徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

徳洲新聞ダイジェスト

Tokushukai medical group newspaper digest

2024年(令和6年)12月09日 月曜日 徳洲新聞 NO.1470 1面

野崎病院附属研究所
グループ研究所間で初連携
札幌東病院医学研究所と共同研究

野崎徳洲会病院附属研究所(大阪府)は札幌東徳洲会病院医学研究所と共同研究を開始した。野崎病院研究所の由井理洋・悪性腫瘍新規治療法開発研究部部長が責任者を務める基礎研究で、テーマは骨肉腫が肺に転移するメカニズム。一度に大量の遺伝情報を解析できる「次世代シーケンサー」を札幌東病院研究所が有することから、由井部長が同研究所の小野裕介ゲノム(全遺伝情報)診断研究部部門長に呼びかけた。徳洲会グループの研究所が連携して共同研究を行うのは初めて。由井部長は「同じグループ内の研究部門として、今後、組織立って活動していければと思います」と意欲を見せる。

骨肉腫の肺転移を解明へ

「同じグループの研究部門として組織立って活動を」と由井部長

骨肉腫は骨に生じる悪性腫瘍のひとつ。10~20代の青年期に多く見られ、主に大腿骨遠位部(膝の上あたり)に発症する。診断が付いた時には肺に転移しているケースが珍しくない。かつては手術しか治療方法がなく、5年生存率は20%程度。“不治の病”とも言われていたが、1980~90年の頃に抗がん剤による化学療法が行えるようになり、手術と組み合わせることで5年生存率は60~70%にまで上昇した。ただし、その後5年生存率は改善していない。

「徳洲会の研究機関同士の連携はメリットが大きい」と小野部門長

こうした状況を打破しようと、由井部長は小児科専門医として臨床も行いながら、「骨軟部腫瘍の転移メカニズム解明と抗転移療法の開発」をテーマとする研究活動を実践。骨肉腫のがん細胞が肺に転移し増殖する仕組みの解明に取り組んでいる。「5年生存率が30年以上改善しない要因のひとつには“肺に転移する際の良い治療法がないから”と言われています。他のがんと同様、転移先の臓器で増殖しないケースに注目しています」。

肺への転移について、由井部長は大学院に在籍していた15年ほど前から研究。そのなかで着目しているのが細胞骨格を調節するタンパク質のひとつ「Cdc42」だ。細胞骨格とは、人体の骨格と同様、細胞が一定の形を保っていられるようにするためのもの。これまでの研究で、由井部長は骨肉腫の移動にCdc42が重要なことを報告しており、それを肺転移に応用。

動物実験でCdc42をなくしたところ、肺で増殖しなかったことがあったため、現在、肺で増殖するメカニズムへのCdc42の関与を検証している。

「Cdc42は活性型と不活型を行ったり来たりするのが特徴で、活性型の時にはGEFというタンパク質、不活型の時にはGAPというタンパク質が関係します。ただ、GEFもGAPも種類が多数あり、どのタイプかが絞れない。Cdc42をコントロールするメカニズムを知るために、遺伝子のRNA(リボ核酸)をすべて読んで解析する手法があり、いくつか重要なGAPが判明。Cdc42を不活化するGAPの機能が骨肉腫では低下するため、Cdc42が活性化、転移が増えるという仮説を立てています」と、由井部長は説明する。

ただし、GAPの機能を低下させるメカニズムは明らかになっていない。そこで、一度に大量の遺伝情報を解析できる「次世代シーケンサー」を有する札幌東病院研究所に連携を呼びかけた。由井部長が期待しているのは、GAPの機能を低下させるように調節しているマイクロRNAの発見だ。

マイクロRNAは通常のRNAよりも小さく、人の遺伝子のさまざまな働きを制御することができる。今年、マイクロRNA分子を発見した米国の大学教授がノーベル生理学・医学賞を受賞し、注目を集めている。

目下、高肺転移性と低肺転移性の2つの細胞株を培養し、RNAを採取して小野部門長に送付。マイクロRNAを比較し、違いの有無などを検証している。研究所間のやり取りを複数回繰り返し、転移のメカニズム解明に力を注ぐ考えだ。

由井部長は「次世代シーケンサーは高額な機器のため、どこにでもあるわけではありません。小野部門長に『ぜひ一緒にやりましょう』と呼びかけました。これがわかると骨肉腫の肺転移のメカニズムのひとつが明らかになります。すぐに治療が可能になるわけではありませんが、医療の進歩に貢献できればと思っています」と期待を寄せる。

徳洲会グループ内の研究機関同士が連携し、共同研究を行うのは今回が初めて。小野部門長は「グループ内であれば連携が取りやすくメリットは大きいと思います」と強調する。

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