2019年(令和元年)5月27日 月曜日 徳洲新聞 NO.1186 三面
日本形成外科学会総会・学術集会
徳洲会から9演題
メインテーマは“大志を抱いて”
第62回日本形成外科学会総会・学術集会が5月15日から3日間、札幌市で開催された。メインテーマは「Be ambitious~大志を抱いて」。徳洲会グループは口演(口頭発表)、ポスターを合わせて9演題を発表した。口演の概要を紹介する。
全国から多数の形成外科医が集まり傾聴
庄内余目病院(山形県)の富樫真二・形成外科部長兼創傷ケアセンター長は
「庄内余目病院における褥瘡(じょくそう)手術の現状」をテーマに発表。褥瘡は在宅介護を断念させる要因になることから同院では手術を含め積極的に治療を実施している。富樫部長は2015年10月から19年4月までの70症例を検討。62例は寝たきりで、28例に認知症があり、褥瘡部位は仙骨部が38例と最多。寝たきり患者さんの89.4%が治癒、周術期の死亡例はなかった。「地方では在宅医療に対する社会インフラが整っていません。そのため在宅では手に負えない褥瘡が確実にあり、褥瘡があるので介護施設への入所を断られる現実もあります」と課題を挙げた。
八尾徳洲会総合病院(大阪府)の綾部忍・形成外科・美容外科部長兼創傷ケアセンター長は
「Modified dermis graft による鼻部再建症例の検討」と題して発表した。Dermis graft は、皮膚欠損創に移植するため脱上皮した植皮片をいう。鼻部に通常の植皮術を行った場合は術後色素沈着が必発だが、本法では周囲からの上皮化により治癒するため色素沈着が生じない。また局所皮弁で生じるゆがみもほとんど認めない。
原法では臀部(でんぶ)から真皮弁を採取するため荷重部の瘢痕(はんこん)形成が課題だった。そこで同院では非荷重部である下腹部から全層皮膚を採取して、脱上皮を行い、植皮片を作成。09年以降取り組んだ14例を検討し「手技やデザインが容易であり、外鼻の色調、質感、形態の再現についても良好な結果が得られました」。
和泉市立総合医療センター(大阪府)の井内友美・形成外科部長は
「立体構造を考慮した高齢者の外眼角部の再建」と題して口演。外眼角部は目じり付近のことで、組織が欠損した場合、立体構造であるうえに、加齢にともない皮膚が弛緩(しかん)し健側(障害を受けていない側)と同じ形態の再現が難しいことから、左右の対称性が得られる再建法の選択が重要と指摘。
眼瞼(がんけん)部悪性腫瘍で外眼角部を切除した2例に対し、malar flap(頰部皮弁)の移動時に生じたdog ear(縫合創の両端の突出部分)を皮弁として利用、2つの皮弁で外眼角部を再建した。「malar flapを2つの皮弁に分割して再建することにより、外眼角部の立体構造と高齢者に認める余剰皮膚のかぶさりを同時に再現でき有用です」とまとめた。
湘南厚木病院(神奈川県)の関征央・形成外科医師(聖マリアンナ医科大学形成外科学助教)は、米国マイクロサージャリー学会から毎年1人選出されるBest Microsurgical Save of the Yearを19年2月、日本人医師として初めて受賞するなど世界的に注目されている。今回は学術フォーラム「マイクロサージャリーの発展と未来」での招待講演で、
「~上下肢LVA (Lympha ticovenular Anastomo sis)を安全で確実に~」と題し、関医師が考案した手術法である膝上(しつじょう)切開法とdynamic-LVA法を中心に、安全で効果的なリンパ浮腫治療法を発表。また
「Real-time Indoc yanine Green Videolym phography Navigation for Lymphaticovenular Anastomosis」(リンパ管細静脈吻合(ふんごう)術=LVAにおけるリアルタイムICGリンパ管造影法)と題し、手術用顕微鏡の強い光源下でもリアルタイムに、術中にリンパ管を特定したりLVAの吻合を確認でき、手術精度の向上に寄与する新たなICGリンパ管造影法に関する口演も行った。
東京西徳洲会病院の寺部雄太・形成外科医長は
「踵部(しょうぶ)潰瘍を治療中に踵骨(しょうこつ)骨折を併発し、デブリードマン(創面切除)と踵骨骨折内固定を同時に行い治療した1例」をテーマに発表。糖尿病を併発する40代の男性患者さんで、左足の足底部にできた潰瘍の保存的治療中に、右足の踵部に潰瘍が発生。本人の希望で保存的治療を継続したが、歩行中に右踵骨を骨折し、近医受診後、同院での治療を希望し入院に至った。
血糖コントロール後、デブリードマンを行い、踵骨骨折を内固定で整復。局所陰圧閉鎖療法、植皮術を行い、外来加療に移行した。「慢性下肢潰瘍にともなう骨折の場合に、ともすれば下腿(かたい)切断となるところを、デブリードマンと同時に内固定による治療の可能性が示唆されました。ただし骨髄炎や感染の適切な診断が必要となります」。
東京西病院の鬼塚彩由美・形成外科医師は
「シャルコー関節に関節固定術を施行し良好な経過を得た一例」と題し発表。シャルコー関節は神経障害性関節症と言われ、足部変形が進行し創形成につながることがある。
糖尿病性神経障害にともない発症した60代の男性患者さんの症例では、免荷装具による固定後、アライメント(関節などの位置関係)の安定や創傷予防などのため関節固定術を施行。その後、変形の進行や潰瘍の再発はなく、短下肢装具を作成し独歩可能となった。「不安定型のシャルコー関節では手術加療が有用です。ただし合併症の報告も多いため適応の見極めが重要です」と結んだ。