徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
Tokushukai medical group newspaper digest
2024年(令和6年)12月16日 月曜日 徳洲新聞 NO.1471 3面
第32回日本消化器関連学会(JDDW2024)が10月31日から4日間、神戸市で開かれ、徳洲会グループは12演題を発表した。このうち、 湘南鎌倉総合病院(神奈川県)の市田親正・消化器病センター部長が一般演題会長賞、札幌東徳洲会病院の伊藤貴博IBDセンター副センター長が優秀演題賞を受賞した。受賞演題を中心に紹介する。
会場の各所に設置されているJDDW2024の看板前で賞状を掲げる市田部長
会場の各所に設置されているJDDW2024の看板前で賞状を掲げる伊藤・副センター長
市田部長が受賞した演題テーマは「内視鏡止血成功後の食道静脈瘤破裂に対する院内死亡予測スコア(HOPE-EVLスコア)の開発と検証」。食道静脈瘤の標準的な止血方法として、内視鏡を用いる食道静脈結紮術(EVL)が行われているが、止血に成功しても15~20%の死亡率が報告されている。市田部長は、臨床現場で使いやすくEVL止血成功後の院内死亡を正確に予測するスコアリングモデルの開発と検証を行った。
方法は徳洲会50病院、13年間の医療データを活用。食道静脈瘤破裂で緊急受診し、EVLに成功した18歳以上を対象に、前半7年分のデータなどを用い「HOPE-EVLスコア」を開発し、後半6年分のデータなどを用いて検証した。
結果は、HOPE-EVLスコアによってリスクの層別化(低リスク、中リスク、高リスク)が図れるとともに、各リスクの予測も適切だったことを強調。同研究は海外の学術誌『Digestive Endoscopy』(2024年3月11日)のオンライン版に掲載されたことを紹介し、「ぜひHOPE-EVLスコアを検証してください」と呼びかけた。
また、「International Session(Panel Discussion)」では「National trends in hospitalizations for lower gastrointestinal bleeding in Japan」(日本での下部消化管出血による入院の傾向)と題し発表。日本のほぼすべての保険請求データを評価できるナショナルデータベース(NDB)を解析し、主要な下部消化管出血(LGIB)と上部消化管出血(UGIB)の人口10万人当たりの入院率を算出した。
その結果、かつて日本の消化管出血入院で多くを占めていたUGIBの出血性胃潰瘍は3割以上減少しているのに対し、LGIBの大腸憩室出血は2倍強、虚血性腸炎は1.6倍増加していることなどが判明。
「今後はLGIBに関する多くのエビデンス(科学的根拠)を蓄積していく必要があるでしょう」と締めくくった。同研究は『Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition』(24年2月28日)にオンライン掲載。市田部長は現在、日本消化管学会「大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン」の副委員長を務め、ガイドライン改訂を行っている。
札幌東病院の伊藤・副センター長が受賞した演題テーマは「クローン病患者へのハイブリッド内視鏡による全腸管評価後の治療介入と予後」。クローン病(CD)は炎症性腸疾患(IBD)のひとつで、寛解期と活動期を繰り返す原因不明の病気。難病に指定されている。治療は基本的に薬物療法だが、腸に穴が開いて緊急手術が必要になるケースも少なくない。
伊藤・副センター長は、患者さんのQOL(生活の質)改善や手術回避に内視鏡検査が欠かせないことを指摘。これまで小腸、大腸を1日で内視鏡的に評価する方法はなかったが、自院では“ハイブリッド内視鏡(検査)”と称し、小腸カプセル内視鏡検査(SBCE)と下部消化管内視鏡検査(CS)を同日に実施する取り組みを紹介。ハイブリッド内視鏡後の治療介入と患者さんの予後を検討した。
21年2月~23年9月にハイブリッド内視鏡を施行した寛解期のCD患者さん125人を対象に分析した結果、①IBDの血清バイオマーカーとなるLRG値が12μg/mLを下回っていれば、小腸・大腸全体で内視鏡的寛解(全腸管内視鏡寛解)と言える可能性がある、②症状が落ち着いていても全腸管内視鏡寛解を達成していない場合は、治療を強化したほうが予後が良いこと――を示し、LRG値を参考にしながら、適切なタイミングでハイブリッド内視鏡を施行する重要性を強調した。
SBCEとCSの同日実施に、アンケート回答者の約8割が満足していることも明かした。サテライトシンポジウムでは「IBDセンターの立場から考える経口α4インテグリン阻害剤の使いどころ」と題する発表も行った。
これら以外の徳洲会の発表は次のとおり。【ハンズオンセミナー】▼結城美佳・出雲徳洲会病院(島根県)内視鏡センター長「HOS消化管2:もっと短く大腸挿入!」【デジタルポスターセッション】▼窪田純・湘南鎌倉病院消化器病センター医師「急性胆管炎における抗菌薬治療成績:肝門部多発性閉塞と単発性胆管閉塞の比較」▼木村かれん同院消化器病センター医師「治療困難胆管結石に対する経口胆道鏡下砕石術」▼藤井正一・同院外科統括部長「大腸pT1癌のリンパ節転移リスクの解析」▼山本龍一・東京西徳洲会病院消化器病センター長「ERCP関連手技におけるXR (Extended reality)の臨床的有用性の検討」▼吉岡佑将・岸和田徳洲会病院(大阪府)消化器内科医師「早期診断及び早期治療介入により寛解に至った結核性腹膜炎」【International Poster Session 】▼長山聡・宇治徳洲会病院(京都府)外科部長「Predictive biomarkers for tankyrase inhibitor sensitivity of colorectal cancers」(大腸がんに対するタンキラーゼ阻害剤の感受性予測バイオマーカー)【ブレックファーストセミナー】▼小泉一也・湘南鎌倉病院消化器病センター主任部長「超細径胆道鏡が変えた胆道診療の現状と切り開く未来」