2020年(令和2年)3月16日 月曜日 徳洲新聞 NO.1227 四面
奄美大島から世界に成果発信へ
臨床研究の実践能力を習得
徳洲会奄美諸島病院群がワークショップ 初めて開催
鹿児島県の離島に立地する徳洲会奄美諸島病院群(名瀬徳洲会病院、徳之島徳洲会病院、沖永良部徳洲会病院、喜界徳洲会病院、与論徳洲会病院、笠利病院、瀬戸内徳洲会病院の計7病院)は、奄美市内で「2020あまみ臨床研究ワークショップ~奄美大島から世界へ発信~」を開催した。このワークショップ(WS)は臨床研究に取り組むための実践的なノウハウやスキルを習得するのが狙いで、奄美群島では初の試み。全国から徳洲会グループ内外の医師、薬剤師、看護師、臨床工学技士ら16人が参加した。
計画作成から報告・発表まで模擬体験
臨床研究のノウハウ・スキルを学ぶため16人が参加
これまで奄美群島では臨床研究のノウハウやスキルを体系的に学べる機会がなかったため、奄美群島の徳洲会グループ7病院が協力し今回のWSを企画。研究環境を整備することにより、日頃の診療を生かした研究成果を奄美群島から発信したり、奄美群島に勤務する医療職のキャリアアップや全国から医療職を奄美群島に呼び込んだりすることにつなげたい考えだ。
「キャリアアップやモチベーション向上を」と森本教授
1月11日から3日間、臨床研究のデザインや研究計画書の作成、統計解析、研究成果の報告まで、臨床研究を行ううえで必要となる一連のノウハウやスキルの習得を目指し、講義や仮想データを用いたハンズオン(体験学習)、グループワークに取り組んだ。参加者は3グループに分かれ、グループごとに設定した研究テーマに沿い、仮想データを使って統計解析など行い、臨床研究の計画から発表までを模擬体験した。最終日には仮想研究の結果を論文形式で報告した。
キャリア向上や医師確保 モチベーションアップに
「ひとつでも多く研究発表を」と松浦院長
講師を務めたのは兵庫医科大学の森本剛・臨床疫学教授。森本教授はこれまで15年間、琉球大学や熊本大学、島根県立中央病院、日本循環器学会など多数の大学・医療機関・団体で同様のWSを開いてきた。受講者数は延べ約800人に上る。「このWSを通じて、離島病院に勤務する医師など医療者のキャリアアップや、医師の確保、モチベーションアップなどにつながることを期待しています」(森本教授)。
今回のWSは全国で臨床研究教育事業などに取り組む特定非営利活動法人臨床評価研究所(ICE)のサポートを受けて実施した。兵庫医科大学脳神経外科学講座の内田和孝講師、三菱京都病院心臓内科の夜久英憲医師、ICEの齋藤景野データマネージャーがチューター(補佐役)を担った。
初日冒頭、名瀬病院の松浦甲彰院長が開会挨拶で「日頃は目の前の患者さんの診療で忙しく、自分たちが行っている医療は果たしてどうなのか、という検証の機会がなかったですが、日常診療のなかに世界へ発信できることがたくさんあるかもしれません。この機会に学び、今後ひとつでも多く研究発表していただければと思います」と参加者にエールを送った。
仮想データを使った臨床研究を発表
続いて森本教授がWSの進め方を説明するとともに「他の地域の患者さんを対象とした研究や論文よりも、ローカルなデータを使って得た科学的知見のほうが、目の前の患者さんの診療にはすぐに役に立ちます」と、ふだんの診療から得たデータを用いることで、その研究成果を地域の患者さんにすぐに還元できる利点を語った。
森本教授は「臨床研究で大切なのは、良いデザイン、良いデータ、良い処理、良い統計解析・執筆です」と強調。「ひとりの質問は皆の質問です。学びの場とするために疑問点があれば安心して随時質問してください」と呼びかけWSをスタート。
WSのプログラムは「臨床研究デザイン」、「統計解析の原則・記述統計」、「単変量解析の構造」、「生存解析と多変量解析の構造」、「臨床研究に必要な図表」のそれぞれについて学ぶ講義と、実際に統計解析ソフトを操作しながら統計解析の手法を学ぶハンズオン、グループごとに仮想データを用いた臨床研究を模擬的に行うグループワークで構成。
「若い医師が学べる環境提供を」と藤田院長
講義やハンズオンに真剣に取り組むとともに、1日目、2日目とも夕食後の時間を使い、最終日の発表に向け各グループで遅くまでディスカッションを重ね、解析作業や発表資料づくりに努めた。
最終日の研究結果の発表では、シマアザミ(向春草)による脂肪肝改善効果、聴覚障害支援による認知症進行防止の有用性、離島病院の離職率と給与との関連性が仮想研究テーマとなった。仮想データを対象にして研究背景や研究デザイン、患者適格基準、観察項目、予測される交絡因子、統計学的検討などをまとめ、結論を導き出した。
ひとつの発表を終えるたびに森本教授が振り返りを行い、改善点をアドバイスしたり、疑問点を尋ねたりするなど、研究の完成度を高めるための指摘を行った。終了後、松浦院長が参加者に受講証を手渡した。
参加した徳之島病院の藤田安彦院長は「統計解析をしっかりと学びたいと思い参加しました。いずれの講義やハンズオンもとても参考になりました」。また「若手医師に、もっと受けてもらいたいと思いますので、徳洲会グループとして、こうしたWSをブロックごとに企画し、受講しやすい環境を提供していくことが望ましいと考えます」と話した。
熊本大学医学部附属病院の佐土原道人・地域医療・総合診療実践学寄附講座特任助教は「多変量解析の手法などを学びたいと考え、以前、熊本大学で開催された1泊2日のWSに参加しましたが、もの足りなくて今回参加しました」と説明。
「ニーズにマッチした取り組み」と佐土原・特任助教
佐土原・特任助教は元・岸和田徳洲会病院(大阪府)副院長で、徳洲会専門研修部会長を務めていたことがある。「専攻医(後期研修医)は、アカデミック(学術的)な関心が高まってくる時期です。専攻医を中心とした若手医師に、研究を学ぶ機会を提供するのはニーズにマッチした取り組みだと思います」と今後の継続開催に期待を寄せた。
参加者へのアンケートによると、WS全体への感想として「非常に有益であった」と回答したのが10人、「有益であった」が4人と好評だった。
自由記載のコメントでは「ハンズオンが楽しかった。自分でもソフトを使いこなせる自信が付いた」、「リアルな計画・発表ができ、コメントいただけて良かった」などの声が上がっていた。