徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

病気の治療

medical treatment

整形外科の病気:急速破壊型股関節症

股関節が1年以内に崩壊をきたす

急速破壊型股関節症とは、1960年代前半にフランスを中心に報告が始まり、1970年にPostel M.らにより広く提唱された疾患概念で、当初は独立した症候群として考えられていましたが、現在では特徴的な臨床経過、単純X像の経過を示す症例に対する総称として考えられています。

65〜70歳以上の高齢者の明らかな構造的異常がない、あるいは構造的異常があってもごく軽度の臼蓋形成不全(股関節の屋根が浅い状態)のある股関節が、6カ月から1年以内という短期間の間に破壊される(関節裂隙は消失し、大腿骨頭、臼蓋の骨が崩壊をきたす)原因不明の疾患群です。

高齢の女性が8~9割占める

一次性股関節症の原因も判明していませんが、一次性股関節症の一つの型という考え方もある一方で、大腿骨頭壊死症や関節リウマチの特殊型、軟骨下脆弱性骨折、結晶沈着、特発性軟骨融解、骨盤傾斜によるストレスなどが考えられています。しかしいまだその原因は明らかとなっていません。

年間患者数は650人と推計され、そのうち25%が股関節痛を発症すると考えられています。主として60歳以上の高齢女性に好発するとされていますが、Postel M.らによると、平均年齢は68歳で女性が80〜90%を占めるとされています。片側例がほとんどですが、10%程度で両側例もあると報告されています。

また、家族歴の関与は否定的で、男女比は0.21、その半数以上が70歳代、男性は60歳代にピーク、女性は60歳代と70歳代にほぼ同数分布し、全体では60歳代と70歳代に約80%が分布、片側例は87.3%罹患関節の2/3が右側例であるという報告もあります。

骨破壊の進行とともに痛みは増大

臨床症状は初期から疼痛があり、骨破壊の急速な進行とともに増強します。強い股関節痛を訴えますが、単純X線像上は大きな変化が認められない場合が多いです。激しい股関節痛のため歩行障害、跛行が目立ってきます。股関節の可動域は通常の末期股関節症と比較すると保たれている場合が多く、骨破壊が起こると骨頭の消失や臼蓋破壊による病的脱臼を生じ、患側の脚短縮をきたします。数カ月の経過で症状は増悪し、安静時痛も伴ってきます。運動痛は特に強く、歩行も傷害され、日常生活動作の障害、制限も明らかになります。

総合的に判断して診断

主な検査は以下のとおりです。

血液検査
血液検査では、通常異常は認められませんが、軽度の炎症反応の上昇(CRP上昇)が認められることもあります。
単純X線
発症時には、一次性股関節症様の所見や骨粗鬆症化、あるいは軽度の臼蓋形成不全症以外に問題はありません。臼蓋形成不全の所見は69%に認められ、経過とともに関節裂隙の狭小化、大腿骨頭の破壊が進行し、1年以内の経過で大腿骨頭の2/3から1/2が消失します。
通常の股関節症と異なる点は、荷重部に軽度の硬化像を伴うことはありますが、骨棘形成などの骨増殖性変化はほぼ認められません。
発症早期に単純X線像のみで確定診断をくだすことは困難ですが、MRIが有用という報告もあります。
MRI
MRIが有用という報告もある一方で、本疾患に特徴的なMRI所見として確立されたものはありません。発症後早期には大腿骨頭軟骨下骨に信号強度の異常が出現し、大腿骨頭から頚部にかけてT1強調画像で低輝度、T2強調画像で高輝度の骨髄浮腫(bone marrow edema)像の所見が認められます。本疾患を疑った場合には、MRIによる精査を行い、注意深く経過を追う必要があります。
骨シンチグラフィー
骨シンチグラフィーでは、骨頭と臼蓋にhot up-takeが認められます。

鑑別診断として、特発性大腿骨頭壊死症、関節リウマチ、神経病性骨関節症(Charcot関節)、化膿性股関節炎、結核性股関節炎などが挙げられます。
本疾患の明確な診断基準はありません。結果として、発症から6〜12カ月以内に股関節破壊が進行した場合に本疾患と診断されます。

人工股関節置換術で治療

高齢者に発症し、大腿骨頭および臼蓋ともに骨破壊が進行していくことから、その治療は人工股関節置換術が選択されます。手術には人工股関節一般の合併症リスクがあります。

あえて、保存療法を選択するときには、免荷目的に杖や車椅子を使用することになります。疼痛が強い場合には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服や坐薬を用いて安静にすることになります。しかし、保存療法では治癒することはなく、確実に日常生活動作の低下につながります。

急速破壊型股関節症に伴う特徴的な合併症は特にありません。

参考
最新整形外科学大系 第16巻 骨盤・股関節 第8章 股関節部の疾患 急速破壊型股関節症 中山書;2006、286−290
整形外科専門医テキスト 第15章 骨盤・股関節疾患 II-A-2 南江堂;2010、20−724
股関節外科 10章 その他の疾患 3.急速破壊型股関節症 金芳堂;2014、851−853
Postel M, Kerboull M. Total prosthetic replacement in rapidly destructive arthrosis of the hip joint. Clin Orthop Relat Res. 1970 Sep-Oct;72:138-44.
竹下節子ほか:急速破壊型股関節症全国調査成績。厚生省特定疾患研究平成10年度研究報告書。骨・関節調査研究班;1998、178−181
大園健二ほか:急速破壊型股関節症(RDC) の症例集積とその解析(中間報告)。厚生省特定疾患研究平成9年度研究報告書。骨・関節調査研究班;1998、118−119。
山田晋ほか:急速破壊型股関節症(RDC)の関節破壊進行過程におけるMRI所見の検討。8.Hip Joint;2000、26、137−141
Sugano N, Ohzono K, Nishii T, Sakai T, Haraguchi K, Yoshikawa H, Kubo T. Early MRI findings of rapidly destructive coxopathy. Magn Reson Imaging. 2001 Jan;19(1):47-50.
9.濱口裕之ほか:急速破壊型股関節症における早期MRI所見。Hip Joint;2004、30、378−381

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