2019年(令和元年)9月23日 月曜日 徳洲新聞 NO.1203 三面
徳洲会 小児科部会
第11回症例発表会を開催
多様な報告通じ研鑽
徳洲会小児科部会は8月31日から2日間、中部徳洲会病院(沖縄県)で第11回症例発表会を開催した。恒例の特別講演は児童虐待をテーマに、外部講師として沖縄県立中部病院の川口真澄・小児科医師を招聘(しょうへい)。2日目の症例発表では、徳洲会グループの4病院が計9演題を発表した。グループの小児科医や初期研修医らが集まり、活発に意見を交わした。
特別講演は「児童虐待」テーマ
「子どもの明るい未来につなげましょう」と川口医師
初日は小児科部会長の新里勇二・中部徳洲会病院副院長兼小児科部長による挨拶の後、川口医師が「子ども虐待の対応」と題し特別講演を行った。沖縄県で児童虐待防止に精力的に取り組む小児科医の講演を聴講しようと、会場には部会参加者のみならず、中部徳洲会病院の小児科病棟スタッフや子ども虐待防止委員会メンバーも駆け付けた。
川口医師は、まず児童虐待の現状を説明。全国の児童相談所での児童虐待相談対応件数は増加傾向を示し、2018年度の速報値でも前年度比19・5%増だったことを明かした。背景には、面前DV(子どもの前で配偶者や家族などに暴力をふるうこと)が心理的虐待にあたるとされたことによる心理的虐待の増加、警察などからの通告の徹底、国民や関係機関の関心の高まりなどがあると指摘した。
相談経路の割合では警察がほぼ半数を占め、続いて近隣・知人、家族、学校の順に最も高く、医療機関は2%である現状を指摘した。
自分ひとりで対応せず 必ず周囲と連携・協力
活動の継続に意欲を見せる参加者(前列右から3人目が新里副院長)
川口医師は虐待を受けている子どもは有病率がきわめて高い点や、重症例を見逃した場合の致死率が極めて高いことなどを挙げ、「小児科医にとって虐待は“重要な小児期鑑別疾病”と捉えることで、身近な問題として受け入れやすくなります」と訴えた。
そのうえで、経験談を交えながら一般診療で虐待の早期発見・早期対応につなげるポイントを解説。「リスク要因の評価」では保護者(若い、精神疾患など)、子ども(早産、よく泣くなど)、家族(ひとり親、パートナーへの暴力など)、社会(コミュニティー活動の欠如など)のそれぞれにリスクがあることを強調した。
また、「周辺状況の確認」ではChild Abuse(児童虐待)になぞらえ、Care delay(受診行動の遅れ)、History(問診上の矛盾)、Injury of past(損傷の既往)、Lack of nursing(ネグレクトによる事故・発達障害)、Development(発達段階の矛盾)、Attitude( 養育者・子どもの態度)、Behavior(子どもの行動特性)、Unexplainable(けがの説明がない・できない)、Sibling(兄弟が加害したとの訴え)、Environment(環境上のリスクの存在)――の10項目を挙げた。
「身体症状」では身長・体重の継続的な記録(成長曲線)、全身診察の重要性を説いたほか、偶発性外傷が起こりにくい部位、虐待による皮下出血や火傷の特徴を示唆。記録については「裁判や事件化した際に医学的評価が誤りと見なされないように、創傷の場合は“擦過傷”ではなく“表皮剥離”などとし、受傷機転を特定した記載は避ける」、「写真撮影では傷などの大きさや部位が特定できるように、全身と傷の拡大の最低2枚撮影」など具体的な注意点も提示した。
2歳未満の骨折、虐待による乳幼児頭部外傷の鑑別なども説明した。
子ども、保護者のそれぞれに話を聞く重要性も指摘し、個別に話をするシチュエーションづくりのコツや話をする時の心構えを紹介した。
最後に、対応する際のポイントを明示。必ず他のスタッフと協力しチームで対応することや、児童相談所・警察・行政など地域の関係機関と連携を図ることなどを挙げ、「それぞれの限界を理解しつつ、協働していくことが大切」と指摘し、「子どもと家族のSOSに気付き、子どもの明るい未来につなげましょう。対応に迷った時は“チャイルドファースト”を心がけてください」と呼びかけた。
4病院が9演題を発表 参加者から質問相次ぐ
発表が終わるたびに参加者が相次いで質問
2日目は一般演題発表を行い、福岡徳洲会病院が4演題、中部徳洲会病院が3演題、宇治徳洲会病院(京都府)と松原徳洲会病院(大阪府)がそれぞれ1演題を発表した。初期研修医から小児科部長まで、経験の異なる多様な医師が演者を務め、自院で経験したまれなケースや対応に難渋した症例を報告した。
感染経路に不明な点が多い疾患や、早期診断が難しいとされている疾患、薬による合併症、難病など演題テーマは多岐にわたり、1つの発表が終わるたびに治療の進め方や考え方などについて活発に意見を交わした。
最後に宇治病院の篠塚淳・小児科副部長が挨拶し閉会。新里副院長は「今回も有意義な会でした。特別講演のテーマを虐待としたのは、社会的な関心が高いだけに、きちんと現状を知ってもらいたいという思いがあったからです」と振り返り、「継続が大事です。今後も活動を続けていきたい」と意気軒高。