2021年(令和3年)4月12日 月曜日 徳洲新聞 NO.1282 四面
読み解く・読み得 紙上医療講演㊸
MRI検査って何?
今回はMRI(磁気共鳴画像診断装置)検査がテーマ。MRIは大きなトンネル型の装置に強力な磁場を発生させ、磁気の力を利用して体内の臓器などを撮影する検査です。脳の検査のイメージがあるかもしれませんが、今は関節や血管、さらに全身を撮影できるようになりました。MRIの特徴や最新技術などを東京西徳洲会病院の板垣伸一・副技師長(診療放射線技師)が解説します。
板垣伸一・東京西徳洲会病院副技師長
MRI装置は強力な磁場を常時発生させ体に電磁波を当て、体内の水素原子核に共鳴現象を起こし、体表に装着した受信コイルによって信号(誘導電流)を観測。その信号を画像化し、信号の強弱を画像のコントラストとして反映します。
体内で画像化できるのは主に「水」と「脂肪」。それ以外は無信号として画像に反映されます。水と脂肪だけが信号として観測されますが、人体を構成する組織や臓器はそれぞれ水と脂肪が含まれる量が異なり、画像上は多彩なコントラストとして映ります。
関節領域では関節を構成する骨、筋肉、靱帯(じんたい)、腱板(けんばん)、半月板などが正常であれば、正常構造物として描出、損傷や炎症が起きている場合には信号変化が生じるため、画像上で正常構造物との違いを認識できます。骨挫傷(ざしょう)は骨のずれをともなわない骨内部の損傷で、MRIにより初めて認識できた病態です。
また、信号を観測するタイミングを変更したり、脂肪だけを抑制したりして撮影することも可能。血流を利用して血管を描出するMRアンギオグラフィ(MRA)も、そのひとつです。CT(コンピュータ断層撮影)などX線検査で血管を描出する場合、通常、ヨード造影剤を使用して血管描出しています。造影剤は一定の頻度で副作用がありますが、MRAでは不要で、安全に血管の状態を確認できます。
MRAは主に脳血管の検査に使います。体幹部は呼吸の影響もあり、血管の描出不良がしばしば起こります。ただし、近年では新しい撮像技術が開発され、体幹部でも十分に診断可能なMRA画像が撮れるようになってきています。
MRIで大きな有用性を発揮しているのが、拡散強調画像(DWI)で、これは体内の水分子の拡散状態を反映します。正常細胞の多くは比較的細胞間の水分子の拡散制限が少ないのに対し、急性期脳梗塞、悪性腫瘍、炎症、膿瘍などは拡散制限が多く、画像上、濃淡の違いが生じるため、病変の検出力が高くなります。
左膝骨挫傷、脂肪抑制プロトン密度強調画像(冠状断像)、脂肪だけを抑制した画像を撮ると、損傷箇所・範囲がより明瞭に確認できる(撮像画像によって損傷箇所が白くなったり黒くなったりするため、
複数の画像の信号から病態を判断)
DWIは1990年代後半に臨床応用され、超急性期脳梗塞の診断が可能となりました。これが緊急でMRI検査を行うきっかけにもなり、さまざまな診断基準が変更されるなど医療体制にも大きな影響を与えました。
高い有用性から脳以外の応用が模索されていましたが、画像がゆがんだり、体幹部の豊富な脂肪が妨げたりするなど問題が山積みでした。種々の問題をMRI関係者、装置メーカーなどが地道に克服し、DWIの全身応用(DWIBS)が可能になりました。
DWIBSの画像は、がん診療で用いるPET(陽電子放射断層撮影)-CTの画像と類似しています。DWIBSは「水の拡散状態」、PET-CTは「糖のエネルギー代謝」と、画像生成原理や保険適用の範囲が異なります。それぞれに一長一短があり、今後、造影剤を使用した全身CTなどとベストミックスして使用することで、全身検査の診断能の向上が期待されます。