2020年(令和2年)10月26日 月曜日 徳洲新聞 NO.1259 三面
感染対策徹底
利用者さんの笑顔守る
特養逗子杜の郷 多数イベント開催
特別養護老人ホーム逗子杜の郷(神奈川県)はイベントを積極的に行ったり、ダイバージョナルセラピー(DT)を用い、利用者さん一人ひとりの夢を叶える取り組みを実践したりし、満足度を高めている。新型コロナウイルス禍でも多数のイベントを行っているが、感染対策を徹底することで施設内感染を起こしていない。田邉笑美子施設長は「利用者さんの笑顔を絶やさない」をモットーにしている。
(右から)田邉施設長、DTワーカーの山本裕フロアリーダー、山下哲也・介護主任
1月の初詣では鳥居を手づくりで準備
DTは、約50年前にオーストラリアで生まれた手法で、各個人がいかなる状態にあっても、自分らしく、より良く生きたいという願望を実現するために、「楽しみ」と「ライフスタイル」に焦点を当てた全人的アプローチを言う。
特養逗子杜の郷では、日本ダイバージョナルセラピー協会が認定するDTワーカーの資格をもつ職員を中心に、利用者さんの夢を叶える取り組みを実践。田邉施設長は「DTの理念に〝老いるとは楽しむこと。耐えることではない〟という言葉があります。利用者さんの〝夢〟を職員皆で叶えたいと思います」と積極的だ。
夢と言っても大がかりなものではない。たとえば「動物園に行きたい」、「海を見に行きたい」、「花を浮かべた風呂に入りたい」など、日常生活に潤いを与えるささやかな楽しみだ。9月15日には足湯を実施。ビニールプールに温泉の素を混ぜたお湯を入れ、ウッドデッキに設置。車いすの利用者さんも、職員に手伝ってもらい足を入れ、会場には笑顔があふれていた。
定期的なイベントとしては、季節の行事と食レクがある。季節の行事は月1回実施し、1月は初詣、2月は節分の豆まき、3月はひな祭り、4月は花見、5月は鯉のぼりを見ながら新茶を楽しむ、6月はあじさいを楽しむ、7月は七夕、8月は夏祭り、9月は敬老会、10月は秋祭りとハロウィン、11月は紅葉狩り、12月はクリスマス会を企画。
同イベントはすべて施設内で行い、利用者さんに負担をかけないようにしている。初詣なら鳥居や賽銭箱を手づくりし、事前に近くの神社から、おみくじを調達しておいて、利用者さんに外出気分を味わってもらう。また、なるべく、その年に合わせた特別感も演出。今年の夏祭りは初めてスイカ割りや花火を行い、利用者さんに好評だった。
DTの一環で足湯を実施し利用者さんも笑顔
敬老会では神社で修行経験がある職員が祝詞を
9月17日には敬老会を開いた。これは喜寿(77歳)、傘寿(80歳)、米寿(88歳)など節目を迎えた利用者さんをお祝いする会。例年は家族も出席するが、今年はコロナ禍により、利用者さんのみの参加となった。事前に、ちゃんちゃんこを着た記念写真を撮り、写真を貼り付けメッセージを書いた色紙を用意。神社での修行経験がある職員が装束(しょうぞく)を着用し、祝詞(のりと)を唱えた後、利用者さんにプレゼント(色紙)を手渡した。
食レクも月1回開催し、ふだんの食事にプラスして特別な料理を楽しむ。もともとショートステイの利用者さんを対象に始めたが、好評だったため、すべての利用者さんに広げた。2階から5階のフロアごとに実施、利用者さんの好みを聞き、シラス丼やたこ焼き、スイーツなどを提供。ふだんは食が細い利用者さんが、ぺろりと完食することもある。
田邉施設長は「コロナ禍でも、利用者さんにいつもの生活を提供したい」という信念の下、感染対策を徹底したうえで、毎年実施しているイベントを中止しないようにしている。そのため例年なら1日で終わるイベントでも、密を避けるために3日にわたり実施したり、参加人数を減らすために家族の参加を取りやめたりしている。「職員や利用者さんのご家族の協力なしには実現できません」と謝意を表す。
「正しく理解して怖がること大切」
食レクで提供したシラス丼は湘南名物
感染対策も費用をかけるのではなく、職員の創意工夫で実施。WEBやテレビからの情報をもとに防護グッズを手づくりしたり、徳洲会グループの別の施設で実施している対策をアレンジしたりしている。田邉施設長は「最初は得体の知れないウイルスに恐怖を感じていましたが、今ではいろいろわかってきたこともあり、正しく理解して怖がることが大切だと考えています。職員の協力もあり施設内での感染は出ていません」と強調する。
さらに「イベントを中止する施設が多いなか、当施設は『どこもやっていないことをやるんだ』と、職員が同じ気持ちで一丸となり取り組んでいます。ふだんはあまり感情を表さない利用者さんも、イベントを行うと笑顔を見せることもあります。こうした笑顔を絶やさないようにしたいです」と意気込みを見せている。