直言
Chokugen
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直言 ~
斉藤 憲人(さいとうのりひと)
宮古島徳洲会病院(沖縄県)院長
2019年(令和元年)5月27日 月曜日 徳洲新聞 NO.1186
4月1日、宮古島徳洲会病院院長に就任しました。11年前、どこまでも澄みきった青い空、エメラルドブルーの海に囲まれた南の島(宮古島)に初めて降り立ちました。都会から遠く離れた離島で医師として何ができるか。医師として成長し島の人たちに少しでも貢献できるように自分の可能性を信じ、エネルギーに満ちあふれていたあの頃の気持ちを、今も決して忘れないように心がけています。
内地で救急専門医を取得したものの、島に住むことになった私の役割は、プライマリケア医でした。11年間で私はプライマリケア医として一般内科だけでなく、外傷、マイナー科の診療、内視鏡、健診、訪問診療、“離島の離島”である徳洲会伊良部(いらぶ)島診療所での診療、医療講演など都会ではできない経験を数多く積ませていただきました。
当院には毎月、グループ病院の後期研修医(専攻医)と初期研修医のほか、大学などから4人前後の初期研修医が来ます。毎朝の勉強会では各スタッフが研修医に講義したり、研修医が調べたことや症例を発表したりする場を設けています。初診外来や病棟管理を通じた実践の場(on the job training)も研修医から好評です。私は研修医たちに「患者をさばく、こなす、転がす」という言葉を使わないように指導しています。
患者さんに思いやりと関心をもっていれば、自ずとこのような言葉が出るはずがありません。実際の臨床の現場では研修医たちの下した判断、診断、治療が明らかに見当違いでなければ見守りながら指導を行っています。私も知らないこと、わからないことがあれば、研修医と一緒に調べたり、研修医に教えてもらったりします。こうした積み重ねにより、お互いにwin-win の良好な関係が構築できると信じています。当院は研修医の力が必要不可欠です。多くの応援の先生方と研修医の頑張りのおかげで成り立っていると言っても過言ではありません。
私は年1回、同僚の実家の農家にお願いして、あまり乗り気でない息子たちと研修医と一緒に、宮古島島民の文化と生活を学ぶべくサトウキビ刈りに行きます。ともに汗を流し、ともに心地良い疲労を感じながら、貴重な体験をさせてもらうことで、いろいろな気付きや島の方とのコミュニケーションなど、大切なものを学ばせてもらっています。私がふだんから大切にしているのが、人とのコミュニケーションです。患者さんはもちろん、職員一人ひとりと意思疎通を図る際に、相手を思いやる気持ちを何よりも大事にしています。しかし、この当たり前のことを医療従事者の誰もが実践するのはなかなか難しい。人は、どうしても自分中心に物事を考えてしまいがちだからです。
つねに相手のことを思いやる気持ち、自分自身がされて嬉しいことを相手にしてあげる。まずは同じ職場で働く同僚から始めてみてはどうでしょうか。つねに優しい言葉をかけるように心がけ、困っている時は助ける気持ちが大切です。それこそが真の医療従事者の姿ではないでしょうか。
同僚に優しく接することで、初めて患者さんにも優しく接することができると思います。相手を思いやるという行為は、すなわち人を好きになるということです。たとえ苦手な人でも、その人の良い部分を探し、少しでも好きになる努力をすれば、克服できると信じています。
当院は、頼もしいコメディカルを含めたチーム医療が不可欠です。部署間の連携がとても重要になるため、職員一人ひとりが仲間を大切にし、困っている職員がいれば助け積極的にアドバイスすることが大事です。医療を行ううえで、一人では何もできません。我々の向かう「ベクトル」に皆の力を結集することが、患者さんを助ける大きな力となります。
もうひとつ、私が目指すことは当院の「カラー」をつくることです。それは、接遇を含め患者さんが安心できる医療の提供に向け、全職員が努力することで、実現できると信じています。「宮古島徳洲会病院で診てもらって良かった」と言っていただけるように、皆で、そのカラーを彩っていきましょう。この「ベクトル」と「カラー」の融合が、さらに良い病院につながっていくことを心から願っています。皆で頑張りましょう。