徳洲新聞ダイジェスト
Tokushukai medical group newspaper digest
Tokushukai medical group newspaper digest
2023年(令和5年)09月19日 火曜日 徳洲新聞 NO.1407 1面
第19回日本中性子捕捉療法学会学術大会が横浜市内で開催された。同学会はBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)や関連する領域の研究促進などを目的とし、年1回学術大会を開催。今年は「Challenge and Acceptance」を大会テーマに掲げた。徳洲会グループからは今後、BNCT治療を開始予定の湘南鎌倉総合病院(神奈川県)がシンポジウムや一般演題などで計4演題を発表。例年よりも多くの参加者が駆け付け、参集した262人が知見を共有、研鑽を積んだ。2日間の会期の締めくくりとして、同院のBNCT装置の見学会(エクスカーション)も行った。
湘南鎌倉病院のBNCTプロジェクトを説明する柴医長
「BNCT臨床の最前線」をテーマとするシンポジウムに登壇したのは、湘南鎌倉病院放射線腫瘍科の柴慎太郎医長。柴医長は「湘南鎌倉総合病院におけるBNCTプロジェクトの準備状況」と題して、進捗状況などを口演した。同院が臨床使用を開始すれば、国内5番目のBNCT施設となる。
同院は2021年4月にBNCT装置の設置を開始。「nuBeam」(Neutron Therapeutics社製)という製品だ。22年10月に陽子線ビームの調整をスタート。中性子は、加速器で加速させた陽子線をリチウムに衝突させることで生成できる。そのため陽子線の安定照射は欠かせない技術のひとつ。
質疑応答で答える後藤室長
柴医長は「これまでの照射試験から、中性子線は臨床使用可能と考えられるレベルで安定して照射できています。その他の準備も整い次第、治療を開始する予定です」と展望する。
同院先端医療センターの医学物理士(医学博士)である後藤紳一マーケティング推進室長はアフタヌーンセミナーに登壇。「Stability of thermal and epither-mal neutrons output of BNCT system at Shonan Kamakura General Hospital」(湘南鎌倉総合病院におけるBNCTシステムの熱中性子および熱外中性子出力の安定性)をテーマに口演した。
学術大会2日目には湘南鎌倉病院のBNCT装置を見学
後藤室長は中性子線の照射試験結果などを紹介。「当院が導入する装置は加速器の平均電流値が最大30mAと高く、治療時間の短縮が期待できます。また、従来のBNCT装置では難しい2方向以上の多方向からの中性子線の照射が可能です。これにより、正常組織が許容できる被ばく量の限度を超えずに、より多くの線量を患部に照射することができます」とアピールした。
「Dosimetry/Neutron source」(線量測定/中性子線源)をテーマとするセッションでは、医学物理室の八木橋貴之・医学物理士が「加速器BNCTシステムにおいてSOF検出器を用いた初期経験」をテーマに口演。同室の鈴木俊介・医学物理士は「加速器中性子源における熱中性子束及び出力定常性の評価」をテーマにポスター発表を行った。
大会の締めくくりに、湘南鎌倉病院が導入したBNCT装置の現地見学会を実施。70人近くの参加者が同院に移動し、スタッフの説明に熱心に耳を傾けていた。
大会長を務めた横浜市立大学医学部脳神経外科学の山本哲哉・主任教授は「放射線感受性が低く強力な放射線治療を要するがんでは、正常組織の安全性という観点からこれまで十分な治療を行うことができませんでした。同様に再発がんについても、一度、放射線治療を行った後の再発だと、治療を手控えることになってしまいます。こういった状況でがん細胞に選択性のあるBNCTはとても期待が持てるものです。現在保険収載されているのは再発頭頸部がんですが、今後はさらに適応が拡大されていくものと思われます」と指摘。
続けて「湘南鎌倉病院では、こういった新しい治療を取り入れることで、従来の方法で治療ができなかった多くの患者さんの希望となるとともに、適応拡大に関連した新しい治療開発についても期待がかかるのではないでしょうか」とコメントを寄せている。
日本中性子捕捉療法学会の会長を務める国立がん研究センター先端医療開発センターBNCT医療開発分野の井垣浩分野長(中央病院放射線治療科科長)は「従来の放射線治療では効果が得られず、治療の手立てがないと考えられてきた患者さんにとって、新たな治療の選択肢となり得るのがBNCTです。現在、適応疾患は限られていますが、大きなポテンシャルのある治療法だと思います」と力を込める。
湘南鎌倉病院の小林修三院長は「当院は22年1月に陽子線治療を開始しました。そして、さらに次世代の治療法であるBNCTの運用を今後スタートします。当院が導入した装置は、非常に高出力であるのが特徴で、照射実験により、安定的に照射できることがわかってきました。患者さんのために役立てていきたい」と語った。
ホウ素と熱中性子の捕獲反応により発生する短飛程粒子線のエネルギーを利用し、がん細胞のみを選択的に破壊する新しいがんの治療法。以前は中性子源が原子炉に限られ、研究・普及の壁となっていたが、近年、中性子を発生させる加速器を備えたBNCT装置が登場してきたことで、医療機関が単独で取り組める環境が整ってきた。
治療を行う際は、まず腫瘍に取り込まれる性質を有するホウ素のアミノ酸化合物であるBPA(ボロノフェニルアラニン)を点滴投与。次に、患部に熱外中性子を照射する。熱外中性子は体内で熱中性子に減速し、がん細胞に集まったホウ素と反応し、アルファ線とリチウム粒子を放出、がん細胞を破壊するという仕組みだ。
アルファ線やリチウム粒子は非常に短い距離しか飛ばないため、正常細胞の損傷はほとんどない。また、抗腫瘍効果の類似指標である生物学的効果比(CBE)は、X線や陽子線の4倍近くCEB=3.8と言われている。2020年6月に「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」に対する治療が保険適用となった。