2020年(令和2年)10月26日 月曜日 徳洲新聞 NO.1259 一面
心房細動に起因
血栓予防へ新しい治療法を開始
左心耳閉鎖システム
札幌東病院が「WATCHMAN」
札幌東徳洲会病院は、医療機器「WATCHMAN」(ウォッチマン)を用いた左心耳閉鎖術(LAAO)を開始した。同機器は、非弁膜症性心房細動で血栓が生じやすい心臓の左心耳を閉鎖することで、脳梗塞や脳出血の予防を目的とするシステム。2019年9月に保険適用となった。同院は今年9月17日に湘南鎌倉総合病院(神奈川県)の齋藤滋総長(札幌東病院循環器センター長)の指導を仰ぎながら、谷友之・循環器内科部長らが初めて実施。患者さんの状態は安定しているという。同治療の提供施設は徳洲会グループで2施設目、北海道では3施設目。
湘南鎌倉病院に次ぎ徳洲会2施設目
1例目を無事終え喜ぶスタッフ。齋藤総長もWATCHMANの模型を手に笑顔
心房細動は心臓の心房が細かく不規則に動く病気。心臓内の弁が原因となる「弁膜症性心房細動」と、弁には異常が見られない「非弁膜症性心房細動」があるが、大部分を占める非弁膜症性を一般的に指していることが多い。
心房細動で最も懸念されるのが血栓の形成だ。血液を送り出す力が弱まるため、心臓内の血液がよどんで血栓ができ、それが血流によって運ばれ体内のさまざまな血管が詰まる可能性がある。とくに脳で起きた場合、突然死したり、重い後遺症に悩まされたりするなど他のタイプの脳梗塞よりも重症化しやすい。
心房細動患者さんに対する脳梗塞の予防には、一般的に血液をサラサラにして固まりにくくする抗凝固薬を用いる。従来のワーファリンや11年からは新たな経口抗凝固薬(総称してDOAC(ドアック))が順次導入され、安定した成果をもたらしている。しかし、まれに出血するケースが国内外問わず見られ「薬の効果を弱めれば血栓ができる可能性が残り、悩ましい側面がありました」(齋藤総長)。
パラシュートのような形状のWATCHMAN。大きさは5種類 © 2020 Boston Scientific Co-rporation. All rights reserved.
こうした心房細動による脳梗塞・脳出血双方のリスクを軽減するために開発されたのがWATCHMAN。心房細動に起因する血栓の約9割は、左心房の「左心耳」(耳たぶのような袋状の場所)で形成されると言われており、左心耳の入り口に同機器を留置することで、血栓ができても左心耳から出ないようふたのような役割を果たす。
同機器は、おおよそ200㎛の繊維製フィルターと、フレームで構成、閉じた状態でカテーテルに装填(そうてん)する。治療は全身麻酔下で行い、脚の付け根の静脈からカテーテルを挿入、造影剤や経食道エコー(超音波)を用い、右心房から左心房に穴を開けて通し、左心耳の入り口に同機器を押し出し開いた状態で留置。その後、同機器を覆うように細胞や組織が付いて固定され、左心耳を閉鎖する仕組みだ。万一、はずれた場合は手術となる。
完全に閉鎖することがポイントで、そのためには「テクニックが必要」と齋藤総長は指摘。「人によって左心耳の大きさや形状が異なるため、WATCHMANのサイズや留置する場所を的確に見極めなければなりません。また、カテーテルからこの機器を離す際に、心臓が動いて位置がずれてはいけないので、留置する際は患者さんの呼吸を数分間完全に停止させるので、スピーディーさも求められます」。
日本では実施施設や医師に厳しい基準を設けている。適応となる患者さんも、出血の危険性が高く、抗凝固薬が長期間服用できない心房細動など、基準に合致していなければ治療は受けられない。
札幌東病院は9月17日に初めて実施。5年ほど前から湘南鎌倉病院で主任研究者として治験を行っていた齋藤総長(兼循環器科主任部長)の指導の下、谷部長をはじめ山崎誠治・副院長兼同科部長や麻酔科医師、心臓血管外科医師、看護師、コメディカルで構成するハートチームが行った。
事前にカンファレンスを行い、患者さんの状態や治療での注意事項などを入念に確認。1例目ということもあり慎重を期したことや、左心耳の大きさが予想よりも大きかったことなどから、当初の予定より時間を要したものの無事終了した。同日、同じメンバーで2例目も行った。
いずれの患者さんも1週間ほどで退院し、現在も状態は安定。谷部長は「今までにない画期的な治療方法。新たな選択肢として、ひとりでも多くの患者さんを支援していきたいと思います」と意気込む。北海道内で同治療の実施施設は札幌東病院を含め3施設(10月23日現在)。