徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

徳洲新聞ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2025年(令和7年)01月20日 月曜日 徳洲新聞 NO.1475 1面

現代日本人・古代人ゲノム統合研究
縄文祖先の遺伝情報と肥満関係
徳洲会が試料4割超提供したBBJ活用で成果

徳洲会グループなどの協力により構築した世界最大級の疾患バイオバンクである「バイオバンク・ジャパン(BBJ、事務局:東京大学医科学研究所)」に集積されたゲノム(全遺伝情報)を活用し、新たな知見をもたらす研究成果が発表された。BBJの日本人集団のゲノム情報と、縄文人を含むユーラシア大陸の古代人のゲノム情報を用い、日本人の遺伝的起源を調べたところ、現代日本人のゲノムに含まれる縄文祖先由来の遺伝情報が肥満と関連があることなどがわかった。将来的に予防医療などへの応用が期待される興味深い研究成果だ。

『Nature Communications』に論文発表

BBJのゲノム情報を活用して日本人の遺伝的起源を研究した山本准教授(左)と岡田教授

研究成果を発表したのは、大阪大学大学院医学系研究科の山本賢一准教授(保健学専攻)、岡田随象教授(遺伝統計学、東京大学大学院医学系研究科遺伝情報学教授)、金沢大学古代文明・文化資源学研究所および医薬保健研究域附属サピエンス進化医学研究センターの覚張隆史准教授、アイルランドのダブリン大学トリニティカレッジの中込滋樹助教、徳洲会の東上震一理事長らの研究グループ。著名な英科学ジャーナル『Nature Communications』に論文が掲載された。

今回の研究では、BBJの日本人集団のゲノム情報と、縄文人を含むユーラシア大陸の古代人のゲノム情報(発掘された古代人の骨のDNAを解析)の統合解析を行い、日本人の祖先構造や、個体の性質や特徴である形質との関連性を網羅的に探索。日本列島は7つの集団(北海道、東北、関東甲信越、中部北陸、近畿、九州、沖縄)、南西諸島は8つの集団(屋久島、奄美大島、喜界島、沖永良部島、徳之島、与論島、沖縄、宮古島)に分けて解析を行った。

その結果、覚張准教授、中込助教が2021年に古代・現代日本人のゲノム解析結果をもとに提唱した「現代日本人の遺伝的三重構造」が、各地の日本人集団に適合することを明らかになった。遺伝的三重構造とは、日本人の遺伝的な祖先集団が「縄文祖先-北東アジア祖先-東アジア祖先」に由来しているという説だ。これまでは、地域的・遺伝的に多様な日本人集団の三重構造の妥当性は未解明だったが、本研究により三重構造が広く日本人にあてはまり、とくに、北海道の一部や南西諸島の集団では縄文祖先の割合が高いことを発見した。

また、個人レベルでの縄文祖先の割合の推定を行い、体格や血圧、腎機能、肝機能、生殖系など80の形質との関連性を検討したところ、BMI(肥満の指標)との関連があることがわかり、縄文祖先の遺伝割合が高いほど、BMIが高くなりやすい傾向があり、肥満のリスクとなっている可能性を示す結果が出た。

さらに研究グループは、ゲノムワイド関連解析(形質などと関連する遺伝的要因を調べる手法)を応用することで、縄文人由来のゲノム領域を特定できたことを示唆。加えて、欧米人集団の代表的なバイオバンク「UKバイオバンク」の東アジアに由来する集団を対象に調査したところ、日本の遠隔地にも縄文祖先を祖先集団とする集団が存在することがわかり、その集団でも縄文祖先の遺伝割合はBMIとの間に正の関連を示すことが明らかになった。

地域差や祖先割合を 予防医療などに考慮

研究成果を受けて山本准教授は「三重構造が広く適合することや、地域・個人によって縄文祖先の割合は大きく異なり、縄文祖先の多様性が現代人の形質に影響していることも明らかとなりました。今回の結果から予防医療や健康増進につなげていくことができればうれしいです」とコメント。

BMIとの関連性があることが示唆された縄文祖先の遺伝割合は、地域差・個人差があることから、予防医療や健康増進に関する施策について、山本准教授は「一律に日本全体で同様の取り組みを行うだけでなく、地域差や祖先割合を考慮した施策・アプローチも必要なのではないかと、今回の研究結果からは言えると思います」と指摘。

続けて「現代人は単独で存在しているのではなく、過去からの連続性のなかで生きています。温故知新という言葉があるように、われわれの祖先がどのようなプロセスを経て現在に至っているのかを知ることは、さまざまな面で現代に生かせる知見を与えてくれるのではないかと考えています」と見解を示す。

また「今回の研究は、日本中から参加者(試料提供者)を募り、かつ臨床情報を豊富に集積させたBBJだからこそ実施できた研究だと考えています。貢献いただいた多くの方々に感謝申し上げます」と謝意を表し、「BBJは東アジアを代表するコホート(集団)です。さらにゲノム医療を進める研究を行っていきたい」と意欲を見せる。

なお山本准教授と岡田教授は、論文協力に対する表敬訪問として、徳洲会の離島病院を訪れ、各病院の三役と面談する機会をもった。訪問先は鹿児島県の離島にある名瀬徳洲会病院、喜界徳洲会病院、与論徳洲会病院。

バイオバンク・ジャパンとは

BBJは一人ひとりの体質に合った医療の実現を目指すため、2003年4月にスタートした「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」の基幹事業として、患者さんから提供された生体試料(DNA、血清)や臨床情報の収集・保管を目的に発足。51疾患・26万7,000人・44万症例という世界最大級の疾患バイオバンクだ。BBJは収集・保管した生体試料や臨床情報を研究者に提供し国内の研究を後押ししている。

徳洲会グループは開始当初より協力医療機関として全面的に支援。BBJに登録されている26万7,000人分の生体試料のうち、約45%は徳洲会が登録協力した。その時々の患者さんの状態を表す血清の採血や臨床情報の更新、生存調査といった追跡調査にも取り組んできた。

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