3回、1回4時間程度の人工透析を受けるため、病院に足を運んでいます。仕事もままならず、今はただ生きているだけと言ってもいい状況です。腎移植を受けるために日本臓器移植ネットワークに移植希望登録していましたが、なかなか適合する腎臓が出てきませんでした。早く修復腎移植が受けられるようになることを望んでいます」と語っている。
40歳代の女性患者さんは「献腎移植は他の方々の死を待つ感覚があり、一方、生体腎移植は元気な方々の身体にメスを入れるため、それぞれ心理的に抵抗感があります。修復腎移植は、そのような抵抗感が軽減されるため、機会があれば受けてみたいです。先進医療への適用は移植を必要としている患者さんにとって大きな前進と受け止めています」。湘南藤沢徳洲会病院(神奈川県)で10年以上、透析治療を続けている40歳代の女性患者さんは修復腎移植について「どのくらいの期間、機能してくれるのだろう、自分でしっかり新しい腎臓を管理できるのだろうかという不安がありますが、透析治療で苦労している私たちのために、新しい医療技術を考えてくださるのは、とてもありがたいことです」と目を輝かせた。
【先進医療申請の経緯】
病気腎(小径腎腫瘍)を用いた修復腎移植術(第三者間)の研究について、2011年10月に中国四国厚生局四国厚生支局愛媛事務所を通じ先進医療申請。書類不備との指摘を受けたために申請内容の見直しを行い、12年6月に再度申請。8月の第67回先進医療専門家会議で先進医療の定義の再確認と、修復腎移植の審査での留意すべき問題点などについて指摘を受け、研究実施計画書を修正。
16年8月の第46回先進医療技術審査部会で追加の指摘を受け、継続審議。また同年4月に「ロボット支援腹腔(ふくくう)鏡下腎部分切除術」が保険適用となった状況をふまえ、当該部分切除の対象となる腎がんを同研究の対象から除外、および目標症例数を25例から40例に変更するなど見直しを行い、17年3月の第55回同部会で審議されたが、追加の指摘を受け継続審議。
17年10月の第63回同部会で、前回追加で受けた指摘事項について、主に主要評価項目であるレシピエントの腎生着率の評価期間を術後1年から術後5年に延長、早期無効中止を想定した中間解析を設定、これにともない目標症例数を40例から42例に変更、審議を経て条件付き適となっていた。
現在、国内では約32万人の腎臓病患者さんが透析治療を受け、毎年、新たに約3万人が透析治療を導入する一方、約2万人の透析患者さんが亡くなっている。こうした透析患者さんのうち約1万2000人が腎移植を希望しているが、心臓死や脳死ドナーからの献腎移植は年200例にも満たないのが実情。
腎移植待機期間は平均15年と長く、その間に亡くなる透析患者さんも多い。こうしたなかで、修復腎移植術はドナー不足解消の一助になると期待されている。
なお、海外では100例を超す同移植術の報告があり、また、WHO(世界保健機関)のガイドラインでは小径腎がんを、がんの伝播リスクが低いカテゴリーとして分類。徳洲会グループが実施した同移植術全例で、がんの再発がないことと合致している。
海外の同移植術に関する研究では、透析患者さんより、腎移植患者さんのほうが8年長く生存しているという報告もあり、献腎を待つよりも、同移植術を受け入れることで、QOL(生活の質)の向上と生命予後の改善が期待できる。