徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

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Tokushukai medical group newspaper digest

2017年(平成29年)5月29日 月曜日 徳洲新聞 NO.1084 一面

欧州のストーマ推奨に待った
冨田・岸和田徳洲会病院外科部長が発表
大腸ステント使う有用性
米国消化器内視鏡外科学会議2017

岸和田徳洲会病院(大阪府)の冨田雅史・外科部長はSAGES(米国消化器内視鏡外科学会議)2017(開催地ヒューストン)で、「閉塞性大腸がんに対するBTS(Bridge to Surgery =術前準備)で大腸ステントを用いる有用性」をテーマに口演した。多施設共同臨床研究により実施した400例以上の結果をふまえ、冨田部長は成果を強調、今後さらに研究を進めることを明かした。「最近、海外では大腸ステントより従来のストーマ(人工肛門)を推奨する動きが見受けられますが、患者さんのQOL(生活の質)を考えればステントのほうが良い可能性があります。より良い治療を追求したい」と意欲を見せている。

50施設超共同426例研究成果

大腸ステントの有用性を世界にアピール。中央が冨田部長 大腸ステントの有用性を世界にアピール。中央が冨田部長

閉塞性大腸がんとは、がんが進行し大腸が狭窄(きょうさく)・閉塞している状態をいう。大腸が狭窄・閉塞すると、腸管内に便やガスなどがたまり、腹痛や嘔吐(おうと)などを起こすほか、最悪の場合、腸が破裂し死に至るケースもある。また、治療でがんの切除(外科手術)が可能でも、閉塞していると吻合は行えないことが多い。

こうしたリスクを解消するには、閉塞部分を解消し、たまっている便やガスなどを取り除かなければならない。その方法として、従来はストーマ(緊急手術で一時的に増設し、便などを取り除いた後に手術ではずすか装着したまま)を用いるのが一般的だった。だが2012年に大腸ステントが保険適用(対象疾患は閉塞性大腸がんのみ)になり、治療の選択肢が拡大した。

大腸ステントは形状記憶合金でできており、自己拡張型金属ステントと呼ばれている。内視鏡の先にガイドワイヤーを通して留置すると、金属が元の形に戻ろうとして自然と閉塞部を押し広げ、閉塞部が解消されれば、1カ月以内に手術で大腸がんを切除する。

日本で使用されている2 種類の大腸ステント。ワイヤーをらせん状に編み込み長軸に延ばしやすいタイプ(左)と、ワイヤーを網状に編み込み曲線に強いタイプがある 日本で使用されている2 種類の大腸ステント。ワイヤーをらせん状に編み込み長軸に延ばしやすいタイプ(左)と、ワイヤーを網状に編み込み曲線に強いタイプがある

ステントの留置・除去にはそれぞれ約20分しかかからない。ストーマのように①手術が必要、②術後合併症の危険性が高い、③高齢の患者さんなどは手術そのものが困難――といったデメリットがなく、患者さんのQOLをより高める機器として注目を集めていた。

ところが、もともと欧米ではBTSに大腸ステントを用いていたものの、がん患者さんの予後の悪さを指摘する論文が欧州で複数発表されたことから、14年に欧州消化管内視鏡学会(ESGE)ガイドラインが変更、BTSに大腸ステントを推奨しないことを明示。

今回、冨田部長が発表した内容は「大腸ステント安全手技研究会」が実施した多施設共同臨床研究によるもの。岸和田病院を含め、東邦大学や埼玉医科大学、東京大学など50を超える医療機関が参加し、BTSで大腸ステントを用いた計426例の検証結果を報告した。

冨田部長は臨床的成功率の高さ(93.8%)をはじめ、ステントによる穿孔(せんこう)(1.9%)や人工肛門の造設(10.6%)に至った割合の低さをアピール。最後に、今後は予後などをテーマとした研究を計画していることを示し、BTSの大腸ステント留置でも今回のように低い穿孔率を実現できれば、大腸ステント自体が大腸がんの予後を悪くしないことを示せるだろうとまとめた。

発表後、冨田部長は「演題採択率が50%以下の学会で発表させていただいたことは大変光栄」と満足した様子で、「規模の大きな研究で、十分に低い穿孔率を実現したことを、世界にアピールできたと思います」と振り返った。

ESGEガイドラインについては「穿孔率の高い報告のみが根拠になっており、成績が悪ければ予後が悪いのは、ある意味当然と考えられます」と指摘しながらも、「きちんと検証しなければならないので、今後、予後に関する研究を進めていきます。日本から欧州のガイドラインを変えるくらいの意気込みで臨みたい」と覚悟を見せた。

冨田部長の発表は同学会誌『Surgical Endoscopy』に投稿中。また、徳洲会消化器内視鏡部会が開催しているENDOCLUB(8月19日、岸和田病院)で紹介する予定。「徳洲会は全国に病院を展開しているため、スケールメリットを生かし、こうした共同研究ができたらいいです」と期待している。

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