2020年(令和2年)11月23日 月曜日 徳洲新聞 NO.1263 四面
札幌東病院
院内の臨床倫理観を醸成
外部講師招き全8回セミナー
札幌東徳洲会病院は6月から半年かけて、外部講師を招聘(しょうへい)し全8回の「臨床倫理セミナー」を実施している。これは臨床倫理にそぐわない行動を取っている可能性がないか、職員に気付きを与えるのが目的。またセミナーに呼応する形で院内に倫理コンサルテーションチームを立ち上げた。倫理的な問題が生じた際の相談窓口として機能し、院内の臨床倫理観の醸成に寄与している。
「医療者と患者さんとの考え方の差をなくしたい」と丸藤顧問
倫理とは、誰もが普遍的に信じている善を成し遂げるための価値観。1960年代に米国で、臓器移植や遺伝子治療などでの倫理的問題の議論のなかから生命倫理という学問が発展、ここから医療現場で日常的に守るべき倫理として、臨床倫理や研究倫理という考え方が生まれた。
札幌東病院での「臨床倫理セミナー」を企画した丸藤哲・顧問兼侵襲制御救急センター長(日本集中治療医学会臨床倫理委員会アドバイザー)は、「今回のセミナーは臨床倫理を守ってくださいと呼びかけるのではなく、職員が臨床倫理からはずれた行動を取っていたかもしれないと、自ら気付いてもらうのが狙いです」と強調する。
たとえば患者さんは医療従事者を「上の立場」と見るケースがあり、医療従事者もその考えに引っ張られてしまうことがある。こうした価値観のまま臨床を行うことで、医療従事者と患者さんとの間で摩擦が生じ、医療裁判へと発展するケースもある。
これに対し丸藤顧問は「〝患者さん〟と、ひとくくりにせず、個人としての生き方を尊重しなければいけません」と指摘。「臨床倫理というと難しく感じるかもしれませんが、医療従事者と患者さんとの考え方の差をなくすために、より開かれたコミュニケーションを取り、凝り固まった価値観から脱却することが大切です」と説明する。
こうした思いから全8回のテーマを設定。具体的には「臨床倫理の基礎と実践」、「循環器疾患をめぐる臨床倫理」、「実践的4分割表の使い方」、「DNAR指示、終末期医療に関する法律問題」、「看護の視点からみたアドバンスケアプランニング」、「終末期医療ガイドラインと臨床倫理」、「アドバンスケアプランニング」、「インフォームドコンセント」。講師は第一線で活躍する専門家を全国から招聘した。
臨床倫理セミナーでは多職種が熱心に聴講
受講した職員からは「つい自分の価値観を押し付けがちになるが、つねに患者さん自身がどうしたいのかを中心に、かかわっていくべきと再認識した」、「今後、患者さんや家族にどう介入していくべきか、当院ではどう実践していけるかなど、考え方が変化した」など感想が聞かれた。丸藤顧問は「8回の講義だけで劇的に変わることはないと思いますが、何かしら気付きがあるとうれしいです。次のステップは実践のなかで学んでいかなければなりません」と話す。
実践で学ぶためのサポートとして、4月に倫理コンサルテーションチームを発足。同チームは医師、看護師、医療ソーシャルワーカー(MSW)からなり、職員から寄せられた倫理的な課題に対し、一緒に考え答えを導き出す。解決が難しいケースでは、院内の倫理委員会にかける。
丸藤顧問は「これらの活動により、職員がどのように変わるか、そのアウトカム(結果)をもって次のステップを考えていきます。臨床倫理は〝生命だけは平等だ〟を理念とする徳洲会グループ病院・施設すべてに必要なもの。当院の取り組みが参考になれば良いと思います」と力を込める。