2019年(令和元年)9月23日 月曜日 徳洲新聞 NO.1203 四面
読み解く・読み得“紙上医療講演”㉘
顎関節症で肩こりに!?
今回は顎(がく)関節症について、山北徳洲会病院(新潟県)の相川弦・歯科口腔(こうくう)外科歯科医師が解説します。顎関節症は推定1900万人の患者さんがいるとされ、男性よりも女性に多く見られる疾患です。一般的に、あごの関節の痛みや口の開閉が思うようにできないといったイメージがありますが、肩や首、こめかみなどの違和感の原因になる可能性があります。相川・歯科医師は「原因不明の肩こりなどに悩んでいる方は、一度、歯科や口腔外科を受診することをお勧めします」。
相川弦・山北徳洲会病院(新潟県)歯科口腔外科歯科医師
顎関節症は① 外耳道(耳の穴)の前にある顎関節、②下あごを動かすための咀嚼(そしゃく)筋(側頭部や頬のあたりの筋肉)、③顎関節を円滑に可動させるための関節円板――の異常により、起こる疾患です。日本顎関節学会では①~③のほかに先天的に下あごが小さいといった「変形性顎関節症」を含め、顎関節症のタイプを大きく4つに分類しています(表)。
症状は、あごに痛みを感じる、口が開けづらい、顎関節を動かした時に音がする、耳や首、こめかみ付近の痛み、肩こりなどがあり、あごや口周辺以外にも現れます。一般の方は顎関節症というと「あごの関節にまつわる症状」とイメージしがちですが、側頭部の痛みや首の違和感なども顎関節症の症状に含まれます。内科や脳神経外科を受診したものの原因がわからず、歯科や口腔外科を受診し顎関節症が原因だったというケースも少なくありません。
顎関節症の原因は関節円板のずれ、咀嚼筋の緊張、精神的なストレスなど、さまざまな要因が積み重なって起こる「多因子病因説」と考えられています。このうち筋肉の緊張については、歯根膜(歯の根っこにある膜)が関係しています。歯根膜には圧力センサーのような働きがあり、上下の歯が接触するだけでもセンサーが感知、咀嚼筋の緊張が始まり、持続すると顔や頭、首、肩などの痛みにつながると言われています。
とくに介護職や引っ越し業者など力作業で歯を食いしばる動作が持続する職業に就いている方は、注意が必要です。また、パソコン操作などデスクワークでも無意識に上下の歯を接触させていることがあるため気を付けましょう。
診断は問診や触診、X線検査、開口量(口の開き具合)、必要に応じてMRI(磁気共鳴画像診断装置)検査で顎の形態などを確認してつけます。治療は病態にもよりますが、基本的に外来通院になり、開口訓練を行ったり、マウスピースを用いたりして、関節や咀嚼筋の負担を軽減します。いずれの治療も2週間ほど様子を見て、その後の対応を決めていきます。関節円板の障害が重症化(癒着や変形など)している場合など、ごく限られた症例では手術することもあります。
なお、顎関節で音が鳴るケースでは、日常生活に支障がなければ治療を行わないこともあります。顎関節症は多因子病因説であることから、すべての原因を特定・解決するのは困難であり、完治が難しく症状を繰り返す例も少なくありません。
顎関節症は男性よりも女性かつ若年者に多く見られ、『顎関節症治療の指針2018』(日本顎関節学会)でも顎関節の雑音や痛みなどを自覚している方の割合は20~40代が顕著とされています。ただし、6歳から85歳以上までの各年齢階級の多くで、男女ともに何らかの自覚があり、顎関節に何らかの症状が見られる患者数は推定1900万人に上るとのことから、“顎関節症は誰でもかかり得る疾患”と言えます。
顎関節症は、重症化すると口が開きにくくなり日常生活に支障を来します。予防するには柔らかいものを食べるなど、できるだけ関節や筋肉の負担を軽減することが重要です。違和感があれば、早めに医療機関で受診することをお勧めします。