2019年(令和元年)6月17日 月曜日 徳洲新聞 NO.1189 四面
読み解く・読み得
“紙上医療講演”25
骨から咬み合わせ矯正
今回のテーマは「顎(がく)変形症」。上下の顎骨(がくこつ)の大きさや形、位置などのバランスがずれ、咬(か)み合わせが悪くなる病気で、食べ物がうまくかめない、滑舌が悪いといった症状に加え、出っ歯や受け口など見た目にも現れます。審美的な目的だけで歯列矯正をする場合、保険適用されませんが、食べにくい、話しにくいなど機能障害がともない顎骨の手術が必要な場合は保険適用になります。顎変形症について共愛会病院(北海道)の長太一・歯科口腔(こうくう)外科医長が解説します。
長太一・歯科口腔外科医長 共愛会病院(北海道)
顎変形症には上顎(じょうがく)前突症(上顎前歯部が前に出ている状態。出っ歯)、下顎(かがく)前突症(下顎が上顎より前に出ている状態。受け口)、開咬(かいこう)症(上下の歯が咬み合わない状態)、偏位(顎の左右がずれている)などがあります。
咬み合わせの悪さを主訴に一般歯科を受診した場合、原因が顎骨にあると気付かず、歯列矯正だけ行い、思うような治療効果を得られないこともあるので注意が必要。一方、かかりつけ医が顎骨の異常に気付いたり、学校の歯科検診で指摘されたりするケースもあります。診断はレントゲンなどで顎骨を撮影し、ずれを計測して行います。
顎変形症を放っておくと、奥歯ばかりに力がかかり、歯を失う原因になり得ます。また、歯ブラシがうまく届かず、むし歯や歯周病になるリスクが高くなります。人によっては顎関節の痛みが生じることもあります。高齢になれば、入れ歯やインプラントの安定が悪くなることもあるでしょう。さらに、最近では就寝時に、いびきがすごい、日中眠いといった睡眠時無呼吸症候群との関連も注目されています。
術前(上)は下顎が前突状態で上下顎の正中もずれている。下は術後
治療は顎骨の成長が止まってから行います。これは身長が止まる時期と同じくらいなので、治療を受ける年齢層は高校生から大学生が最多です。また、もし親が成長期の子どもの顎骨の異常に気付き、口腔外科に相談に来た場合、程度によっては予防も可能です。寝る時に顎にバンドを装着するなどし矯正すれば、手術せずに治ることもあります。
治療は歯列矯正と手術を併用し、機能的にも審美的にも一番良いゴールを目指します。まず術前に半年から2年ほどかけて矯正、次いで手術を行い、最後にまた矯正で微調整するのが一般的な流れ。トータルで3~4年ほどかかります。
手術は画像診断で計測した「ずれ」の部分を切り出し、プレートで固定、骨が治癒するのを待ってからプレートをはずします。骨の治癒には半年ほどかかりますが、若いうちに手術をしたほうが、治癒にかかる時間が短くなるケースが多いです。
プレートには自然に体内に吸収されるものもありますが、固定する力が弱く、使える症例は限られます。手術は全身麻酔下で行います。術後は流動食から始め、柔らかいご飯が食べられ、咬み合わせが安定するようになってから退院します。
新しい技術として、患者さんの画像データをもとに3Dプリンタで顎骨の立体的な模型をつくる方法があります。手術で切り出す部分を事前にシミュレーションできるため、患者さんへの説明がしやすく、手術も正確に行えます。当院でも実験的に導入を始めました。
咬み合わせの悪さは顎骨にも問題が隠れていることがあるため、口腔外科への相談も忘れずに。顎変形症は命にかかわる病気ではありませんが、QOL(生活の質)向上のためには、若いうちからの治療が必要です。いくつになっても自分の歯でご飯を食べ、楽しくおしゃべりができるように、歯の健康を保ちましょう。