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Tokushukai medical group newspaper digest

2018年(平成30年)1月22日 月曜日 徳洲新聞 NO.1117 一面

重症外傷の救命率向上へ
中部徳洲会病院
ハイブリッドERを開始

中部徳洲会病院(沖縄県)は2016年4月の新築移転にともない導入したハイブリッド手術室(血管造影装置を配備した手術室)を活用し、救急搬送された重症外傷患者さんを診療する“ハイブリッドER”をスタートした。同院のハイブリッド手術室は、必要に応じて隣室に配置された自走式CT(コンピュータ断層撮影装置)を加えた“トリプルハイブリッド手術室”としての運用が可能。これにより、入室後は患者さんを移動させることなく、さまざまな検査・治療が可能で、救命率の向上や後遺障害の低減などが期待されている。

2室仕様の手術室は世界初の試み

「ハイブリッドER では初療開始から治療終了まで患者さんの移動が不要です」と西島部長(左)、友利医師 「ハイブリッドER では初療開始から治療終了まで患者さんの移動が不要です」と西島部長(左)、友利医師

高所墜落事故や自動車事故、崩落事故、爆発事故など激しい受傷機転にともなう全身の重篤な外傷を重症外傷という。こうした重症外傷を引き起こす不慮の事故は、若年者の死亡原因として上位に入っており、長期入院や後遺障害につながるなど多大な社会的損失を招いている。

同院は迅速な検査・治療により、重症外傷によるPTD(防ぎ得た外傷死)や後遺障害を低減するため、昨年8月、重症外傷に対するハイブリッドERの運用を開始。これは、重症外傷患者さんの救急搬送時に、救急専用のエレベーターを通って、救急センター(ER)の初療室ではなく、CT撮影も可能なハイブリッド手術室に直行し、検査・治療を完結するというシステムだ。

適応はLoad&Go症例(受傷現場では生命にかかわる損傷の観察・処置のみを行い、迅速に現場からの出発を目指す症例)、多発外傷、循環動態不安定、切迫するD(急激な意識レベルの低下や脳ヘルニア徴候など)。

運用する時間帯は月曜日から金曜日までの午前8時から午後5時までとし、土日は人員配置が可能な場合に運用する。予定手術を行っている場合は、予定手術を優先。ハイブリッドERでの受け入れの判断は、救急入電内容もしくは搬入時の初期評価と全身観察によって救急担当医が行う。

自走式CTと血管造影装置を備えるトリプルハイブリッド手術室 自走式CTと血管造影装置を備えるトリプルハイブリッド手術室

これまでに脾(ひ)損傷による腹腔(ふくくう)内出血や外傷性くも膜下出血など5症例の受け入れをハイブリッドERで対応した。

同院は16年4月、建て替えにともない沖縄市から北中城村に移転した。その際、計10室ある手術室のうち1室にハイブリッド手術室を導入。導入プロジェクトの責任者を務めた心臓血管外科の西島功部長は「多数の診療科が有効活用できるようなハイブリッド手術室の設計と実現が課題でした」と振り返る。

各科が取り組んでいる手術内容や、「CT撮影ができる」、「万能手術台(術式に応じ、さまざまな体位に対応できる手術台)を使用できる」といった各科の希望をふまえ、関係者を交えて協議するなかで、ハイブリッド手術室の隣にCT室を配置することを決定。これにより、トリプルハイブリッド手術室が可能となった。

CT室に入れたのは自走式の128列CT。ハイブリッド手術室とCT室は自動扉で仕切られている。CTは床のレールに沿って6mの移動が可能。必要に応じ扉を開け、ハイブリッド手術室の手術台に患者さんが寝たまま、全身のCT撮影が可能だ。このような2室仕様のハイブリッド手術室は世界初の試みだという。

ハイブリッド手術室は多診療科が有効活用(写真は整形外科) ハイブリッド手術室は多診療科が有効活用(写真は整形外科)

当初の狙いどおり、ふだんから多診療科がハイブリッド手術室を利用。心臓血管外科のステントグラフト術、整形外科の脊椎(せきつい)手術、外科の腹腔鏡下胆嚢(たんのう)摘出術での術中胆道造影、CT透視下肺がん術前マーキング、消化器外科の肝腫瘍切除、脳神経外科の脳出血除去・脳腫瘍切除後の開頭下での手術成果の判断、泌尿器科の砕石位での尿管鏡手術などに使っている。

CTは必要な時だけ移動させて使うことができるため、日頃は通常のCT室として効率的な運用が可能だ。

西島部長によると、ハイブリッド手術室の構想段階で、すでに視野に入れていた取り組みだという。「重症外傷では全身の造影CT検査が必要となり、通常のERではベッド移動やCT室への移動が必要です。一方、トリプルハイブリッド手術室では、初療開始から治療終了まで移動が不要。患者さんやスタッフの負担軽減、検査・治療の迅速化に寄与します」(西島部長)。

救急総合診療部の友利隆一郎医師は「CT撮影までの時間が圧倒的に早く、とくに頭蓋内や腹腔内病変に対する治療方針の早期決定に役立ちます。また、複数の治療(開頭術とIVR[画像下血管内治療]など)を同時に行うことも可能となり、根本的な治療開始までの時間を大幅に短縮することができます」とメリットを強調。「救急隊との円滑な情報共有や院内連携の習熟度を高め、診断と治療のスピードの向上を図り、ひとりでも多くの救命に寄与していきたい」と意気込んでいる。

今後は心外や脳外領域など、ハイブリッドERの対象を少しずつ広げていきたい考えだ。

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