直言
Chokugen
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直言 ~
乘富 智明(のりとみともあき)
福岡徳洲会病院 院長
2020年(令和2年)11月23日 月曜日 徳洲新聞 NO.1263
世間の新型コロナウイルス感染症(COVID─19)に対する危機感が最高に達しつつあった4月9日に、当院でCOVID─19院内感染が発生したことは以前の「直言」でご報告しました。あの時はCOVID─19対応でない一般病棟の入院患者さんや病棟スタッフから有症状者、PCR検査陽性者が出ました(当時は、まだ院内にPCR検査の設備がなく、行政検査と外注に頼るしかありませんでした)。この院内感染の終息には、その後、2週間を要しましたが、幸いワンフロアのみに限局化することに成功し、4月23日には救急の全面的な受け入れを再開、その後は外来診療、入院、手術なども通常の診療体制に復しました。他疾患で入院したCOVID─19感染者さんが起点でしたが、その後の院内感染は、やはり私たちの感染対策意識が不十分であったからでしょう。保健所の調査でも、これに関して何点か指摘があり、院内環境の整備と私たち自身の感染対策意識の再確認に取り組みました。
当院は感染症指定病院であり、10階北病棟に陰圧室2床を有し、そこに隣接して感染用エレベーターが1階から直結しています。院内感染が発覚しクラスター(感染者集団)化を懸念した時、病棟建物の形状がL字型をしているため、L字の感染側の一辺の領域をすべて隔離しCOVID─19対応エリアとしました。同エリアの入り口で個人防護具(PPE)着脱の手順も決め、COVID─19対応と一般患者対応との動線がクロスすることがないようにしました。また、COVID─19対応病棟に限らず、面会は完全に禁止し患者さんへの荷物の受け渡しはエレベーターホールから病棟につながるドアのところで行いました。後日、この病棟はCOVID─19陽性者を常時受け入れ可能なベッド8床を確保、さらに感染者増加時は最大17床まで拡大することで福岡県に届け出を行い、10月14日より県の新型コロナウイルス感染症重点医療機関の指定を受け、COVID─19対応病棟のハイケアユニット(高度治療室)入院医療管理料1の算定が可能となりました。
外来診療は患者さんの動線の1方向化に腐心しました。患者さんが病院入り口から建物に入るところで検温エリアを通っていただき、受付、各診療科の受診、検査、会計、薬局、出口へとソーシャルディスタンスを確保しつつ移動できるよう配慮、要所に職員を配置し患者さんが困らないように案内に努めています。
また、COVID─19対策として有熱外来も設置しています。これは一般に言う帰国者・接触者外来に似ていますが、当院に受診や入院で来られたすべての患者さんを対象に、発熱を主訴として来られた方と病院入り口の検温で37・5度以上の発熱を認めた方は、病院メインエントランスとは別の臨時入り口にご案内し、他科外来とは隔絶したエリアにある有熱外来で対応します。有熱外来は24時間対応で、ビニールシートで隔てられた当番医から問診を受けていただきます。当番医は内科のみならず外科系も含めた全科で応援を出しています。外科系医師でもCOVID─19を効率よく検知できるように、問診の手順をマニュアル化、それに従って診療を進めていきます。問診でCOVID─19感染が疑われないならば、各科外来にご案内、呼吸器症状を認める場合は胸部CT(コンピュータ断層撮影)を行い、異常があれば、その場で内科専門医に診療を引き継ぎPCR検査の適応を判断、その他、やはりCOVID─19が疑わしい場合も内科専門医に連絡しPCR検査――などパターン化しています。極力、病院入り口でCOVID─19感染者を検知する取り組みです。日勤、当直と、全科でシフトを組んだ有熱当直を別に設置していますが、医局の先生方も快く協力していただき感謝しています。
当初は補助金を利用したプレハブ外来・病棟の設置も模索したのですが、院内クラスター対応からの流れで病棟の改変が完成したことや、建築法上の取り扱い、マンパワー、電源その他のインフラ整備など、さまざまな障害が明らかとなり断念しました。最終的には今ある施設・設備を有効利用し、当院なりに新しい状況への適応ができたのですが、これは各部署・診療科の垣根を越えた理解と協力あってのことでした。皆の柔軟な発想での対応に対し、感謝の念に堪えません。
コロナ対策も皆で、頑張りましょう。