徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

徳洲新聞ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2024年(令和6年)12月16日 月曜日 徳洲新聞 NO.1471 1面

四街道徳洲会病院
高温水蒸気で前立腺肥大症を治す
出血リスク低い「WAVE治療」が好評

四街道徳洲会病院(千葉県)の前立腺肥大症に対する新しい低侵襲治療法「WAVE治療」(経尿道的水蒸気治療)が好評だ。WAVEはWAter Vapor Energy therapyの略で、「Rezumシステム」という2022年9月に保険適用となった医療機器を用いる。経尿道的に挿入した医療機器から高温の水蒸気を前立腺組織に放出することで、標的とする前立腺組織を壊死させ、尿道を広げるという治療法だ。電気メスを使わず、より低侵襲で出血リスクが少ないことなどから、高齢や抗血栓薬服用中などの患者さんでも手術できるのが特徴だ。

既存治療困難症例でも施行可

「尿道留置カテーテルからの離脱も可能です」と森部長

前立腺は男性に備わる生殖器のひとつで、膀胱のすぐ下にあり、尿道を取り囲むようにしてある。加齢などにより肥大することで、排尿障害や蓄尿障害を引き起こすのが前立腺肥大症。高齢男性には珍しくない疾患だ。QOL(生活の質)に大きな影響を及ぼし、進行すると尿閉など合併症を引き起こす。

『前立腺肥大症診療ガイドライン』では、薬物療法や行動療法など保存的治療を第一選択と位置付け、薬物療法の効果が不十分である場合や、中等度から重度の症状を有する場合、尿閉、尿路感染症、血尿、膀胱結石など合併症がある場合に手術療法を考慮するとしている。

また、日本泌尿器科学会、日本排尿機能学会、日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会は『経尿道的水蒸気治療に関する適正使用指針』というガイドラインを連名で策定。

デリバリーデバイスと呼ばれる細い管状の装置の先端から高温の水蒸気を放出

手術療法の対象となる患者さんのうち、①前立腺肥大症にともなう下部尿路症状を訴える患者さん、②手術療法が適用される患者さんのうち、全身状態や手術侵襲を考慮して従来の手術療法(TURP=経尿道的前立腺切除術、HoLEP=ホルミウムレーザー前立腺核出術など)が困難な症例(全身状態不良のため合併症リスクが高い、高齢もしくは認知機能障害のため術後せん妄、身体機能低下のリスクが高い)に対しWAVE治療を適用するとしている。

WAVE治療を担当する四街道病院の森堂道・泌尿器科部長は、同院が手術支援ロボット「ダヴィンチ」による治療を開始する際の立ち上げメンバーとして23年に着任。同年4月に1例目のダヴィンチ手術(前立腺がん)を手がけた。

「ダヴィンチ手術と並ぶ柱が、もうひとつ欲しいと考えていました。加齢とともに排尿障害を抱え、前立腺肥大症にお悩みの患者さんは、とても多くおられます。こうした患者さんに、より低侵襲な治療を提供し、地域に貢献したいという思いで、WAVE治療に取り組んでいます」と経緯を話す。WAVE治療は今年3月に開始した。

「当院は救急搬送からの入院患者さんが多いという特徴があり、他院で受け入れを断られた患者さんも少なくありません。断られているのは、入院期間が長くなりそうな高齢でADL(日常生活動作)の低い患者さんです。なかには尿道留置カテーテルを入れた患者さんもおり、尿路感染を繰り返しているような患者さんも搬送されてきます。WAVE治療は身体への負担が小さいことから、このような患者さんも治療を受けるチャンスがあり、前立腺肥大症を原因として導入した尿道留置カテーテルからの離脱も可能です」

同院での同治療は、まず術前の外来で前立線肥大症の程度を検査し、適応や手術に対応できる全身状態であるかを判断する各種検査(心臓エコー検査、心電図検査、胸部レントゲン)を行い、前立腺がんの可能性を検討するためにPSA(前立腺特異抗原)検査なども実施する。

WAVE治療は全身麻酔下に行う。デリバリーデバイス(写真参照)と呼ばれる医療器具に膀胱鏡をセットし、経尿道的に挿入。尿道前立腺部を診察しながら、治療する前立腺の長さ(膀胱頸部から精丘まで)を確認し、同デバイス先端からニードルを出して尿道壁に穿刺。高周波電流で生理食塩水を加熱し、高温(103度)の水蒸気をニードルの先端から前立腺組織に放出する。それによって前立腺組織を壊死させ、尿道を広げるという治療だ。1回の穿刺で9秒間、水蒸気を放出する。前立腺の長さに応じて1cmおきに穿刺する。壊死した組織は1~3カ月かけ徐々に体内に自然吸収される。

森部長は「治療時間は5~15分ほどで麻酔時間を含めても30分程度と短く、出血のリスクも少なく、これまで合併症や内服薬などを理由に手術を断念せざるを得なかった患者さんも施行できる可能性が十分にあります。また既存の手術療法のように直接、前立腺実質を切除しないため、尿道粘膜の保護や性機能の温存にも寄与します。薬物療法を行っているにもかかわらず排尿状況にお困りの方や、抗血栓療法中、高齢、認知機能の影響で、前立腺肥大症の手術をあきらめていた方、また尿道カテーテル留置中であり本人や家族・介護者がカテーテル離脱を目指したい場合は、ぜひご相談ください」と呼びかけている。

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