徳洲会グループ TOKUSHUKAI GROUP

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Tokushukai medical group newspaper digest

2015年(平成27年)8月3日 月曜日 徳洲新聞 NO.991 一・二面

吹田徳洲会病院
多がん腫にビーズ治療
進行再発がんへ新たな選択肢

吹田徳洲会病院(大阪府)は多がん腫・多臓器へのビーズ治療を開始した。これは新規塞栓材料のビーズと動注療法(腫瘍近くの動脈に抗がん剤を注入する治療法)を併用した新しい治療法で、がん性症状緩和と生存期間延長が目的。3大治療法が効かない進行再発がんの患者さんが対象だ。同治療法はいまだ手法が確立されておらず、原発性肝がん以外のがん腫や肝臓以外の臓器に積極導入している施設は世界的にもわずか。関明彦がんカテーテル治療センター長(腫瘍内科医)は同治療の開発・治験に携わった経験を生かし、安全な手法の周知に努める考え。

QOL改善・症状緩和目指す

2,000 例以上のビーズ治療実績をもつ関センター長 2,000 例以上のビーズ治療実績をもつ関センター長

がんの3大治療法は外科療法(手術)、化学療法(抗がん剤)、放射線療法だが、根治できないケースも多い。このため現在のがん標準治療は根治だけでなく「生存延長」、さらには「QOL(生活の質)の改善と症状緩和」を目標としている。

吹田病院は4月、「がんカテーテル治療センター」を腫瘍内科の一部門として開設した。同センターの治療対象は、がん3大治療が不応(効果がない)もしくは副作用などにより不耐(耐えられない)の進行再発がん患者さん。その多くが、高度進行がんで、がんの増大にともなう疼痛(とうつう)や出血、臓器機能低下による極度の倦怠(けんたい)感など、さまざまながん性症状に苦しんでいる。このため「治療目標はまず、がんとの共存です」と関センター長。

ビーズ製剤に抗がん剤を含ませ、腫瘍近くに注入 ビーズ製剤に抗がん剤を含ませ、腫瘍近くに注入

同センターではビーズ治療によって対象病変の縮小とともにQOL改善やがん性症状緩和を図り、患者さんの社会復帰を目指す。同治療後に全身状態が改善、3大治療に戻れることもあり、「一部のがん腫はビーズ治療がワンポイントリリーフとなって生存期間の延長が図れた例もあります」。

ビーズ治療とは、昨年1月に保険適用となった新しい治療法だ。腫瘍性病変に対してカテーテルを通して微小(0.1~0.5㎜程度)なビーズを注入。①がんに血液を供給する動脈をビーズで詰まらせ(塞栓)、がんを兵糧攻めにする、②ビーズに抗がん剤を含ませることで、標的腫瘍に入ったビーズから抗がん剤を数日間高濃度に放出、強い抗腫瘍効果を発揮する――ことで、がん組織を壊死(えし)させる新しい化学塞栓療法のひとつ。

ビーズ製剤は従来の塞栓物質であるゼラチンスポンジ(1~2㎜)に比べかなり小さく、標的の手前で詰まることがないため、腫瘍の中に入り込み、そこからも強固に塞栓する。また、以前より抗がん剤の放出時間がかなり長くなり、高い局所効果が得られるようになった。

従来のゼラチンスポンジは粒が大きいため、標的のがんより手前で血管に詰まってしまっていた(左)が、ビーズ製剤はがんの中にまで届いて塞栓、抗がん剤を放出する(黄色い物質が塞栓物質) 従来のゼラチンスポンジは粒が大きいため、標的のがんより手前で血管に詰まってしまっていた(左)が、ビーズ製剤はがんの中にまで届いて塞栓、抗がん剤を放出する(黄色い物質が塞栓物質)

「全身にがんが転移していたとしても、経過をよく観察すると、各臓器で進行スピードや悪性度、症状はまちまちです」と関センター長は局所療法の重要性を強調。「疼痛を軽減したい」、「喀血(かっけつ)を止めたい」など、医師が患者さんの要望を聞き出し、目標を共有することで、がん性症状を来している病変や、予後を規定する可能性の高い臓器の病変に絞って治療。少ない副作用でQOLの向上した状態での延命効果が期待できる。

「たとえば肺がん患者さんはステージが進むと頻繁に呼吸困難や喀血を来し、人目を気にして外出できなくなったり、睡眠さえ困難になったりすることがあります。たとえ一定期間であっても喀血や酸素吸入から解放された生活を送れる意義は大きいと思います」(関センター長)

すべての標準治療や治験治療が奏功しなかった転移性肺がん症例。治療前(左)に比べ治療後は3つあるリンパ節転移が著明に縮小、喀血が止まり食事可能となった すべての標準治療や治験治療が奏功しなかった転移性肺がん症例。治療前(左)に比べ治療後は3つあるリンパ節転移が著明に縮小、喀血が止まり食事可能となった

関センター長が前職でビーズ治療を施行した喀血をともなう原発性肺がん患者さん7例(ステージ3Bが4例、ステージ4が3例)のうち、3カ月後止血率は100%、無気肺(がんによって気道狭窄(きょうさく)が生じ末梢(まっしょう)の肺に空気が送られず息苦しい状態)を合併していた4例の改善率は50%だった。

ただ、同治療法はすべてのがんに効果があるわけではない。がん腫や進行度、病変部位によっては治療適応にならないこともある(表)。

胃、食道など消化管、脳や脊髄など神経系組織は、同治療法の局所効果が高過ぎ、消化管穿孔(せんこう)や高度の神経障害を引き起こすリスクが高く、「実施の可否には慎重な判断が必要です」。

がんは、その性質や進行スピード、悪性度が個々で異なるだけでなく、同じ患者さんでも病期によって刻々と変化。同治療では、それに合わせて最適なビーズや抗がん剤の種類、注入方法も変える必要がある。

判断を誤ると、時に重大な合併症につながる。

具体的には、標的以外の場所にビーズが流出してしまう異所性塞栓(脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす)や、ビーズ治療の数時間後に腫瘍内の血流動態が変化することで起こる腫瘍破裂、含ませた抗がん剤が効き過ぎて腫瘍を壊し続け、数日後に臓器不全に陥る腫瘍崩壊症候群――などが挙げられる。これら重大な合併症を回避するには、適切な指導者の下で数多くのビーズの使用経験を積むことが大切だ。

医師の研修受け入れも

がんビーズ治療の適応

適 応 50%以上の確率で腫瘍が縮小 肝細胞がん、乳がん、卵巣がん
比較的長期間の症状抑制が可能 原発性肺がん、大腸がん、子宮がん、肝内胆管がん
個体差がありケースバイケース 胃がん、食道がん、腎がん、悪性黒色腫、軟部腫瘍、膀胱がん
適応外 血液腫瘍(悪性リンパ腫、白血病)

*関センター長のこれまでの経験から効果を推察

原発性肝がんはマニュアル化が進んでいるが、その他のがん腫や臓器はまだ、そうした指標がなく、経験や知識をもとにケースバイケースで対応するしかないのが実情。

関センター長は同治療の開発段階からかかわっており、治験にも参加。2000例以上という国内外でも有数の豊富な経験をもつ。その経験から得た安全な手法を伝えるため、治療データの学会・論文発表や講演などを数多く実施。ただ、「手技の微妙なコツは言葉で伝えにくく、実際の臨床現場でないと、理解が難しい面があると思います」と、今後は技術修得希望の医師を一定期間、同院で受け入れる研修体制も検討している。

「当院は3大標準治療以外に、ビーズ治療という新しいオプションを導入しました。〝がんとの共存〟を目指し、複数のがん診療科による複合的治療介入を今後も続けていきます」と、関センター長は意気込んでいる。

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