2018年(平成30年)7月30日 月曜日 徳洲新聞 NO.1144 一・二面
福岡徳洲会病院
TAVIを開始し手術困難例に対応
重症大動脈弁狭窄症の低侵襲治療
福岡徳洲会病院は経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI(タビ)/TAVR(タバ))実施施設として3月6日に認定を取得、同置換術を開始した。TAVIは重症大動脈弁狭窄(きょうさく)症(AS)のうち、高齢であることや呼吸機能の低下などにより、体力的に外科手術の実施が困難な患者さんに行う低侵襲な治療法。同院は5月31日に1例目を施行。TAVI実施施設は7月中旬時点で全国に142施設、同院は福岡県内で5番目の認定だ。徳洲会グループのTAVI実施施設は6施設に拡大した。
徳洲会グループ6病院で実施
「手術が難しい患者さんにも治療の選択肢を提供するためTAVIを開始しました」と山田部長
徳洲会グループでは福岡病院のほか湘南鎌倉総合病院(神奈川県)、千葉西総合病院、岸和田徳洲会病院(大阪府)、名古屋徳洲会総合病院、札幌東徳洲会病院がTAVIに取り組んでいる(表)。
福岡病院はTAVI開始に合わせ、心臓弁膜症(TAVI)外来を新たに開設。毎週水曜日の午前中に同外来診療を行っており、担当医は心臓血管外科の片山雄二副院長と循環器内科の山田賢裕部長(TAVIチームリーダー)だ。
TAVIは重症ASの根治療法で、2013年10月に保険適用となった。ASは心臓の左心室と大動脈の間にある大動脈弁の動きが悪くなる疾患。左心室は全身に血液を送り出す重要なポンプ機能を果たし、ASを発症すると血液を十分に送り出すことが難しくなる。
徳洲会グループのTAVI 実施施設と症例数(2018年6月末時点)
病院名 |
症例数 |
湘南鎌倉総合病院(神奈川県) |
342 ※このうち63件は治験で実施 |
千葉西総合病院 |
95 |
札幌東徳洲会病院 |
182 |
名古屋徳洲会総合病院 |
73 |
岸和田徳洲会病院(大阪府) |
180 |
福岡徳洲会病院 |
4 |
|
合計:876 |
発症初期には無症状なことも多いが、病態が進行すると胸痛、失神、労作時の息苦しさ、動悸(どうき)など、さまざまな症状を引き起こし、時に突然死を招くことがある。
診断は診察室で聴診により心雑音を聴取し、心臓エコー検査で確定診断をつける。
重症AS治療の第一選択は大動脈弁置換術(AVR)という外科手術だが、高齢で体力が低下していたり、肺疾患やその他の疾患を抱えていたりすると実施困難な場合があり、TAVIの対象となる。
AVRは胸部を切開し、人工心肺装置を用いて血液の体外循環を確保、一時的に心臓を止めたうえで、正常に機能しなくなった大動脈弁を切除し人工弁を縫い付ける治療法。
カテーテルにより重症ASを低侵襲に治療
一方、TAVIは先端に折りたたんだ人工弁が付いたカテーテルを、足の付け根の血管もしくは肋骨の間から挿入し、硬くなった大動脈弁の内側から人工弁を広げ、押し付ける形で留置する。手術創が小さく人工心肺装置を用いる必要もないため、低侵襲で身体への負担が小さいのが特徴だ。
具体的には①高齢者(おおむね80歳以上が目安)、②大動脈の高度な石灰化がある、③胸部に対する外科手術の既往がある、④冠動脈バイパス手術の既往がある、⑤ 頚(けい)動脈狭窄や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肝硬変などの合併症がある――など、いずれかに該当する患者さんはTAVIの対象になる可能性がある。
山田部長は「ASの多くは、加齢による大動脈弁や、その周囲の動脈硬化および石灰化が原因です。そのため高齢化が急速に進んでいる日本では、今後ますます患者数の増加が予想される疾患です。外科的手術不能例の重症ASの5年生存率は22%と、難治性のがんと同程度であり、生命予後(生存期間の見とおし)が非常に悪いことから、手術が難しい患者さんにも治療の選択肢を提供するため、地域の基幹病院としてTAVIを開始しました」と経緯を説明する。
多職種がハートチームとして一丸となり実施
TAVI実施施設の認定を取得するには「大動脈弁置換術(大動脈基部置換術を含む)が年間20例以上」、「冠動脈に関する血管内治療(PCI)が年間100例以上」など手術実績に加え、設備機器として「開心術が可能な手術室で設置型透視装置を備えている(ハイブリッド手術室)」、「速やかに開胸手術に移行可能」、「術中経食道心エコー検査が実施可能」、人員体制として「心臓血管外科専門医(常勤)が3人以上在籍」、「循環器専門医(常勤)が3人以上在籍」、「麻酔科医(常勤)が1人以上在籍」などハードルをクリアする必要がある。
福岡病院は14年に新築移転した際に、ハイブリッド手術室(血管造影装置を配備した手術室)を導入。新病院の設計時点ではTAVIは保険適用外だったが、すでに治験段階に入っていたため、いずれ保険適用となることを見越し、TAVI実施も視野に入れ同室の設置を決めた。
実際、同院では日常診療を通じ、手術が必要でもAVRは難しい患者さんを診る機会が時折あり、TAVI導入の必要性を実感していたという。
山田部長がTAVI導入のプロジェクトリーダーとなり、昨年10月以降、準備を進めてきた。今年1月からは重症の大動脈疾患や冠動脈疾患に関し、より良い治療方針を決定するため、ハートチームカンファレンスを開始、毎週火曜日の夕方に開催している。参加メンバーは心臓血管外科医、循環器内科医、麻酔科医、心エコー担当医、手術室、集中治療部、病棟の各看護師、臨床工学技士、生理検査技師、診療放射線技師、コーディネーター(事務職員)など多職種だ。
この多職種が参加するハートカンファで重症AS症例の治療方針を検討し、TAVIの適否判断などを行っている。同院は5月30日にTAVIの1例目を施行、6月には3人の患者さんに実施した。地域の医療機関への周知・広報活動などにより、徐々にではあるが患者さんが増えている。
「ASの主な原因である動脈硬化は全身機能にかかわる病態ですので、術前検査でAS以外の他の疾患が見つかることもあります。ASを治療し心機能が改善すれば他疾患の治療にも取り組みやすくなります。一人ひとりの患者さんに合った適切な医療の提供を通じ、元気な高齢者の方をもっと増やしていきたい」と山田部長は意気込んでいる。