徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

病気の治療

medical treatment

整形外科の病気:大腿骨頚部・転子部骨折

大腿骨の近位部は図1に示すように分けられ、骨折を生じた部位によって、


図1 大腿骨近位部の分類

  1. 大腿骨頭骨折
  2. 大腿骨頚部骨折
  3. 大腿骨転子部骨折
  4. 大腿骨転子下骨折

に分類されます。ここでは大腿骨頚部・転子部骨折ついて述べます。

骨折は転倒などの外傷がきっかけ

転倒などの外傷を契機に股関節部の痛みを生じて動けなくなったときにはまずこの骨折を疑いますが、骨折があっても歩行が可能なことや、ご高齢の方では明らかな外傷がないこともあり注意が必要です。
まず痛みのある股関節部のレントゲン撮影を行いますが、正面像だけでは骨折がわかりにくい場合があり、側面像と合わせて診断します。レントゲンで明らかな骨折が確認できなくても痛みが強く骨折が疑わしい場合には、MRI(核磁気共鳴画像法)検査を行うことでさらに詳しく骨折の有無を調べることができます。


図2 ご高齢の方では転倒による骨折が多い
2007年の日本での大腿骨頚部・転子部骨折の年間発生数は約15万例で、発生率は40歳から年齢とともに増加し、70歳をすぎると急激に増加しており、ご高齢の方での発生率は男性より女性のほうが高いという調査結果が出ています1)。
ご高齢の方では転倒(図2)が原因であることが多いのですが、青壮年の方では交通外傷や転落などで強い衝撃がかかって生ずることが多くなります。もともと骨粗鬆症があり骨が弱くなっていると、転倒などのそれほど強くない衝撃であっても骨折を起こしてしまうと考えられます。

合併症防止のため手術を推奨

保存療法では骨折部の安静を保って疼痛の軽減と骨癒合(骨がつくこと)を期待することになりますが、大腿骨頚部・転子部骨折はご高齢の方が受傷することが多く、動けない状態が長いほど筋力は低下し、褥瘡(床ずれ)、肺炎、深部静脈血栓症・肺塞栓症(エコノミークラス症候群)などの合併症を起こしやすくなるため、全身状態が許すならできる限り早期に手術を行い(手術で骨折部を固定することで痛みの軽減が期待されます)、離床、リハビリテーションを始めるべきと考えられます。

大腿骨頚部骨折は関節内の骨折で、ずれやすく骨癒合しにくいため、転位(骨折部のずれ)が小さい場合でも骨折部を固定する骨接合術(図3)が考慮されます。ご高齢の方で転位(骨折のずれ)が大きい場合には大腿骨頭に血液を供給する血管が損傷され(図4)、将来的に大腿骨頭が壊死を起こす可能性が高いことを考慮して人工物置換術(活動性の高い方には人工股関節置換術(図5)、全身状態が悪いまたはご高齢で活動性が低い方には人工骨頭挿入術(図6))が推奨されています1)。


図3 骨接合術

図4 転位が大きく血管も損傷している状態

図5 人工股関節置換術

図6 人工骨頭挿入術

転子部骨折はプレート等を用いて固定


図7 大腿骨転子部骨折は筋肉に引かれて転位しやすい
大腿骨転子部骨折は関節外の骨折で、大腿骨頚部骨折と比較すると骨癒合しやすいのですが、筋肉に引かれて転位しやすく、骨折部からの出血量が多く全身状態に与える影響が大きいと考えられます(図7)。

骨折の部位や安定性によってプレート+スクリュータイプ(図8)、髄内釘+スクリュータイプ(図9)などの金具で骨折部の固定が行われます。


図8 プレート+スクリュータイプ

図9 髄内釘+スクリュータイプ

年齢等によって受傷前レベルの回復難しい

大腿骨頚部骨折骨接合術後に骨癒合不全(骨折部がつかないこと)の発生率は転位の小さい場合(非転位型)で0~15%、転位の大きい場合(転位型)で4~40%、壊死による大腿骨頭変形の発生率は非転位型で0~8%、転位型で26~41%と報告されており、大腿骨転子部骨折術後の骨癒合不全発生率は0.5~2.9%、壊死による大腿骨頭変形の発生率は0.3~1.2%との調査結果が出ています 1)。骨癒合が得られず大腿骨頭の壊死・変形を招き、疼痛や機能障害が生じた場合には、人工骨頭挿入術または人工股関節置換術が考慮されます。

機能的予後に関して、受傷後に適切な治療を行ってもすべての方が受傷前のレベルに回復できていないのが実情で、歩行能力の回復に影響する主な因子は年齢、受傷前の歩行能力、認知症の程度であるとの調査結果が得られています 1)
生命予後に関して、日本での術後1年の死亡率は大腿骨頚部骨折で約10%、大腿骨転子部骨折では9.8~10.8%と報告されています 1)。

骨粗鬆症の治療と運動療法で予防

骨粗鬆症に対する薬物療法が大腿骨頚部・転子部骨折の予防に有効であること、運動療法が、原因の多くを占める転倒の予防に有効であることが検証されています。骨粗鬆症のある方や過去に骨折を受傷したことがある方に薬物療法や運動療法を用いて大腿骨頚部・転子部骨折の予防に努めることの重要性が指摘されています2)。

参考
1) 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会.大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン策定委員会.大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン第2版.東京:南江堂.2011.
2) 塩田直史、久保俊一.4章 外傷性疾患.1.大腿骨頚部骨折,大腿骨転子部骨折.久保俊一編集.股関節学.京都:株式会社金芳堂,2014; 660-678.

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