徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

徳洲新聞ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2018年(平成30年)9月3日 月曜日 徳洲新聞 NO.1149 一面

AI・IoT・ロボット 病院の未来を探る!

治療成績が良ければ患者さんが来院する時代から、患者視点による経営でペイシェント・エクスペリエンス(患者体験)価値の創造が求められるようになってきた。これにはAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、知能を強化したスマートロボットなど、最新のテクノロジーが大きな役割を果たす。今号では全面にわたり“未来の病院像"を俯瞰(ふかん)する。

スマート治療室
機器・設備の情報統合
手術精度と安全性向上

「治療室全体をひとつの医療機器ととらえるイメージです」と村垣教授 「治療室全体をひとつの医療機器ととらえるイメージです」と村垣教授

血圧や心拍、呼吸、心電図など生体情報から、神経生理モニター、フローサイトメトリー(細胞内に含まれるDNA量の測定装置。腫瘍の悪性度を評価)、手術ナビゲーション画像、手術顕微鏡、電気メスといった手術にかかわるさまざまな医療機器・器具などの情報を4Kの大型高精細モニターに表示。頭上には無影灯が輝き、傍(かたわ)らに執刀医の腕を支え疲労や震えを軽減するロボットアームが控える。

また、患者さんが横になる手術台はロボットベッド(開発中)となっており、患者さんが横になったまま術中MRI(磁気共鳴画像診断装置)検査を行うため、同じ室内にあるオープンMRIにベッドごと自動で誘導する――。これは東京女子医科大学が先端生命医科学研究所内に設置したスマート治療室(SCOT(スコット)=Smart Cyber Operating Theater)の様子だ。

東京女子医大にあるスマート治療室(ハイパーモデル・プロトタイプ) 東京女子医大にあるスマート治療室(ハイパーモデル・プロトタイプ)

SCOTはIoTを活用し、治療室内の医療機器や設備、画像情報などをネットワークで接続・連携。手術の進行状況や患者さんの状態などに関する情報の一元的な統合把握により、手術の精度と安全性の向上が狙いだ。

治療を可視化するモニターを通じて効率的に情報共有が可能、若手スタッフへの教育効果も期待できる。また同じモニターを、たとえば医局に設置し“手術戦略デスク”として俯瞰した立場から他の医師が助言をすることも可能だ。手術顕微鏡から見える術野の映像を含め時系列の全情報を記録・保存。術後はもちろん術中にも振り返りたい場面を迅速に確認できる。

SCOTの開発プロジェクトは2014年にスタート。東京女子医大を中心に広島大学や信州大学など5大学、医療機器・システム関連企業など11社が参画。日本医療開発研究機構(AMED)のサポートを受けながら取り組んでいる。

時系列に整理・統合された医療機器や設備などの情報を表示する大型4Kモニター 時系列に整理・統合された医療機器や設備などの情報を表示する大型4Kモニター

SCOT開発プロジェクトを統括する東京女子医大先端生命医科学研究所の村垣善浩・先端工学外科学分野/脳神経外科教授(兼任)は「SCOTは各種装置を有機的に連携し、それらがもつ情報を時間的・空間的に同期させ、時系列に整理・統合することができます。治療室全体をひとつの医療機器ととらえるイメージです」と説明。

「たとえば脳断面を示すナビゲーション画面上に、手術操作した脳の部位ごとの運動誘発電位や、脳腫瘍の悪性度を準リアルタイムにマッピング(図示)することができます。術者の意思決定を支援し、術後の運動機能障害を予防したり、的確な腫瘍切除が可能になったりします」と続ける。

SCOTの成否の鍵を握るのは、従来、別々に表示・保存されていたメーカーや機種が異なる手術室内の機器・設備から得られる情報を、ネットワークで統合することだ。SCOTプロジェクトでは、国内の産業界で普及しているミドルウェア(統一的なアクセス手段)であるORiN(オライン)を基盤技術としたネットワーク接続のソフトウェア「OPeLiNK(オペリンク)」を開発し、課題をクリアした。

信州大学のスタンダードモデルのスマート治療室(写真提供:AMED スマート治療室PJ) 信州大学のスタンダードモデルのスマート治療室(写真提供:AMED スマート治療室PJ)

16年、広島大学にベーシックモデル、同年、東京女子医大にハイパーモデル(プロトタイプ=機器・設備の接続・連携実証用)、今年7月、信州大学にスタンダードモデルを設置。広島大学、信州大学では臨床研究を開始し、効率性や安全性を検討。脳腫瘍の摘出術など脳外科の開頭手術などに活用している。

オープンMRIを中心に国産医療機器の情報を統合・表示するのがベーシックモデルで、OPeLiNKを導入し治療室のほぼすべての機器を接続したのがスタンダードモデルだ。ハイパーモデルは、スタンダードモデルに開発中のロボットベッドを付加するなどロボット化を図り、AIや新たな精密誘導治療技術を取り入れる構想だ。東京女子医大では今年度末を目安に同大病院内にハイパーSCOTを導入し、臨床研究1例目を実施予定。

計画では19年度内にスタンダードモデルを事業化(販売開始)し、国内外に普及したい考え。さらにハイパーモデルで確立した技術を順次投入していく考えだ。

「さまざまな情報を活用することで手術手技を低リスクに行い、術後の合併症をできるだけ未然に回避することも期待できます」(村垣教授)

SCOTは村垣教授の専門領域である脳外科分野を念頭に開発を進めてきたが、今後、普及していく過程で血管内治療(カテーテル治療)や内視鏡治療といった分野への展開も視野に入れている。

より質の高い医療の提供に資するSCOTは、患者さんの体験価値向上に寄与する病院の強力なツールになりそうだ。

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